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コンテストの食材決定

 今日も元気な朝が来た。

 って、やべえな。競技会コンテストは明日だよ。

 とりあえず朝食を済ませてから市場に出かけてみるかな。

 ちなみに今日の朝食は『スクランブルエッグとソーセージ』それに『野菜とコーンのチキンスープ』だ。

 それに大喰らい用に三百グラムのステーキを一人前。

 デザートは黒芋を一口サイズに切って油で揚げてからシロップであえて、冷ましておいたもの。いわゆる『大学イモ』

 この街に売っていた大量の『オイルシードオイル』のお陰で、揚げものをレパートリーに加えることができたんだ。

 ああ、美味しそうに食べてくれるサキ姉さまの表情を眺めているだけで幸せだわ。もう一人はどうでもいいけど。


「ところでユーキ、コンテストの料理は決めたのかい?」

 うーん。まだ決めていないんだ。後でもう一度市場に行ってみるよサキ。

「ところで、参加者は何人くらいなんだ?」

 そう言えばそうだね。聞いていないなあ。あ、でも確か『大会規定レギュレーション』に『十人前を用意すること』となっていたから、審査員は十人なのかな?

「まあ、審査員一人で一人前を食べるとは限らないけど、限度があるからねえ」


 大会規定によれば、料理の下ごしらえは事前に行っておくことができること。仕上げは会場で行うこと、十人前を用意すること、メイン食材は一種のみだということ。

 うーん。

 メイン食材一種ってことは、どうしても食材そのものの評価になっちゃうよなあ。

 とりあえずオレ、コンテストの場にこないだ食べた『ドラゴンのすきみ』が出てきたら、オレのレパートリーじゃ勝てる気しねえし。

 考えていても仕方がないか。市場に行ってこようっと。

「あ、ユーキ。あたしとウキはちょっと出かけてくるけど、一人で大丈夫かい?」

 うん。リートとリルとフルがいてくれるから大丈夫だよ。ありがと。

「いいか? 近道とか考えるんじゃないぞ」

 わかっているよウキ。

「それじゃ、お昼には帰ってくるからね」

 いってらっしゃーい。

 

 うーん……。

 一通り市場を眺めてみたけど、ぱっとしたものはないなあ。

『メイン食材は一種』っていう条件が厳しすぎるよ。

 この条件だと、生棒パンの麺やクレープ、コーン粉のトルティーヤやチーズクラフトで『一種』になっちゃうから使えないし。

 仕込んでおいた『薬膳熊ハーバルグリズリー』の塩釜焼きや猪の塩漬け(パンチェッタ)も、それだけで食べるような代物じゃないしなあ。

 スモールフィールドからこつこつ貯めている『アレ』は、まずはオレが食べたいし……。 

 ここは奮発して高級食材で勝負するしかないかなあ……。

 ということで、オレは『椰子実海老ココナッツロブスター』を見に行ったんだ。

 

 あれ? 何かさっき店を訪れたときと雰囲気が違うな。店番のおっさんも妙にゴキゲンだし。

「お、屋台の嬢ちゃんかい。悪いけど今日は売り切れだよ」

 へえ、景気がいいねえおっさん。ん?

「ねえおじさん、そこに転がっている椰子実はどうしたの?」

「ああ、これはな……」

 うへえ。

 おっさんの話によると、ココナッツロブスターを買い占めた客が、椰子実部分はいらないからといって、海老の部分だけを切り取って行ったらしいんだ。もったいねえなあ。

「ねえおじさん、その椰子実はいくらなの?」

「これかい? まあ売るほどの価値もないけど、一個二百エルくらいかな」

 へえ、五千エル中、四千八百エルが海老部分の値段なのかあ。確かにあの爪は美味しかったものね。

「どうも買い占めたお客さんは『コンテスト』に出るらしいぜ」

 あれま。そうすると間違いなくあの爪は出てくるなあ。

 でも、あの爪ならこいつでも勝てるかも……。

「おじさん、それ全部オレに売ってよ!」

 後は思いついた通りに行くかどうかだわ。フル、大変だけど宿まで運んでね。

 

