バトルはお約束
さてっと、『競技会』ではなにをこしらえよっかな。
コンテストは明後日の夕方から。今日からオレも営業禁止になったので、今日と明日はサキとウキとの三人で、『リタイアメントキャッスル』の街を散策しながら、料理を考えることにしたんだ。
「何かいいアイデアはないかなあ」
「地元の名物を使うのがいいかもしれないねえ」
そうだねサキ。『混成生物』に挑戦してみようかな。
「俺はユーキが焼いた肉が一番美味いと思うぞ」
そりゃ褒めてるのかウキ? 素直に喜んでいいのかどうかわからないなあ。
へえ、こうしてみると、この街が『リバーケープ』や『スモールフィールド』より大きいのが改めてわかるね。
オレが出店していた広場も相変わらず賑わっている。
そうだ! サキが言っていた『岩石蜥蜴の尾の身の串焼き』を食べてみたいな。
「ねえサキ、バシリスクリザードの屋台に連れて行ってよ」
「はいよ。確かこっちだったかな……。あれま」
サキが連れて行ってくれたところに屋台はなかったんだ。
「そいつも『コンテスト』に出場するのかもしれないな」
そっかあ。きっと、とっても美味しいんだろうね。ああ、食べてみたかったなあ。
角を曲がってしばらく進むと、今度は特設ステージが立ち並んだ一角に出たんだ。そこはサキとウキが公演を行っていた場所なんだよ。
あるステージでは楽団が演奏をしているし、別のステージではジャグリングが披露されている。明るい雰囲気で、何となく楽しくなっちゃうね。
って、コンテスト指定演目の『希望と絶望の夜』って、とんでもない悲劇だったよね。サキとウキはこの明るい雰囲気の中で、あの悲劇を演じたのかい。それでコンテスト出場って、ある意味すげえな。
あっ、そうだ。
そう言えば二人に聞きたいことがあるんだった。
「ねえサキ、ウキ。二人は『コンテスト』の出場が嬉しくないの?」
「他人と比べられるのはちょっとね……」
「芸術に順位をつけようというのが面白くない」
へえ、サキもウキもそういう風に考えるんだ。ふーん。
「ユーキ、お前は嬉しいのかい?」
うーん。料理を褒めてもらえるのはうれしいけれど、順位をつけられるのはオレも好きじゃないかな。
「だろ?」
そうだね、ウキの言うとおりだね。
もう一つ通りを曲がると、今度は大きな建物が姿を現したんだ。うわ、でっかいなあ。
「ここは『競技場』だよ」
すごい歓声だね。
「何かやっているな。ちょっと見てくる」
いってらっしゃい。
『スタジアム』で開催されていたのは、飛び入りオーケーの『精霊獣バトル』だって。
「時間もあることだし、ちょっと見て行くかい?」
どうするリート、リル、フル? って、リートはサキの腕の中でお寝んね中かい。
「他の精霊獣も見ることができるしな。寄っていくか」
そうだね。それじゃ行ってみようか。ほら、抱っこしてあげるよリル。フルは頭を撫でてあげるからね。
「ん? 君らは参加希望者か?」
何を言ってるんだおっさん?
「バトルを観戦しに来ただけだけさ」
サキがリートを抱っこしながら答えたら、おっさんは怪訝そうな表情になった。
「せっかく精霊獣がいるのにバトルをしないなんてもったいなくないか?」
何でも、参加するだけで参加賞五千エル。勝利した場合は総賭金の五パーセントが賞金として勝者に贈られるんだって。って、ここでも賭場を開いていやがんのか。
「それは困ったねえ。ユーキだけでも参加してくるかい?」
うーん。
困ったな。
オレの意識で三匹がバトルを始めちゃったよ。お前らホントに争うのが好きだね。
なになに? 三人で出ればいいじゃないかって? それじゃちょっと場所を変えるよ。
「サキ、ウキ。ちょっとこっちにいいかな」
「何だい?」
「おやつか?」
「いえね、三匹がね、全員バトルに出たいって言っているのよ。でね、三匹の間での厳正な抽選の結果、リートはサキ、リルはオレ、フルはウキと組むことにしたんだって」
「精霊獣は主人じゃなくても使えるのかい?」
「おやつは?」
うるせえなウキ。『クリームパイ』でも食ってろ。
あ、これは焼いたプレーンパイを冷ましてからホイップクリームを絞り袋で中に詰めてあげたスイーツパイなんだよ。優しい甘さが飽きないのさ。ウキにはそろそろ飽きてもらいたいけどな。
