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団体戦でーす

「それでは第五試合 準備を開始してください」

 やっと試合かあ。結構待たされたよな。

 パドックから出てサキとウキと合流したんだけど、予想通りというかなんというか、サキは青筋が浮かぶかのような不機嫌模様。一方のウキはフルのバッグからパイを好きなだけ取り出して食ったらしく、口の周りをパイのカスだらけにしながら上機嫌で歩いている。

 まいったなあ。空気の断絶がたまんねえよ。何とかサキの機嫌を直さなきゃ。


 あ、そうだ。あれを持ってきていたんだっけ。

 俺はリュックから小さなお菓子を取り出したんだ。

「ねえサキ、これ食べてみてよ」

「ん? なんだいこれは?」

「メレンゲを焼いたんだよ。口の中でさっと溶けておいしいよ」

 どうしても卵黄を使う料理が多くなるので、その分卵白が余ってしまうんだ。イタリアンメレンゲにしてフルーツやホイップクリームと食べるのも美味しいけれど、こうして焼いてあげると、これはこれで甘くて優しくなるんだよ。

「へえ、口の中でふんわり溶けるねえ。これは好きだよ」

 しめしめ、ちょっとは機嫌がよくなってきたかな。


「そうだねえ。ここでユーキの前でしかめっ面をしていても仕方がないしね。やつあたりは対戦相手にさせてもらおうかい。ねえリート」

「にゃううん」

 うへえ。息がぴったりだよこのコンビ。リートの気合がビンビン伝わってくるぜ。

「ユーキ、俺にもくれ」

 ん? こりゃウキには合わないと思うよ。ほれ、一個食ってみろ。

「なんだこれは……。すぐに消えてしまうではないか!」

 ほらな。これは腹にたまる菓子じゃねえんだよ。お前はおとなしくパイを食ってろ。

「もう一個くれ」

 食うのか? 仕方ねえなあ……。


 うわあ! 観客席は一杯だよ! ざっと数千人ってところかな!

「ほら、あそこに総賭金額とオッズが表示されているよ。これは舐められたもんだねえ」

 うーん。相変わらず数字は読めるけど文字が読めねえぜ。いくらくらいなの?

「第五試合の総賭金額は六百万エルだな。ということは勝利者賞金は三十万エルか」

 へえ、結構もらえるんだね。で、オレ達が三連勝するオッズはどれくらいなの?

「あたし達の三連勝は三十二倍だね。これはまた舐められたもんだよ」

 ってことは、オレがぶっこんだ一万エルが三十二万エルになるってことか。これは美味しいわ。

 口では文句を言っているサキも、表情は笑いをこらえているようなひきつったもの。

 そうだったわ。姉さまはもっとぶっ込んでいるのだったわ。

 もしかしたら三連勝に賭けているのはオレ達だけかもしれないね。

「ちっ、俺も賭ければよかったな」

 ウキざまあ。

 

「それでは第五試合第一ゲームを行います。精霊獣をステージ上にあげてください。その後パートナーはコントロールスタンドまで下がるように」


「それじゃ行ってくるかね。すぐに終わらせるよ、リート」

「にゃうん」

 うへえ。素人のオレにもわかるぜ。姉さまの殺気が……。

 

 どれどれ、相手はどんな精霊獣だろ。って! 何なのあのでっかい茶色の猫は!

「ありゃ『探索豹リトリーブパンサー』だな。まあ、普通の猛獣に毛が生えたくらいの奴だ」

 余裕ねウキは。でも、リートの十倍はあるわよ、あのサイズは。っていうか、どう見てもリートってちっちゃいよね。

 ん? あんなの屁でもないって? リルは頼もしいね。

 わかった、わかったからフル、お前の活躍もちゃんと見ているからね……。だから足を踏むなあ!


 観客席がどよめく。

「終わった……」

「こりゃ吹っ飛ばされて場外だな」

「よしよし。まずは一勝」

 勝手に言ってろ。


「それでは第一ゲーム『リトリーブパンサー』対『イグニッションキャット』の一戦です! 試合開始!」


「突っ込め!」

 相手の背が低くてやけに体格のいいおっさんが叫ぶと同時にリトリーブパンサーがリートに突っ込んできたんだ。

「リート、かわしな」

 するとリートが軽やかなステップでいなすようにパンサーの攻撃を避ける。おお、素敵だわ。


「リート、『爆炎槍フレイムスピア』!」


 なになに、何なのそのかっこいい技名は!

