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キューピーさん

「美味かったよお嬢ちゃん。ところで明日もこの料理を出すのかいの?」

 どーすっかな。熊肉の塩釜焼がいい感じに熟成してるんだよなあ。せっかくだからやっぱりあれだよなあ。

「爺ちゃん、明日は多分スープだよ」

「そうかいそうかい、それじゃまた明日も来るとするかの。それじゃ代金は七百エルだったな」

 まいどあり。

 調子のいい爺ちゃんだな。


 まあいい。とりあえず夕食の支度だ。

 ちょうど市場に、隣の屋台でおっさんが売っていた小エビのようなのが大量に売っていたので、それを買うことにする。十尾五百エルってお手ごろだな。って、これを茹でたのを一尾五百エルってぼったくりだろうよ。まあいいや。とりあえず三十尾くらい買っていくかな。ウキはエビが好きだと言ってたしな。

 肉屋で追加の鳥ガラも手に入れたし、今日はこんなもんだね。

 それじゃ帰ろうか。リート、リル、フル。

 

 昨日オレが調達したのは大量の『油』なんだ。アベルのかーちゃんから『オイルシード』の事は教わっていたけど、いかんせん手作りじゃ量に限界があったんだ。でも大きな街なら、絶対に専門の店があると踏んでいたんだよ。そしてオレ大当たり。

 ラードやバターに比べて滑らかだし、癖がないから扱いやすいんだ。


 で、昨日オレがこしらえたのは『自家製マヨネーズ』

 ヒントは『ユニコーンコーン』の存在だったんだよ。

 卵とレモンりんごの汁に少量の塩を入れて、ハンドミキサーでひたすら混ぜる。ほんで油を少し入れてひたすら混ぜ、追加で油をほんの少し入れ、やっぱりひたすら混ぜる。これの繰り返し。で、クリーム状になったら出来上がり。美味いぞ。

 マヨネーズにエビときたらあれしかないだろという『ど定番料理』が今日の夕食さ。

 そしてもう一つ。昨日買った切り身というのは魚の赤身なんだ。こいつを油に漬けて一旦百度近くまで温め、それから一晩放置しておいたんだ。

 そう、こいつは『魚の油漬け』 そうです『ツナ』ですよ『ツナ』 まぐろじゃないけどな。

 

 エビは殻を向いて背ワタをとって塩水でもみ洗いしてあげる。小麦粉と片栗粉がないのがこんなに不便だとは思わなかったなあ。

 朝はパスタだったし、昼はあれだったから、夕食は明日の昼に売るものにするかな。ついでに明日の朝食用にパイシートもこしらえておこう。


「ユーキ、あたしゃ驚いたよ!」

「ユーキ、お前はアホの子だが天才だ!」

 賑やかなお帰りだね、サキ、ウキ。

「あのクリーミーでほんのり酸っぱいソースはなんだい?」

 マヨネーズだよ。

「あの熊肉は冷めても美味かったぞ」

 そうだろ。塩釜焼きにしたまま熟成させたからな。しっとり柔らかかっただろ?

 二人に持たせた包みは『お弁当』

 中身は『コーンマヨのトルティーヤ』と、薄くスライスした熊肉の塩釜焼きを青菜と一緒に生棒パンのクレープで巻いた『ハムサンドもどき』だったんだ。サキは一本ずつとフルーツ。ウキは二本ずつ。

 あれなら冷めても美味いだろ?

「美味しかったよユーキ。付け合わせのはちみつレモンりんごも口直しによかったよ!」

「周りのうらやましそうな目線が心地よかったぜ!」

 それじゃ明日もお弁当にする?

「お願いできるかい?」

「当然だ!」

 そう言ってくれると作りがいがあるよ、二人とも。

 

 よっしゃ、夕食の仕上げをすっかな。

 まずは熟成させた熊の塩釜焼きを薄く切ってあげる。

 それからユニコーンコーンの粒を軽く炒めてあげて、バターも用意。

 それとは別に下ごしらえをしておいたエビらしきものにコーン粉をまぶしてあげる。

 さあ行くぞ!

