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さすがだわ姉さま

「おい天使」

 村での爺さんとの会話を聞いていやがったかこの野郎。

「おいこら天使、腹減った」

 それが人にものを頼む態度かウキ。おやつこしらえるのやめるぞ。

「すまん」

 わかればよろしい。

 ほれ、いつもいつもうるさいからな、専用のウキ袋にパイを詰めといてやったからな。これ食ってろ。

 本当に幸せそうに笑うなこいつは。

「ウキ、あたしにもジャムのを一つよこしな。さて、そろそろ次の街だね。ウキ、ユーキ、リタイアメントキャッスルで発行してもらった『永久滞在証』を用意しとくようにね」 

 へえ。この滞在証で次の街にも入れるんだ。

「『永久滞在証』でどの街に入場できるかという効力は、発行した街のメンツと信用でもあるからね。『リタイアメントキャッスル』のそれより強力なのは、それこそ『ゴッドインパルス』の滞在証くらいのものさ」

 ゴッドインパルスって、目的地よね。

 そっか。この旅も、目的地に着いたら終わっちゃうんだよね。そしたらオレどうしよう……。

「ユーキ、この絶頂檸檬のジャムは素晴らしく美味いな」

 ああそうかい。ありがとね。ウキはいつも平和でいいな。


 街にはあっさり入場できたんだ。名前も今度はバッチリ自分で書いたぜ。

 街の名前は『パインビーチ』だけど別に海水浴場があるわけじゃない。

 ふーん。リタイアメントキャッスルとはちょっと違う活気だなあ。なんというか、荒々しいというか。

「ここは多くの探索者が拠点としている街だからね。しつこいようだけど、路地裏に一人ではいっちゃいけないよ」 

 はーい。反省してまーす。

 

 オレ達はまずは宿を決めてから、いつものように市場を回ってみたんだよ。


 へえ、これはでっかい落花生だなあ。握りこぶしを2つ並べたくらいのサイズだよ。

「お嬢ちゃん。それは精力落花生スタミナッツだよ。乾燥させてあるから、後は殻を剥いて中身を煮るなり焼くなりと好きなように調理できるよ」

 精力落花生?

「ああ、お嬢ちゃんにはまだ早いかな。それより、そこの兄ちゃんと姉ちゃん、一つどうだい」 

 うわあ。サキ姉さまがいきなりブチ切れモードだよ。

「あたしにそんなもんが必要に見えるのかい?」

 店員さんを睨みつけるサキ姉さま。いきなりのことにビビりまくりの店員さん。

「い、いえ、いえね。普通に食べてもおいしいですからね。この街の名産品ですから、よかったらお一つどうぞ。こちらお試しでけっこうですんで……」

「それならいいんだよ。以後気をつけるんだよ!」

「はい! またのご来店をお待ちしております!」

 ひでえな……。

 でもこれで、無料で精力落花生をゲットだぜ!


 それはオレが普段見慣れたピーナツの五倍くらいの大きさ。どちらかというとやたらでかいアーモンドって感じかな。

 これでおやつのバリエーションがさらに広がるわ。

「スタミナッツは食べ過ぎるとのぼせるからね。気をつけるんだよ」

 わかったわサキ。

「俺はのぼせても構わん」

 アホかウキ。

 

 そして次の場所。

 って、こりゃまたでっかいウナギだなあ。

 次に見つけたのは木製の生け簀に入れられたウナギ。

「これは興奮鰻ステロイールだよ。こいつを食えば夜もバッチリさ」

 わかった店員さん。それ以上余計なことは言うなよ。

「どうだい水髪の色っぽい姉さん、これを食ってオレとハッスルしないかい?」

 あーあ。言っちまったよ。

 はい、姉さまブチ切れ。

「あたしと誰がハッスルするんだって? もう一回言ってごらん?」

 ちなみに店員さんはウキに胸倉を掴まれてブラブラしている。

 可哀想に。店員さん、顔真っ青だよ。

「すいませんすいません! 許して下さい!」

「それだけかい?」

「あ、このウナギはこの街の名産なんすよ! よかったら一匹お持ち帰りください! もちろんお代は結構ですう!」

「そうかい。それならお言葉に甘えるかね。ウキ、降ろしておやり」

 はい。これでウナギも手に入りました。

 草で編んだ魚篭びくのようなものにでっかいウナギを一匹入れてもらってお持ち帰り。

 ちなみにまともに購入すると一万エルくらいするらしい。

 おっかねえな。サキ姉さまは。

 

 ところで、この街ではピーナッツとウナギはどうやって食べるのかな?

