なんとかなるものです
我ながら会心の出来だぜ。
目の前に並ぶのは『ツナマヨ』『コーンマヨ』『エビマヨ』
こいつらは最強のトリオだといっても過言ではないだろう。
後は魚嫌いのウキがツナマヨを食うかどうかだな。弁当に詰めるのはその後にしておこう。
「おはよう、今日も朝からいい香りだね、ユーキ」
「腹減った。ん、なんだこりゃ?」
お、早速ウキが釣られてきたかな。
「それ、トルティーヤで巻いて弁当に入れようかと思っているんだけどさ、どれにする?」
ほれ、味見してみな。
「コーンのは昨日のと一緒だね。甘くておいしいわ」
「エビがぷりぷりして美味いぞこれは」
で?
「へえ、何だいこれは? やさしい口当たりだけど旨みが強いねえ」
「何だこれは! マヨネーズとベストマッチではないか! これは魔法の肉か?」
ふっふっふ。
「それの正体はこれだよ!」
オレは二人に鍋の中の『ツナ』を見せてやったんだ。
「これは鳥の肉かい?」
違うよ。赤身の魚をオイルで漬けこんだんだよ。
「魚かこれは! 全く臭みがないぞ!」
そうだろそうだろ。魚嫌いでもこいつはいけるよなあ。
「で、どれを包んで持っていく?」
「一本ずつお願いできるかい?」
「俺は二本ずつだ!」
野菜も入れるからな。バランス良く食えよ。
今日の朝食は刻んだ定番野菜をオイルで炒めて麺とあえてから最後に魚醤油を一回ししたあっさりパスタ。
ウキにはいつものように別途肉を焼いてやり、サキとオレは冷やしたフルーツを楽しむんだ。
「今日は屋台で何を売るんだい?」
熊肉塩バターラーメンのつもりだよ。
「それはちょっと難しいかもしれんな」
なんで?
「見本を出せないからねえ。サクラも使えないし」
あーそうか。でも仕込み終えちゃったしなあ。ダメ元で売ってみるよ。
「それじゃ今日も稼ぐかね」
はーい。
うーん。
ウキの言うとおりだったぜ。
全く客が来ねえ。
隣のエビ売りのおっさんとステーキ売りのおっさんの目線がつらいぜ。おっさんども、こんな未成年の少女に勝ち誇った視線を送って楽しいか?
ラーメンじゃあ昨日の香りで釣る作戦は無理だしな。どーすっかな。
とりあえず薬膳熊の塩釜肉を屋台に並べてみるか。
「おやお嬢ちゃん、今日は閑古鳥が鳴いておるの」
おう、官憲の爺さんか。元気そうで何よりだ。
「今日は何を売っておるのかな」
チャーシューメンだよ。
「またよくわからんもんで勝負に出たのう。どれ、一つもらってみようとするか」
うおお! 爺さん本日最初の客だぜ。ちょっと待ってな。すぐにこしらえるからな。
「お待ちどうさま! ハーバルグリズリーチャーシュー乗せ塩バターコーンラーメンだよ」
「ほう、また奇怪なものを出してきたのう、どれどれ」
……。
「この細いのはなんじゃ?」
生棒パンに食感が変わるようにちょっと細工してから細切りにしたものだよ。
「この肉はなんじゃ?」
ハーバルグリズリーの肉を塩釜焼きにしてから熟成させたんだ。柔らかくて美味いだろ。
「ユニコーンコーンは何で炒めたんじゃ?」
生乳から作ったバターだよ。
「このスープは?」
トリガラだよ。
爺さん、フォークで器用に食うなあ。
あれ?
いつの間にかお客さんが集まっているぞ。
「うむ、これは全てが新しい上にどれも美味いのう」
爺さんのこの一言が引き金になって、オレの屋台には今日も列ができたんだ。爺さんありがとう!
「ありがとうございましたー!」
無事に今日も完売できたね。それじゃリート、リル、フル。片付けをしてから一旦宿に屋台を置いてこようね。
ん?
「君がこの屋台の店主ですか?」
何だこのやけに丁寧なおっさんは? 何か御用ですか?
「君の屋台を勧誘に参りました」
え?
「まずは本日夕刻から開催される『夕食街道』に参加下さい。『開催規定』と『屋台の設置場所』はこちらに記載されている通りです」
ちょっと待ってよおっさん。オレ、文字が読めねえよ!
「ああ、そういえばそのようでしたね。それでは読んで差し上げます」
『夕食街道』というのは、昨日サキとウキが参加した『深夜公演』の料理版らしい。
販売内容は自由だけど最低五十食は用意することが条件。その代わり参加報酬として事前に一括で『五万エル』がそれぞれに支払われるんだ。
だからオレたちはそこから五十食分の原価を引いた分が儲けになるのさ。
一方、来場者は地元の名士や家族、他都市からの賓客が中心となるんだって。要は官憲が評判の良い屋台を集めて開くパーティーみたいなものなのかな。
「夕食街道で更に評判が良かった屋台には『競技会・料理の部』への出場権が与えられます」
わかった。とりあえず参加しなきゃ街から追い出されちゃうんだものね。頑張って夕食五十人分用意するよ。
「それでは会場でお待ちしています」
ありがとう。親切な官憲のおっさん!
さて、何をつくろうかな。
今日の失敗は繰り返さないようにしなきゃね。
とにかく視覚と嗅覚に訴えなきゃならないし。どーすっかな。
……。
よし、あれにしようっと。
それじゃみんな。急いで帰って準備を始めようね!
「今日の弁当も最高だったぞユーキ!」
「美味しかったよユーキ。おや、忙しそうだね。どうしたんだい?」
あ、お帰りなさい。実はオレも『スカウト』されたんだよ。今晩の『夕食街道』に参加するのさ。
「へえ。そりゃ良かったね」
「ユーキの料理なら当然といえば当然だな」
でさ、サキ。これ読んでくれる?
「どれどれ」
オレはもう一度サキに開催規定を声を出して読んでもらったんだ。
「料理は一種類に限るって書いてあるよ」
やっぱり読んでいてもらってよかったあ。色々とこしらえちゃうところだったよ。ありがとうサキ!
まずはコーン粉をカッテージチーズと卵に少しの塩で練り上げてから寝かせておく。
十分寝かせたら、それをちぎって伸ばしていく。そう、トルティーヤをこしらえるのと同じ手順さ。
そうしたらリートに頑張ってもらって、丸く薄く伸ばした生地をオーブンで下焼きしておいてもらう。
うは、予想通り膨らんだぜ。じいちゃんが言っていた通りだ。
『イーストがなくても卵とカッテージチーズがあれば何とかなることもある』
何とかなったよじいちゃん。
他の材料もそれぞれ下ごしらえは終了。後は仕上げだけ。
よし、準備完了だ。後は現地で準備すればいいわ。
「今日は夜の公演もないし、あたしらもついていくかね」
「そうだな。他の屋台の興味もあるしな」
でも、会場は入場制限があるよ。
「ということで、あたしとウキは今日一日デーモンロードの店員だよ。よろしくね」
あ、そっか。店員を名乗れば会場に入れるね。こちらこそよろしく。
「ところで、あたしたちに試食はないのかい?」
「俺も食いたい」
仕方がねえなあ。生地に余裕が無いから1枚ずつだよ。ちょっと待ってね。
リート、オーブンをお願い。
ほれ、どうだい?
「こういう食べ方もあるんだねえ。美味しいよ」
「ユーキ、これは絶対に人気がでるぞ!」
そう言ってくれると嬉しいな。
それじゃ会場に行きましょう!