 仕込んでおいた生棒パンの中華麺は、今回は太めにしたんだ。こいつを茹でつつ、粉をまぶしたエビをフライパンで両面に焼き色を付けてあげる。

 こんがり焼けたエビをボウルに移して、そこにマヨネーズと刻んだ玉ねぎを投入して一気に混ぜる。よっしゃ。

 続いてトリガラスープに今回は塩ダレを合わせて丼に用意。

 で、茹で上がった麺を丼に移した後、熟成熊肉の薄切りをたっぷりと乗せ、コーンとバターを浮かべてあげる。

 

「今日の夕食は熊チャーシュー塩バターラーメンとエビマヨネーズだ!」

「おお、久しぶりのラーメンだな」

「エビがこんがり香ばしい香りだねえ」

 だろ? さあ食え。

 

 その日の夕食はラーメンとエビという好物二種で大満足のウキが最初から最後までわめき尽くして終わったのさ。美味い美味いと。

 

「ふう、美味しかったねえ」

 ありがとサキ。

「俺はもうユーキから離れられないかもしれん」

 そういう意味深な台詞をメシを絡めて言うなウキ。

 

「ところで、あたし達はこれから『深夜公演ミッドナイトパフォーマンス』があるんだけど、ユーキも見に来るかい?」

 それってなんなの?

「覆面審査員が街中のパフォーマーをスカウトするんだよ。場所はオペラハウスだ。客席もあるから治安の問題はなさそうだし、家族って言えば入れてくれるだろうしね。こいつは街中のパフォーマンスと違って固定の出演料が出るから、あたしらみたいなのには美味しい舞台なんだよ」

 へえ、興味あるなあ。でも、リート、リル、フルは入れるの?

「精霊獣を立入禁止にすると『世界精霊獣愛護協会』が来るからな。問題なく入れてくれるだろうよ」

 そうでしたそうでした。おっかねえ団体があるんだったな。それなら行く。明日の朝食も屋台も仕込みは殆ど終わってるし。連れてって!

「それじゃ一緒にいくかね」

「くれぐれも暗い道には入るんじゃないぞ」

 ありがとうサキ、わかってるよウキ!

 

 それは圧巻だったんだ……。

 煌々と火が焚かれた舞台。闇に沈む観客席。

 そして舞台上の幻想的な舞。

 それをやさしく支える歌と楽器の音色。

 観客席は無言だった。

 そして歌が終わり、楽器の音色が収まり、踊り子が舞台にうずくまったとき、それは反転した。

 観客の熱狂と賛辞の絶叫。

 これが『スタンディングオベーション』っていうんだね。

 すごいや……。

 それしか表現の言葉が出ない。他に出るのは涙だけ。

 サキ、ウキ。ありがとう。

 

 サキとウキの公演は無事終了。他の演目も素晴らしかった。

 サキによると、今日はシリアスなパフォーマーを主に集めたんじゃないかっていうんだ。

 事前に観客にアナウンスをする必要もあるからだろうってさ。

 そっか。スカウトの人たちも大変なんだね。

 ところで出演を断るとどうなるの?

「滞在証没収の上、街外への即刻退去処分さ」

「滞在証の裏に書いてあるぞ」

 読めねえよウキ。

 でもそうなんだ。スカウトの命令は絶対ってことなんだね。

「スカウトも『公演への参加指示』以外の権限は持っていないからね。ヘタな街のプロモーター連中よりはよっぽど信用が置けるよ」

 プロモーターってなんだろ? でも信用できるのはわかったよ。


 そして帰り道。

「ユーキ、腹減った」

 本当にどうしようもねえなウキは。何でこいつの歌に涙したんだオレは。

「ユーキ、あたしも小腹がすいちゃったよ」

 そっか。あれだけ動けばそうだよね、サキ。

 じゃ、ちゃっちゃっとゼリー栗のタルトでもこしらえますか。フルーツはたっぷり買い込んだしね。

 ウキにはオムレツを焼いてあげるよ。それくらいでいいだろ?

「タルトはクリームを多めにしておくれ」

「オムレツにソーセージを入れてくれると嬉しい」

 お前ら二人共、さっきのオレの感動を返せよ。

 

 こうして『リタイアメントキャッスル』の二日目も無事終了したんだ。

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