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コンテスト開始です

「そうだユーキ、これを買ってきたんだよ。ちょっと着てご覧よ」

 なあにサキ? ん? これって……。

「『コックコート』だよ。普段のワンピースに革のエプロンも可愛いけどさ、せっかく人がたくさん集まる場だからね。ビシッと行こうよ」

 サキが渡してくれたのは白い服の上下に黒の前掛け。そして真っ赤なネッカチーフ。

 鍋や皿や道具が引っかからないように表面にはなるべくひだが発生しないようにした機能的な作り。白色は料理に何かミスがあったら、その白い生地を染めることで言い訳できないようにしてしまう料理人のブライドを込めた衣装。

「何だいユーキ、その顔は? お前に似合うと思うよ」

「ネッカチーフの色は俺が選んだ」

 ありがとサキ、ウキ。

 あ……

 うれしい時も涙がでるのを忘れてた。

「ほらユーキ、着替えてみておいで」

 ありがとサキ姉さま。

 よし、今日はこの衣装を着て『コンテスト』に挑もう。勇気が出てきたぞ。


 城門に到着したら、槍を携えた門番のおっさんが、笑顔でオレたちを迎え入れてくれたんだ。

「おう、お嬢ちゃん、今日はかっこいい姿だな。応援しているぞ!」

 ありがとな。おっさん!

 城内では、今度はいつもの衛兵のおっさんがオレたちを見つけて駆け寄ってきてくれたんだ。

「今日は頑張れよ、ユーキお嬢ちゃん。姉さんと兄さんもな」

 ありゃ。そんな言い方したらサキとウキの機嫌が悪くなっちゃう……。て、二人共平然としたものだわ。

 衛兵のおっさんはそのままオレたちを会場まで案内してくれたんだ。

「三人は姉兄妹と聞いているからな。控室は広めの部屋を用意しておいた」

 おお、気が利くなおっさん。

「気にするな。他の出場者にも私のような『介添人アテンダント』が就いているからな。逆に君たちが姉兄妹のお陰で、私は芸能部門と出場者と料理部門の出場者両方のアテンドができるんだ。こちらこそ感謝したいくらいだよ」

 へえ、そういうものなのか。

「それでは、本日の『大会規定レギュレーション』を説明させてもらう」


 コンテストは次のように行われるそうなんだ。

 まず、料理部門の『フリー』

 これはオレたちが事前に用意した十人前の料理を仕上げ、審査員に提供するものなんだ。ちなみに審査員は三十名で、三人一組になっているとのこと。

 次はステージで芸能部門の『フリー』

 これは事前に運営側から指名された演目をそれぞれが演技するんだって。

 で、芸能部門の『フリー』が行われている間に、料理部門は『合作料理コーポレートキュイジーヌ』を始めるらしい。この詳細は開始直前に聞かされるらしいんだ。

 最後は『合作ステージ(コラボレーション)

 これは芸能部門出場者全員で即興でステージを提供するものらしい。

 

「芸能部門、料理部門共に出場者は三組だ」


 へえ、だから三十人の審査員に十人前の料理を用意するんだね。

「それじゃウキ、準備を始めるよ。ユーキ、一人で大丈夫だね」

 わかったよサキ。リートもリルもフルもいるから大丈夫さ。 

「ユーキ、最後に何かおやつをくれ」

 面倒臭えからココナッツビスケットの袋をそのまま持ってろウキ。


「それでは料理部門『フリー』の準備を始めて下さい」

 急に丁寧になった衛兵のおっさんに案内されながら、俺は会場に向かったんだ。

 

 うは! こりゃまた豪勢だなあ。

 丸テーブルが置かれ、それぞれ三人がテーブルを囲んでいる。皆さんの豪奢なお召し物を見る限り、それなりの方々なんだろうなと思っちゃうよ。

 やだ、ちょっと緊張してきちゃったわ。

 でも皆さんご歓談にお忙しいらしくて、余りこちらには視線を送ってこないのね。さすがお上品な皆さんですね。

 

 そして会場の端にはステージがあるんだ。その反対側には仮設厨房が三セット置かれている。当然屋台を置くスペースもあるんだよ。

 さらに仮設厨房の横には様々な食材が置かれているんだ。あれが『合作料理』の材料になるのかな?


「おう、ユーキ嬢ちゃん、今日は頑張ろうな」

 あ、イスムのおっさん。今日は一人かい?

「ダヤとキストは留守番だ。二人共お前のところのサキさんとウキさんのように、芸能部門で登録しておきゃよかったと地団駄踏んでいるぜ」

 楽しそうに豪快に笑うイスムのおっさんの表情に、こっちも楽しくなっちゃうな。

「なんだ、そちら二人は知り合いか?」

 ん?

