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おっさん三兄弟

「それでは最終戦、第三ゲームを行います」

 

「行くぞフル」

「ぶひひん!」


 あれ? ウキもフルも少しは仲良くなったのかな? ん? ここで万が一にも負けるとこっぱずかしいから、ボクが折れてやったんだって? さすがフルはオトナね。それじゃ頑張っておいで。

 

「おや、相手のおっさんには見覚えがあるねえ」

 どうしたのサキ? あのおっさんって、ウキの相手のこと?

「ああそうだ。あのおっさんは屋台で『岩石蜥蜴バシリスクリザードの串焼き』を売っていたおっさんだよ」

 へえ。あのおっさんがそうなんだ。って、前の二人と同じように背が低くてごつくて白髪と白髭モジャのおっさんだね。

 おや、おっさんが腕に抱えているのは何だろ? カメみたいだけど。

「あの精霊獣はあたしも初めてみるねえ」

 そうなんだ。ウキも見たこと無いような顔をしているなあ。

  

「あのカメはいったい何だ?」

「あのロバも珍しい奴だな」

 観客たちも知らないみたいね


「それでは第三ゲーム『遠赤外線亀ファーインフラレッドタートル』対『疾風驢馬ゲイルドンキー』の一戦です』

 え? 遠赤外線? それってもしかして!


「試合開始!」


「フル、先手必勝!」

 ウキの指示にフルが従う。

「ぶるる!」

衝角攻撃ラムアタック!』

 同時にフルの頭上に光り輝く角が現われて、フルは相手のカメに突っ込んでいったんだ。だけど!


「フル止まれえ!」


 間一髪オレの念がフルに届いたよ。よかった、カメの直前で止まってくれて。

「ウキ、相手は高熱を発しているはずだよ!」

「わかったユーキ。フル、作戦変更だ!」

 

 やっぱりそうだった。いつの間にか、カメの全身はうっすらと赤く染まっていたんだ。

 いつの間にかステージに敷き詰められた石も、カメの足元だけ赤熱している。

「にゃうん」

 リートから見ても大したもんだって言うくらいだから、これは相当の高熱だよ。


「ちっ、よくぞサブロベエの技を見破ったな。若造よ」

 向こうではおっさんが悔しそうな表情を浮かべている。って、あのカメさん、サブロベエって名前なのか。ということは最初のリトリーブパンサーは『タロベエ』かな? わかりやすいぞ。

 

「それじゃフル、派手に行くぞ! 『疾風矢ウインドアロー』!」

「ぶるるっ!」

 うは! フルの背後から半透明の弓矢みたいなのが次々カメさんに向かって飛んでいくぜ!


「甘いな小僧。サブロベエ、『完全防御パーフェクトディフェンス』じゃあ!」 

 うお、さすがカメさん、頭と両手両足を引っ込めたよ。

 うーん、遠目に見てもフルの矢が甲羅に跳ね返されているのがわかるなあ。すごいね。甲羅が余裕を持ってゆらゆらと動いているよ。

 

「甘いのはそっちだおっさん! フル、一点集中!」

 おお、ウキが熱血しているよ! って、フルの矢がカメさんの右腕あたりに狙いをつけたけど、当たってもカメさんは回転していなしちゃうよ。それでどうすんの?

 って、うひゃあ。カメさんがフルの矢を受け続けて高速で回りだしたよ! これってもしかして……。


「ギブアップじゃあ!」

 うは。やっぱりそうか。

 かわいそうに、コマのようにぐるぐる回されたカメさんは、完全に目を回してのびちゃっているよ。


「勝者『ゲイルドンキー』!」


「なんつー試合だ!」

「あいつら結局三匹とも槍だの矢だのを使っているじゃねーか!」

「何だよあのカメ、一方的にやられて終わりかよ!」

 そう言うな観客のおっさんどもよ。あのときのカメさんに触れていたら、いや、触れなくても近くに寄っただけでこんがりと焼けちゃうところだったんだぜ。


「ぶるる」

 頑張ったねフル。頭を撫でてあげよう。

「ユーキ、腹減った」

 ウキは叫んでいただけでしょ。

「それじゃ市場に寄ってから帰って夕食にするかい」

 そうだねサキ。それじゃ、賞金と配当金をもらってウハウハしながら帰ろうね。


 賞金は予想通り三十万エル。これを三人で分けたんだ。 

 次に配当金支払い窓口。

「はいこれ」

 賭札を窓口に差し出したら、返ってきたのは白銀貨板が三枚に金の貨板が六枚。締めて三十六万エル。

 うえへへへ。賞金の三倍以上だぜリート、リル、フル。

 これで何か買おうね。

 って、サキ姉さま、何なのその大金は! 白銀貨板だけで十枚以上ありそうですけど!

