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ドラゴンさんです

「ほらほら、起きなさいな」

『オナカイッパイデシュ』

 お腹一杯でしゅじゃねえよ。寝ぼけてんのか? ほら、爺ちゃんが迎えに来たぞ。

『ミュムムゥ』

 お、目が覚めたみたいだな。

 そしたら、爺ちゃんに元気だと伝えてくれよ。そうじゃないとオレのじいちゃんの形見の屋台が、がれきに埋もれちまうんだよ!

「ユーキ、まだかい!」

「ユーキ、ドラゴンが近づいてくるぞ!」

 もうちょっとよ! ほら、こっちにおいで。抱っこしてやるからな。

 

『む、孫の気配である』

 そうしたら、街を破壊しているドラゴンの大群の中から、ひときわ大きいドラゴンがこっちに向かってきたんだ。

 その姿に、街の連中は阿鼻叫喚。蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 うおお! でけえ! クレーン車が翼をはやして飛んでいるようなもんだよこいつは!

 全身金色だよ。顔がいかついよ。お寺とかに置いてある置物そっくりだよ!

『ジイサマ、コッチ』

『む』

 ここだ爺ちゃんドラゴン! あんたの孫はここだよ畜生!

 おっかねえよう! サキもウキも唖然としているよう! 何故かリートとリルとフルが巨大な獅子と狼と麒麟に変化して臨戦態勢だよう! 人目がなくてよかったよう!

『ジイサマ タスケテモラッタ』

『むむ』

 ちびドラゴンの呼びかけに、爺ちゃんドラゴンはゆっくりと着地したんだ。それでも地響きはするんだけどね。

 ほら、爺ちゃんのところにお行き。そんで街を壊すのやめさせてよ!

 おっと、食べかけのフロランタンも持っていきな。

 って、爺ちゃんドラゴンがやけに冷静ね。パタパタ飛んで行くちびドラゴンの様子をうかがっているわ。

 お、無事爺ちゃんドラゴンの頭に着地したようだな。よかったな。

 でもな、フロランタンをじいちゃんの頭上で食うのはやめたほうがいいと思うぞ。プレートリーフのカスがボロボロ落ちているんだけどな。

 そしたら再び頭に直接ドラゴンの声が響いたんだ。

  

『ヒトどもよ、我の孫は無事見つかった。これに懲りたら幼生のドラゴンを二度と攫うではないぞ。これは貴様らの記憶への置き土産である』


 すると爺ちゃんドラゴンは大空を見上げるように首を伸ばしたんだ。

 続けて耳をつんざくような咆哮。

 その咆哮に、オレ達はみな心臓を握りつぶされるような恐怖を植えつけられ、気絶してしまったんだ。

 

『おい、そこのヒトの嬢ちゃん』

 ん? 誰か呼んだか?

『お前じゃお前、黒髪のお嬢ちゃん』

 えーっと、オレだよな。

 目を開けてみると、いつものサイズに戻ったリートとリルとフルがオレの周りを取り囲んでくれている。

『お嬢ちゃんとお連れさんが孫を助けてくれたそうだな。礼を言う』

 いえいえ、ご丁寧にそんな。助けたのはサキ姉さまです。って、姉さまとウキも目を覚ましたね。でも、他の人たちは今だ気絶したままなんだけどな。

『お前たちだけ咆哮の魔力から開放したのだ。愚かなヒトどものことであるからな。我とお嬢ちゃん達の出会いを目撃して言いふらす輩もいるであろう。だからまずはこの場から立ち去れ。わかったな』

 はいわかりました。サキ、ウキ、聞こえた?

「急いで宿に戻るよ、ユーキ! ウキ!」 

 さすがのサキ姉さまも顔が真っ青だよ。

『さっさと行かんか!』

「はいっ!」

 爺ちゃんドラゴンの剣幕に押されながら、オレ達は街の人々全員が気を失っている中、宿に戻って、オレ達も気を失ったふりをしたんだ。

 

「事情を知っている者はおるか!」

 ドラゴンたちが立ち去ってからしばらくの後、官憲のおっさんたちが馬にまたがってあちこちで被害の確認や発生原因の調査を行っているんだ。

 オレ知らねえっと。


「お客さん達も災難でしたね。街がドラゴンに襲われるなんて初めての経験ですよ」

 これは宿屋のご主人がオレたちに掛けた言葉。

「まあ、被害を受けたのはいつも偉そうにしている連中の館ばかりでしたからね、市場は無事ですよ」

 よしよし。オレたちがちびドラゴンを爺ちゃんドラゴンに返したのはばれてないみたいだな。


「今日は気疲れしたわ」

 そうねサキ姉さま。

「俺は腹が減ったとユーキに言う暇もなかった」

 よかったな。今から思う存分言えるぞウキ。

 そうだよね。疲れたよね。なら、ウナギ食べちゃおうか!

 なんだよその嫌そうな顔はサキ、ウキ。

「ここで興奮鰻ステロイールはちょっと食欲がねえ……」

 まあ任せてみなよサキ。

「魚は好きじゃないと言っておかなかったかユーキ」

 そう言いながらいつも魚料理に食い付きがいいのは誰だよウキ。

 お店の味とまではいかないけれど、家庭料理くらいの味には仕上がると思うからさ。楽しみにしていてよ。

 

 まずは冷やしておいたウナギに蒸留酒を注ぐ。

 動きの鈍ったウナギさんは、これで見事に酔っぱらうんだ。

 そして取り出しましたるは『目打ち』

 ウナギをもらってきたときに用意しておいた長い木の板にウナギを乗せて……。

 ぶすっ!