それでねサキ、どうもオレがリートとフルに、『サキとウキと一緒にバトルしてこい』って命じれば、サキとリート、ウキとフルの意識が繋がっちゃうらしいのよ。ご都合主義が素晴らしいわ。
「そういうことなら三人で一稼ぎしてくるかね」
「甘くないパイもくれ」
オレはフルのバッグからソーセージをパイ生地で巻いてから焼いた『ソーセージパイ』を取り出しながら、リートとフルにそれぞれ『サキ』『ウキ』と一緒にバトルしてこいって命じてみたんだ。
「へえ、これがリートの意識かい。よろしくね」
「にゃあ」
お、つながったみたいね。
「うるせえフル。食ってちゃ悪いか? お前、俺に喧嘩を売ってるのか?」
「ぶひひひひひ!」
何いきなり揉めてんだよ。
ということで、オレ達は精霊獣バトルに三人と三匹で参加することにしたんだ。
「おっちゃん。三組参加な」
「はいよ。『点火猫』に『流水犬』それに『疾風驢馬』だな。珍しい連中ばかりだね。さて、あんたら身内のようだから、全員東門に行ってくれ」
ここでは身内同士のバトルにならないよう、あらかじめ東門と西門に振り分けられる仕組になってるんだって。
って、フル。お前は『ゲイルドンキー』って種類だったのね。
ん? これは世を忍ぶ仮の姿だって? そうかいそうかい。お前達三匹とも同じことを言うのね。オレに喋っちゃうとか、全然忍んでないけどね。
「それじゃ行くかね」
オレ達はサキの先導で東門に向かったんだ。リートはサキに抱っこされて、リルはオレが抱っこして、フルはウキと小突きあいながら。お前ら本当に仲悪いよな。これで大丈夫なのかなあ。
「それじゃそこに並んでくださいね。おや、そちらの三人は身内かい?」
そうだよ。何か問題あるのかい?
「なら、団体戦に出たらどうだい?」
団体戦?
「何だい? 団体戦ってのは?」
サキが受付のおっさんに聞いてくれたことによれば、団体戦というのは三人から五人のチームで戦うらしいんだ。
これは主に当選金の倍率をあげるのが目的なんだって。
例えばリート戦、リル戦、フル戦のそれぞれを予想するならば、倍率はそれほど上がらないけど、これを連勝にすると一気に倍率が跳ね上がって、お客さんには一獲千金のチャンスができるんだ。
だから賭金総額も単独の場合に比べて跳ね上がるから、出場する方も勝てばそれだけの賞金を手にすることができるんだ。
但し、チームを組む場合は身内のような関係でないと、賞金の分配や、負けたときの責任のなすり合いがひどくなるんだって。というのは、チームとしての勝敗は団体の勝ち負けで決まるから。例えば二勝一敗だと、団体としては勝ちだから、総賭金の五パーセントが贈られるんだけど、それを負けた一人にも分配するかどうかでもめるんだって。
一方、一勝二敗の時は負けだから賞金が出ないから、勝った一人が負けた二人をなじった結果、刃傷沙汰になるとかもあるんだってさ。おっかねえな。
「サキ、ウキ、どうしようか?」
「ん? ユーキの好きにすればいいよ」
「面倒だから団体戦でいいだろ?」
じゃ、そーすっか。この二人が負けたオレをなじる姿とか想像できねーしな。
「おっさん、団体戦で登録するね!」
「出場順は?」
「このまま『イグニッションキャット』『ストリームドッグ』『ゲイルドンキー』の順にしてくれる?」
「わかったよ。あとな、自分たちの負けに賭けることはできんが、勝ちには賭けることができるから、自信があるなら、そこの専用窓口に賭金を払い込んでおきな」
ふっふっふ。うちの三匹は殺る気マンマンよ。ここは『三連勝』に一万エルをぶっこんじゃおうっと。
「それでは順番に部屋にお入りください」
案内ありがとなねーちゃん。
ふーん。控室は個室になっているのね。そりゃそうか。出番を待っている精霊獣同士で喧嘩になったら大変だものね。
って、大きな窓だなあ。なんだろこの鉄格子みたいなのは。
……。
あれ?
もしかしてオレたちって外から丸見え?
「パドック六番から八番までが第五試合『団体戦』の出場メンバーです」
そういうことね。そういえばオレ達って賭けの対象だったものね。
「これはまた『ちんまい』のが出てきたな」
「こいつは団体戦は西の三連勝で鉄板だろ」
「東は驢馬だけ押さえておけばいいかな」
「しかし色っぽい姉ちゃんだなあ」
外野の声が丸聞こえですよ。ああ、サキの不機嫌そうな表情が目に浮かぶわ……。
早く始まらねえかな。
「それでは団体戦の準備を開始いたします」




