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楽しくなってまいりました

 オレ達がこしらえた料理をメイドのコスプレ?をしたきれいなお姉さん達がそれぞれの席に運んでいったんだ。

 イスムのおっさんがこしらえたのは『岩石蜥蜴バシリスクリザードの串焼き』

それに透明のソースが添えられている。


 ザゼルのおっさんがこしらえたのは『椰子実海老ココナッツロブスターの爪のボイル』

 こちらには茶色のソース。

 

 そしてオレがこしらえたのは同じく『ココナッツロブスターのハイブリッド仕立て』

 オレのは最初から白いソースをまとっているんだ。

 うーん。どれも美味しそうだぜ。


「それではみなさま、お料理をお楽しみください」

 そしたら、上品な方々が和気あいあいと料理を楽しみ始めたんだよ。

「イスムさん、ザゼルさん、ユーキさんは一旦こちらの部屋にお越しください」

 そう言われてオレたちは別室に通されたんだ。当然リート、リル、フルも一緒だぜ。

 イスムのおっさんもカメのサブロベエを大事そうに抱えてきたんだ。

 

「それではお三方も各々のお料理をお楽しみ下さい」

 オレ達が座ったテーブルには、それぞれの料理が一皿ずつ置かれていたんだ。

 ってことは、オレ達も審査員ってことか?

「その前に『合作料理コーポレートキュイジーヌ』について説明いたします。具体的にそれをどうするかは、皆さんでお決め下さい」

 それは俺たち三人にとって意外な提案だったんだ。

 イスムのおっさんもザゼルのおっさんも、そのひげもじゃの顔やロマンスグレーの頭を交互に動かして、それぞれの様子をうかがっている。

 うーん。

 難しいなあ。

 こういうときは順番にこなしていくのが一番だよな。

 

「イスムのおじさん、ザゼルのおじさん、とりあえずオレはおじさんたちの串焼きとボイルを食べたい!」

 そしたら二人共ちょっと驚いたような顔をしてから、二人して噴き出したんだ。まるでサキとウキがいつもやってみせるように。

「お嬢ちゃんは明るくていい子じゃのう」

 褒めてくれるなイスムのおっさん。

「そうだな。私も君の美しい料理を食べてみたいな」

 やべえ、ロマンスグレーに『君』呼ばわりされちゃったよ! ちょっと緊張しちゃったよオレ!

「そしたら、オレのを二人に取り分けてあげるね」

 照れ隠しにオレは円筒形の椰子実海老ココナッツロブスターを上から半分に割って、小皿に取り分け、根のクルトンを乗せてからソースを掛けて二人に差し出したんだよ。

 そしたら同じようにイスムのおっさんとザゼルのおっさんも、それぞれの料理を取り分けてくれたんだ。

 

 ……。


 会場から笑い声が聞こえる。多分芸能部門の演し物なんだろうな。

 一方のオレ達は三人で硬直していたんだ。

 ……。

 おっさん達の料理が美味いだろうというのはわかっていたんだ。でも、問題はそれぞれのソース。なんだよこれ!

 岩石蜥蜴バシリスクリザードの肉は美味かった。それは牛肉のコクと鶏の優しさを持つ肉に豚の霜降りが散りばめられているような味だった。それはまさしく『甘くて柔らかくて旨味が強い肉』

 それが炭火のごとく遠赤外線で表面はカリッと、中は一切の肉汁をも漏らさずに柔らかく火が通った一品。

 美味い! 美味すぎる!

 だけど、肉だけ。すぐに口が味に慣れる。

 それを鮮烈に元に引き戻す強烈な酸味を持った透明なソース。肉を食べ、ソースを少しだけ浸けた肉を食べ、再び何も浸けない肉を食べる。甘い、酸っぱい、甘い、やめられない、止まらない……。

 恐ろしいソースだぜ。ベースはオレの世界にあった『酢』と同じようなものなんだろうけど、恐ろしく肉と親和性が高いんだ。


 もう一方のザゼルのおっさん。こちらのココナッツロブスターの爪はすでにオレも食ったことがあるから、味は想像できたんだ。当然店で食べた時よりも、材料の質もザゼルのおっさんが見せた茹で加減も天地の差だったけどね。