「私は『ザゼル』という者だ。今日の優勝は悪いが私がいただく」

 うは、何だこの彫りの深い渋すぎる中年のおっさんは! ウキがおっさんになったらこんな感じになるのかな? ちなみにこのおっさんは銀髪族だ。

 やっぱりおっさんにはロマンスグレーが似合うなあ。

「わしゃ『イスム』じゃ。焼き物しか能がないが、今日はよろしく頼む」

 あ、オレも自己紹介しなきゃ!

「オレは『ユーキ』だよ」

 って、ザゼルのおっさん、表情が固いぜ。

「イスムさん、あと、ユーキちゃんと言ったかな。二人共精霊獣を使いこなすのか?」

『ちゃん』呼びかよおっさん。せめて『さん』と呼べんか?

 って、何でそんなこと聞くんだろ?

「わしらは三兄弟で三精霊獣を共有しとる。このお嬢ちゃんのところもそうじゃよ」

 お、ありがとイスムのおっさん。オレは余計なことを喋らなくて済んだぜ。

「そうか……」

 何だその悲観的な顔は、ザゼルのおっさんよ。

 

 お、ステージ上にひときわ派手なおっさんが上がったよ。いや、まだにーさんというべき年齢か? 

「皆の者、本日は『競技会コンテスト』にようこそ」

 うは、偉そうだね。もしかしてあのおっさんもといにーさんが主催者か?

 しっかし挨拶がなげえな。会場の人たちも半分くらい話を聞いていないんじゃないか?

 我慢できなくなったオレは、イスムのおっさんに聞いたんだ。

「ねえ、イスムおじさん、あそこの偉そうなにーさんは何者なんだい」

 なんだよそのアホの子を見るような目は。畜生久しぶりだよ。

「お嬢ちゃん、あの方はここ『リタイアメントキャッスル』の領主様じゃ」


「それでは『料理の部 フリー』開始!」

 ようやっと偉そうで若い領主様が宣言してくれたぜ!

 やっと始まったか。よっしゃ。頼むよリート。リルもフルも応援していてね!

 お客さん達が椅子の向きを俺達の方に向けているのがわかるよ。オープンキッチンどんとこいだぜ!


 まずオレは背の高い鍋でオイルシード油を熱するんだ。同時にもう一つのコンロでココナッツミルクにゆっくり火を通すんだよ。

 で、油が百度を超えたくらいのところで、『ココナッツロブスター』の身をさっとくぐらせるんだ。

 そう。これは中華の『油通し』の技法。この処理でロブスターの部分はほんのり紅色に染まり、それがココナッツの白い部分にかけて徐々にグラデーションになっていくんだ。

 ココナッツロブスターの身を油通ししたら、次は油の温度を上げるんだ。で、百八十度くらいになったところで、ロブスターの身から削りとった根のような部分をカラッと揚げてあげる。ここはほとんどココナッツなので、揚げ色はフライドポテトのような黄金色になるんだよ。

 次はココナッツミルクに各種調味料で味をつける。決め手はほんのちょっぴり、オレ自慢の『ワンダラーバインソース』を色がつかない程度に混ぜてあげる。

 これで甘茎草のおかげで甘い香りがさらに強まったココナッツミルクに、ぴりっとした辛さをまとわせることができるんだよ。


 そしたらピンクと白の身をココナッツミルクでさっと煮てあげる。

 次は円筒状の身を紅色が上に来るように皿に置き、その上からココナッツミルクのソースを掛け、最後に根を揚げたクリスピーなのを上に添えてあげて出来上がり。

 

椰子実海老ココナッツロブスターのハイブリッド仕立てだよ」


 これで俺の料理は完成だ!

「ほう、きれいなものだな」

「若いながらもさすが女性ね。綺麗に仕上げるものです」

 お客さんの声が一部不快だけど概ね心地いいぜ。悪かったな未成年で。


 横を見ると、ザゼルのおっさんは大鍋を用意して湯を沸かしている。

 反対の屋台ではイスムのおっさんが串にさした何かを、ものすごい良い香りとともに焼いている。

 ああそうだ。イスムのおっさんには『遠赤外線亀ファーインフラレッドタートルのサブロベエ』がいたんだっけな。あのカメさんは、ある意味焼き物最強ですよ。

 ん? リートどうしたの? なになに、あんなカメに負けたくないって?

 ふふっ。珍しくやる気になったわね。

 大丈夫よリート。あなたじゃなければ出来ない料理もあるんだから。機会があったらそれにも挑戦してみようね。

 

 お、ザゼルのおっさんも終わったようだな。 

「『ココナッツロブスター爪のボイル』完成だ」

 うわあ、綺麗に真っ赤に染まっているよ。付け合せの茶色いソースも気になるなあ。

 

 続けてイスムのおっさんもだ。

「『バシリスクリザードの串焼き』完成じゃい」

 おっさん良い香りだよそれ!

 おっさんも付け合せのソースがあるのか!


 うはあ、両方とも美味しそうだね。食べたいなあ!

 お客さん達もよだれを我慢しているのが伝わってくるぜ!

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