 ウナギの頭を目打ちで刺して木の板に固定するんだ。

 ホント、オレってごうが深いよな。ドラゴンは逃がしてウナギは美味しく頂いちゃうんだものな……。

 

 なんて、落ち込んでばかりはいられねえ。

 ウナギは背から開き、骨とキモを取りはずす。

 そしたら食べやすい長さに切って、串を打っていくんだ。

『串打ち三年、裂き八年、焼き一生』

 っていうしな。半分素人のオレにはお店で出すほどきれいには串を刺せないけれど、何とか身が落ちないように固定はできたんだよ。


 次はグリルの準備。

 一番下はリートがこしらえてくれる炎。で、その上に岩板。これでウナギに直火が当たらないようにするのと、ウナギから滴る脂がリートの分身を汚さないようにしてあげる。

 その上には串焼き用の焼き台。

 これで準備完了だ。


 まずは頭と骨をカリカリになるまで焼いてから、醤油やシロップや酒を入れた鍋で煮詰める。

 これがタレになるんだよ。

 

 身は一旦両面を焼いて白焼きにしてから、今度は少し蒸してあげるんだ。こうすると身がふっくらするんだよ。

 そしたら今度は、さっきこしらえたタレに漬けつつ、もう一度両面をこんがりと焼いてあげる。

「ユーキ、美味しそうな香りがいいねえ」

「何だこの食欲をそそる香りは!」

 これはオレの国の定番うなぎ料理。『ウナギのかば焼き』だよ!

 

 ほら、まずはこれだけで食べてみなよ。

「へえ、ふわっふわで甘くて美味しいわ」

「タレが美味いぞタレが! 皮もパリパリで美味いぞ!」

 そうだろそうだろ。この『一手間』に辿り着いたご先祖さまに感謝だわ。


 姉さま、ウナギには絶頂檸檬酒エクスタシトロンワインが合うと思うけど、飲む?

「ふう、これはいい組み合わせだね。イールのおいしい脂と旨みがさっぱりとワインで流れるよ」

「ユーキ、オレにもだ!」 

 お前はノンアルコールの果汁にしておくからな。あと、オレも今日は飲まないからな。

「ん? 何してんだいユーキ?」

 ご飯を炊いているんだよ。当然でしょ。

「ああ、これはご飯にも合いそうだものね」

 そうでしょ? オレはご飯に乗せて食べようと思ってさ。

「俺も食いたい」

 そう思って沢山炊いているよ。ウキ。


 ふっふっふ。ご飯が炊けたわね。

 そしたらオレはお茶碗にご飯を軽く盛ってから、かば焼きを一切れ乗せて、タレをちょっとかけてあげたんだよ。

 ああもうたまんねえな。

 ふわふわの湯気に脂とタレの甘い香りが混じって鼻腔をくすぐるわ。あん、感じちゃう。

 ご飯の色がちょっと黄色いのも愛嬌だぜ。

 それじゃ、いただきまーす!

「待ちなさいユーキ!」

「待てユーキ!」

 待たないぜ! 止まらないぜ。

 ああん、ふわふわの身とカリカリの皮とホクホクのご飯にタレが絡まってなんて美味しいの!

 身体がとろけちゃうわ。うな丼を思いついた人って天才よね。


 ん?

「ユーキ、お前はいつからそんな意地悪になったんだい?」

「俺はな、俺はな……」

 はいはい。ちょっと味見をしただけじゃないの。

 姉さまはこのお茶碗でいいかしら?

「ああ、やっぱりお前はいい子だねえ」

 ウキはラーメンどんぶりでいいな。

「お前は俺のことをよくわかっている奴だ」

 ほら、それじゃ焼けてるウナギは全部食べていいよ。すぐに追加も焼いてくるからね。好きなだけご飯に乗っけて食べなさいね。

 タレもどうぞ。


 じゅじゅぅ。

 

 うーん。うな丼をかっ込みながらウナギのかば焼きを焼くのもシュールだわ。

 串を打ったウナギも炊いたご飯もまだまだあるし、ウナギのお陰で元気いっぱいだし。今宵は長くなるわね。

 するとドアをノックする音。

「失礼します」

 おや?

「何だいご主人。こんな時間に」

 サキ姉さまが扉を開くと、宿のご主人がそこに立っていたんだ。

「食事の最中に失礼します。つい今しがた、皆さんのところにお客さまがお見えなのですが、お通ししてもよろしいでしょうか?」

 お客さん?

「老人と小さな女の子なのですが……」

 そしたらサキは一旦目を閉じて何かを念じるようにしたんだ。

「ああ、通してくれて構わないよ」


 宿のご主人と入れ替わりにやってきたのは、見事な金髪に同じく金髪の顎ひげを蓄えた、薄茶色の瞳が眼光鋭い高級そうな衣服をまとった爺さんと、まだ三歳くらいかな、赤銅色のおかっぱ髪に赤目の可愛らしい女の子だったんだよ。

 えーっと。誰だろ?

 そしたら、宿の主人が出てったところを見計らって、爺さんが口を開いたんだ。

「ヒトのお嬢ちゃんたちよ。昼間は世話になった」

 ん? 爺さんと女の子なんか世話したっけ?

「ふろらんたんオイチカッタ」

 ん? こんなメンツにフロランタンを売った覚えはないぞ。さては土産にもらったか?

 なんでひきつっているのサキ? 何で身構えているのウキ、リート、リル、フル?

「わからぬか?」

 わからん。

 なんだよそのアホの子を見るような眼は。初対面の乙女に向かって失礼だろ!

 そしたら爺さんはため息をつきながら自己紹介を始めたんだ。

「ワシらは昼間のドラゴンである」

 へえ、さいですか。ドラゴンさんね。


 って、ええっ!

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