 うは、リートの身体が炎の槍に変化したぞ。

 パンサーちゃん、タックルを避けられてバランスを崩しまくっているわ。

 ああん。そうよね。当然リートはパンサーちゃんに突っ込んでいくわよね。うへえ、えげつない刺さり方をしたなあ。


 ごおおおお!

「ぶぎゃあああああああ!」

 これはリトリーブパンサーの鳴き声。いや泣き声。あれは熱くて痛いわよね。

 観客席が無言になっちゃっているわ……。


「勝者『イグニッションキャット』!」

 アナウンスと同時に観客席は怒号に包まれたんだ。


「『フレイムスピア』を使う『イグニッションキャット』なんぞ見た事ねえぞ!」

「現実に目の前にいるじゃねーか!」

「まいった! いきなり外れだよ畜生!」

「よかったぜ、ボンキュッボンの姉ちゃんへの祝儀のつもりで押さえておいて」


 勝利宣言後、リートはステージから駆け降りて、指定席とばかりにサキの胸に飛びつきやがった。

「はい。お疲れさん」

「にゃあ」 


「それでは第二ゲームを行います」


 うーん。今のサキ姉さまとリートって、ちょっと格好よかったわね。ん? ああいうのが好きなのかって? そうねリル。オレもああいうのがいいなあ。

 なに、わかったって。なんて使える子なのリルは。なになにその代わりに?

 お前も好きだねえ。

 わかったわ。

 

 って、これはこれはまた大きな精霊獣が出てきたなあ。

 パートナーも、さっきのおっさんと同じような背格好のおっさんが出てきたぞ。

「おーいユーキ。そいつは『鉄砲河馬ガンヒポポタマス』だ! 尻に気をつけろ!」

 ありがとウキ。でも、尻に気をつけろってどういうことかしら。 

 

 一方の観客席では、相変わらず言いたいことを言ってくれています。

「さすがにこりゃカバの勝ちだろ」

「流水犬の水攻撃はカバには通用しないだろうしな」

「こういう試合を『鉄板』っていうんだろうな」

 はいはい、そうですか。

 

「それでは第二ゲーム『ガンヒポポタマス』対『ストリームドッグ』の一戦です! 試合開始!」


「ジロベエ、『鉄砲糞ガンシット』じゃあ!」

 へえ、あのカバ、ジロベエって名前なのね。って、いきなりこちらに尻を向けたわ。ちょっと嫌な予感……。

「ショット!」

 えー!

 カバの野郎、ウンチを尻尾で撃ち込んできやがったよ!

 避けろリル!

 うん、華麗なステップだわ。後でステージを片付ける人たちは大変だ。アナウンスのお姉さんも顔をしかめているし。

「ジロベエ! 連打じゃ!」

 うええ……。これは酷い。

 って、避けるのは自分でやるから、早く呪文を唱えろって? わかったわリル。

 

「我より『神殺しの魔狼』の名を与えられし精霊獣よ!」


「何やってんだいあの娘は……」

「久々にアホの子全開だな」

 聞こえているよ。うるさいなあ。でもリルの希望なんだから仕方ないじゃない!

 あー、観客席からの視線が痛い。さっさと唱えちゃおう。

 

「我の命に応じ、敵対する者を氷の槍に捕えよ!」


大氷槍(アイスランス)!』


 うわ!リルの頭上にでっかい氷の槍が浮かんだよ。長さが三メートルくらいあるぞ!

 まあ、リルったら意地悪ね。相手がビビっているのを楽しんでいるわ。早く投げちゃいなさいな。

 

「ギブギブギブギブ!」


 おっさんが慌てふためいてタオルをステージに投げ込んだよ。

 そりゃそうだよな。いくらダメージが回復するからって、こんなもんを食らったら心の傷がえらいことになるだろうしな。

 ほら、さっさと投げないから、相手がギブアップしちゃったよ。それじゃ槍を消すからね。

 ん? 相手をビビらせただけで満足だって? いい子ねリルは。

 

「何だよあいつら!」

「何で流水犬があんな巨大サイズの氷槍を召喚できるんだよ!」

「さてはさっきのあの娘が唱えたアホの子のような呪文に秘密が隠されているのか!」

 ああ、観客席の怒号が心地いいわ。


 さあ、最後はウキとフルだ。こいつは心配だぜ。


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