 で、驚いたのが茶色いソース。甘くてホクホクして優しい爪肉はホイホイ食べられるけど、やっぱりたくさん食べようとすると飽きる。

 そこでこのソースの出番。

 これは一言で言って『ミソソース』

 ミソならココナッツロブスターからもカニミソのようなものが採れる。

 でも、そうした内臓系だけじゃない、植物系の優しいコクも持っている。 

 それがいつまでも爪肉を飽きさせない。

 ……。

 すげえなこのおっさんども……。


 そしたら、唖然としているオレに、イスムのおっさんも驚いたような表情でオレに尋ねてきたんだ。

「ユーキお嬢ちゃん、ココナッツミルクに利かせたこの鮮烈な辛味は何だい? こんな混じりけのない辛味が出せる食材は経験したことがないのじゃが」

 そしたらザゼルのおっさんも口を開いたんだ。

「ユーキさんといったかな。君の辛味も素晴らしいが、イスムさん、あなたの酸味も素晴らしい。一体二人共、何をしたのですか?」

 こうなったらオレも聞くしかねえ。

「ザゼルのおじさん、これ、ココナッツロブスターのミソ以外に、同じようで、それでいて全く違うソースを混ぜているでしょ? 何なのこれ!」

 

 そう。三人とも同じことを考えていたの。 

 どうっしようかなー。

 でもここは最年少であるオレの出番だよね。

「イスムさん、ザゼルさん、オレの辛味はこれだよ」

 オレは屋台から小分けにしたワンダラーバインソースの壺を持ってきて、おっさんたちに差し出したんだ。

「うお! これは鮮烈じゃな!」

「こんなもの、一体どこで手に入れることができるのだ!」

 うーん。

 どうしよっかなー。

 でも、この後の『コーポレートキュイジーヌ』のことを考えたら、教えちゃってもいいかな。二人共悪い人じゃなさそうだし。

「よかったら、たくさんあるから分けてあげるよ。あと、製法を知りたい?」

 そしたら再び二人のおっさんは互いの顔を見合わせたんだ。

 そしてやっぱり噴き出す二人。

「うわっはっはっは! お嬢ちゃんには敵わんのう!」

「それなら私のソースも分けて差し上げよう。お望みなら製法もお教えしますよ」

 うは、もしかしてオレ大勝利?

 

「ほう、あんなもんを食おうとするガッツに乾杯じゃの」

「あれを煮るとは勇気がなければできませんな。ああ、だからユーキさんなのか」

 ザゼルのおっさん、面白くねえぞ。

 オレはワンダラーバインソースは『徘徊蔓ワンダラーバイン』の若い蔓の中身を煮込んで青臭さを飛ばしたものだと二人に教えたんだ。

 家の中で煮ると青臭さで死にそうになることも合わせてね。

 

 ザゼルのおっさんが使用した『一角汁ユニコーンソース』は、意外なことに『腐った一角玉蜀黍ユニコーンコーン』を絞ってしばらく置いたものだったんだ。

「手元で腐っていくのが悔しくてな。壺に入れて持ち帰ったら、ある日こんな味になっていたのだ」

 さすがだぜおっさん。経験済のロマンスグレーは伊達じゃねえな。って、オレにはその『ユニコーンソース』はこしらえられねえよ!

 

 イスムのおっさんの『岩石蜥蜴酢バシリスコ』も酷いもんだった。

「こいつは『バシリスクリザード』の『石化袋』に満たされた『石化液』を十倍以上に薄めてから沸騰させたもんじゃよ」

 えっと、それってバシリスクリザードに勝てないと手に入りませんよね?

「そうじゃな」

 なんだよその余裕は。

 ところで、石化袋ってどこにあるんですか?

「バシリスクリザードをひっくり返して、喉元から胸にかけて切り裂くと、肺と胃の間に黒い袋があるからすぐにわかるぞ。原液に触ると石化したように皮膚が固まるから、そうしたらその横にある赤い『肝』に手を突っ込めばええからな」

 それ、難易度高いです……。

 

 こうしてオレ達は、それぞれのソース原料を壺一瓶ずつ交換したんだ。

 その頃には三人で完全に打ち解けていたんだよ。

「それじゃ、『コーポレートキュイジーヌ』について検討するかの」

「そうですね。それぞれの得意料理でまとめてみるのもいいですが、バランスも必要ですね」

 と、そのとき、会場から拍手が響いたんだ。多分2つ目の演し物が終わったんだね。

 それじゃ早いところメニューを決めようよ。三人でさ。

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