「なら、ちょっと早いけど夕食にしてみるかい?」

 オレ達が入ったのは街の中心街にある大きな食堂。

 すぐに給仕のお姉さんがこちらに来たんだ。

「いらっしゃいませ。何になさいますか?」

「スタミナッツとステロイールを使った料理をお願いできるかい」

「かしこまりました」

 どんな料理が出てくるかな。楽しみだなあ。まさか『アレ』ってことはないよな。

 ……。

 畜生アレが出てきたよ。

 スタミナッツの方は茹でたのとローストしたのが出てきたんだ。うん、オーソドックスだね。これはヤミツキになるかも。

 でもね、もう片方がちょっとね……。

 出てきたのは『ステロイールのゼリー寄せ』

 はい、紳士の国のウナギ料理で有名なアレです。

 サキ、ウキ、これ食べるの?

「ん? あたしゃゼリーのところしか食べないよ。身は油まみれ骨だらけで好みじゃないね」

「俺は魚はあまり好きじゃない」

 うーん。

 とりあえず食べてみるか。まずは、ゼリーのところから。

 ……。

 酸っぱい……。脂っぽい……。美味しくない……。

 それじゃ身の方を。

 ……。

 脂っぽい……。骨っぽい……。美味しくない……。

 あら、でも思ったより泥臭くはないなあ。きっとウナギ自体は上質なんだろうなあ。

 ん?

 んん?

 何だか体が温まってきたような気がする。

「ステロイールは味を楽しむものじゃなくて、その後の効果を期待するものだからね。滋養強壮効果は抜群だよ」

 そういうことなのか。だから人気のメニューなのね。でもさ、どうせ食べるなら美味しく食べたいよね。

 

「ところでユーキ、この街には三日ほど滞在するつもりだけど、屋台は出すのかい?」

 うん。ここはオーソドックスに棒パンフレンチトーストを売ろうかと思ってさ。

「そうかい。あたしとウキはこの街では商売はしないから、手伝ってあげるよ」

 うわあ。ありがとう! でも何故商売しないの?

「まあ色々あってな。路銀も豊富だし、わざわざ働かなくてもいいってことだ」

 働いたら負けという考え方は危険だぞウキ。

 

 宿に戻ったオレ達はそれぞれ自由時間。

 それじゃ、おやつの仕込みでもすっかな。ちなみにウナギはリル冷蔵庫行き。

 まずはスタミナッツの殻を剥いてから、中身を薄切りにしてあげる。で、それをトレーに並べてオーブンでローストするんだ。

 その間にシロップと生クリームを用意する。香り付けはバニラのような『甘茎草』

 さらにはあらかじめ買っておいた小ぶりのプレートリーフもたくさん用意したんだ。これはちょうど手のひらサイズくらいのものを選んで買ってきたんだよ。

シロップ、生クリームは鍋に入れて煮詰めてあげる。煮詰まったところに、ローストしたスタミナッツを投入!

 すかさず混ぜたら、それをプレートリーフに盛りつけて行くんだ。

 で、全て盛りつけたら再びオーブン行き。

 うーん。甘い香りが素晴らしいわ。

「今度は何をこしらえているんだい?」

「ユーキ、腹減った」

 焼けてからのお楽しみだよサキ。お前はまだウキ袋にパイが残っているだろうよウキ。

 よっしゃ。焼きあがったぜ。

『スタミナッツとプレートリーフのフロランタン』の完成です。

「これはまた変わったお菓子だねえ」

 この状態だと熱くてまだ食べられないから、明日の楽しみにしていてね。

「ユーキ! 口が焼けた! 水だ水!」

 つまみ食いしてんじゃねえぞウキ。焼けたばかりのカラメルをいきなり口に入れる奴がいるかど阿呆! 


 ということで、今日のところはこれでお休みなさい。

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