「女は度胸ってね」

 ああ、姉さまかっこいいわ。それに比べてこっちの食い気だけの男ときたら……。

「ユーキ、悲しいことにパイがなくなったぞ!」

 わかったよ。追加を焼いておくよ。はあ。

 

「よう、さっきは世話になったな!」

 あら、さっき勝負をしたおっさんたちだ。白髪のおっさんと、禿げで白髭のおっさんと、白髪に白髭のおっさんかあ。

 顔はそっくりだけど髪型と髭だけでこれほど印象が変わるのね。

 おっさんたちの機嫌はよさそうだ。

「こちらこそ稼がせてもらったよ」

 サキも上機嫌だ。

 一緒にいるリトリーブパンサーも、ガンヒポポタマスもおとなしいもんだね。ファーインフラレッドタートルに至っては、おっさんが背中に背負っているよ。河童みたいだな、おっさん。

「せっかく知り合ったんだ、一緒に飯でもどうだ?」

 あ、そういえば、白髪白髭のおっさんはバシリスクリザードの串焼きを出していたんだよね?

 これは話を聞いてみたいな。ねえサキ、いいかな?

「そうだね。せっかく儲けさせてもらったから、ここは三人に奢らせてもらうよ」

 ということで、オレ達は例のハイブリッドクリーチャーを出す店に六人と六匹で向かったんだ。

 

 ああ、楽しかった。

 おっさん三人の話は、オレにこの世界のことをいろいろ教えてくれたんだ。

 

 おっさん三人は三つ子だって言うんだ。で、区別をつけるために長男は髭を剃り、二男は頭を剃り、三男はそのままにしているんだって。

 ちなみに三人の名前は『ダヤ』『キスト』『イスム』というらしい。色々と危ねーな。

 種族は『白髪族』

 白髪族は別名『洞窟族ケイブトライブ』と言って、髪色以外に、比較的背が低くてがっちりしているのが特徴なんだそうだ。


 で、三人の職業は『探索者』

「探索者って、盗賊に毛が生えたってやつ?」

 ついサキから聞いたことをそのまま口にしてしまったオレに、三人はしかめっ面をしたんだ。

「まあなあ。そういう輩もいるにはいるが、全員がそうだってわけではないぞ」

 そこから色々な冒険の話を聞かせてもらったんだ。これにはサキとウキも興味しんしんだったんだよ。

 それで、三人にはそれぞれ得意な分野があるんだって。

 ダヤは探索、キストは狩猟、イスムは料理。

 岩石蜥蜴バシリスクリザードも、ダヤとタロベエ、あ、名前は当たりだったんだ、が発見し、キストとジロベエで止めを刺し、イスムとサブロベエで美味しく料理しているそうなんだ。


「そういやイスムのおっさん、もうバシリスクリザードの串焼きは売らないの?」

「いや、実はコンテストに出品するまでは販売禁止令が出ておってな。コンテストが終わったら肉の一片まで売っぱらうつもりじゃぞ」

 そっか。って、やっぱりコンテストに出るんだ! 実はオレも出るんだよ。

「嬢ちゃん、ユーキちゃんと言ったかの。嬢ちゃんは日替わりで美味い物を出していたけど、コンテストには何を出すんだい?」

 キストのおっさんに質問されたオレは困ってしまった。そう言えばまだ考えてねえ……。

「それじゃ今日はお開きにするかい。今度はコンテストの場でよろしくね」

 サキの言葉にダヤのおっさんが笑顔で答えた。

「おう、こちらこそな」

 それじゃまたね!


 コンテストが終わったら、バシリスクリザードを食わせてもらう約束もしたし、楽しみだなあ。

 オレも早く料理を考えなきゃね。

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