 さてっと。まずは生の『椰子実ココナッツ』を割ってみるかな。

 ココナッツはハンドボールくらいの大きさで、海老と切り離したところが直径五センチメートルくらいの海老身になっている。

 これをのみと金づちで二つに割ってみると。中は真っ白なんだ。うん、まんま完熟ココナッツだね。

 俺が知っているココナッツと違うのは、海老の身が長さ五センチメートルくらい食い込んでいて、そこから細い根のようなものが何本かココナッツの内部につながっていること。残念ながらココナッツジュースは無し。多分海老部分を切った時に抜けちゃったんだろうな。

 椰子実に残った海老の身を椰子殻からくるりときれいに切り取って、根のような部分ををそぎ落としてあげると、それは直径五センチ、高さ五センチの円柱状になったんだ。

 それは海老の身から徐々にココナッツの実に変化しているんだよ。海老の身は半透明、それが徐々に白くなって、根元では完全に真っ白になっている。

 さすがは『混成生物ハイブリッドクリーチャー』だぜ。


 それじゃ始めてみるかな。

 まずオレはココナッツの白いところをスプーンでこそげてあげるところから始めたんだ。

 完熟ココナッツの白い果肉をこそいでから、それをさらに細かく砕いてあげる。

 で、軽く蒸してから布袋に入れて水に浸し、少ししたらこれを絞ってあげる。これで『ココナッツミルク』の出来上がり。

 ココナッツミルクは後から加工するので、大量に仕込んでおくんだ。

 一部の果肉はココナッツミルクを絞らないで薄切りにし、そのまま軽く焼いてあげるんだよ。

 これで『ココナッツチップ』の出来上がり。表面パリパリ中はサクサクで、ほんのり甘くておいしいのさ。

 サイコロ状に切った果肉はシロップにつけ、保存しておくんだ。これはデザートの材料。

 細かく砕いた果肉はそのまま乾かしてあげる。これは『ココナッツフレーク』にするんだ。

 

「帰ったぞ」

 おっさんくさいぞウキ。

「帰ったよ。おや、これはまた甘い香りだね」

 お帰りサキ。これはココナッツの香りだよ。

 さて、二人も帰ってきたことだし、昼食の準備を始めようっと。

 

 今日の昼食は、こないだ大量に購入した海老を使った料理なんだ。ココナッツロブスターじゃない、普通のエビの方。

 いつもの手順で海老を剥いて身だけにし、魚醤油やしょうがニンニクで下味をつけてあげる。

 で、こいつにコーン粉をまぶして、油で揚げれば出来上がり。

 そう。今日の昼食は『海老のから揚げ』

 ポイントは『コーン粉』なんだ。ユニコーンコーンの香ばしい風味がたまらないぜ。

 付け合わせは青菜を刻んでマヨネーズであえたシンプルなサラダ。

 デザートは、さっき絞ったばかりのココナッツミルクにシロップで戻した浜スライムを一口サイズに刻んで入れた『スライムドリンク』と、これもさっき焼いたばかりの『ココナッツチップ』

 サキとウキの待ち焦がれるような視線が熱いぜ。


「へえ、ユーキは『揚げもの』もやれるんだねえ」

 任せな。って? サキ、揚げものは知っているの?

「大きな街のレストランなら定番の一つだよ。でもこいつは変わっているね。コーンの香りが香ばしくてサクサクして美味しいよ」

 へえ。揚げものは普通にあるんだ。どんな揚げものがあるんだろ?

「素揚げか『衣芋虫バッターワームフライ』が一般的かねえ」

 え?

 バッターワーム?

「バッターワームの体液を絡ませてから、揚げるんだよ」 

 え?

 体液?

「おかしいかい? バッターワームを潰すと、白いとろっとした液が取れるんだよ。そいつをいろんな材料に絡めて揚げるのさ」

 ……。

 ……。

 ……。

「なんだいユーキ、その顔は? この街にもあるから、後で見に行ってみるかい?」

 うー。嫌な予感しかしねえ。

 でも行くしかないか……。この世界の食材を使いこなせなきゃ生きていけないものね……。


「ユーキ、おかわりだ」

 あー! この野郎! 二人で真面目な話をしている間に山盛りのから揚げを全部平らげやがったよ!

 仕方がねえなあ。夕食用に買っておいた鶏肉でも揚げるか。

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