アメリカンとメキシカン
「さて、部屋を確保しておくかね」
日暮れ前に無事宿町に到着したオレたちは、旅人に宿代わりの部屋を提供している住民の元を訪れ、部屋を借りたんだ。
途中で収穫してきた『一角玉蜀黍』は、乾燥したものは種の状態と粉に挽いてもらったものの二種類。熟したものは茹でたままのが数本と、軸から切り出して粒状にしたもの。
「ウキ、まだ茹でユニコーンコーンは食べるの?」
「他に食うものがなければ食う」
あれま、あっさりしたもんだね。そりゃそうか。あれだけ食ってりゃ飽きもするよな。
宿町には市場がなく、よろず屋のような小さな店が営業しているだけ。加工が必要な生棒パンなどは売っていないけれど、近くの農村から運んできているのか、野菜と玉子と生乳はちゃんと売っている。『ユニコーンコーン』も並んでいるね。って、一本三百エルもするのか。高い。
でも、収穫の手間を考えればそんなものかな。オレはただで手に入ったけど。
さてっと、夕食は何にすっかな。
まずは定番から行ってみるか。
『リバーケープの街』からずっと漬け込んでいる塩漬け肉の一部を取り出して、表面の乾いてきたところを切り出すんだ。よしよし、順調に熟成が進んでいるぜ。
それを刻んで、生姜にんにくと一緒にゆっくりと炒めてあげると、熟成した脂身が香ばしく香るんだ。
そしたらそこに定番野菜をざく切りにしたものを入れ、軽く火を通してから鍋に移動。そこに熟したコーンをたっぷりと入れ、ミルクを注いで煮込んでやる。
次にコーン粉を水に溶いて練り込んであげる。
生地がまとまったら薄く伸ばして、油を引かないフライパンで両面を焼き上げるんだ。
あの阿呆は沢山食べるだろうからな、余分に焼いておこう。
「ユーキ、腹減った」
言ってるそばからこれだよウキは。
「ユーキ、そのクレープみたいなのはなんだい?」
食べてからのお楽しみだよサキ。
最後は残しておいた塩漬け肉をコーンと一緒にバターで炒めてあげる。そう、定番のアレですよアレ。
「サキ、ウキ、夕食の準備ができたよ」
「腹減った」
「うわあ、甘い香りが美味しそうだねえ」
本日のメニューは『具沢山のコーンスープ』の『トルティーヤ』添え。さらには『バターコーン』であります。
さあ食え。
「ああ、コーンのスープは珍しくはないけど、ミルクで煮たのは初めてだよ。じっくり甘くて体が温まるねえ」
コーンってミルクにも合うよね。
「すげえな、バターとコーンってこんなに合うんだな!」
そうなんだよ。いくらでも食えるだろ。
「この『トルティーヤ』ってのは生棒パンのクレープよりもパサパサしているねえ」
「こりゃこのまま食べてもつまらんな」
仰るとおりだよウキ。このままだと物足りないかもしれない。けど、こいつの実力はそんなもんじゃないぜ。
「ちょっと待っててね」
オレが準備しておいたのは前の街で仕込んでおいたソーセージ。
これを焼いて、トルティーヤに包んであげる。
ほれサキ、ウキ、食ってみろ。
「へえ、生棒パンのクレープよりもソーセージとの相性がいいねえ」
「プレートリーフと違って、これは腹にたまるな。すごいぞユーキ」
更にお得なのは、生棒パンが手に入らないと焼けないクレープとは違って、こいつは保存がきくコーン粉でいつでも焼けるということ。今日みたいな買い物が不調な日でも安心だ!
「ってことは、これはいつでも食えるということか?」
「そりゃありがたいねえ」
ホント『ユニコーンコーン』さまさまです。
「うおお、腹いっぱいだぜ!」
良かったな。
「ユーキ、なにか手伝うことはあるかい?」
大丈夫だよサキ。明日の朝食も楽しみにしていてね。
オレは鍋の中身をかき回しながらサキに笑顔を向けたんだ。これでよしっと。
さて翌朝。
サキとウキの邪魔をしないようにしながら、今日も元気に朝食の用意だ。
昨夜練っておいたコーン粉と牛乳に卵を入れて混ぜあわせた後、粒コーンをこれでもかとばかりに投入し、再度混ぜ合わせる。で、リートがスタンバイしているオーブン行きだ。これはじっくりと焼くからね。
その間に、お肉はひき肉にして白トマトとパプリカ玉ねぎも刻んでおくんだ。
で、小さめのトルティーヤを何枚も焼いていく。
次にひき肉と玉ねぎはじっくり炒めてから塩、辛豆粉、ワンダラーバインソースで味付けをしておく。うへえ、こりゃ辛そうだ。
付け合せの青菜もざく切りにしておこう。そうそう、水抜きしたカッテージチーズもほぐしておかなきゃね。
「そろそろかな」
オーブンの中から甘い香りが漂ってきた。
で、ウキ用には魚醤油と白トマトと蒸留酒でこしらえたタレに漬け込んでから焼いた薄切り焼肉、サキ用にはスライムゼリーのデザートを用意して完成。
飯だぞー!
「はいよ。待ってたよ」
「腹減った……」
既に二人はお目覚めのようでした。
「甘い香りだ。今日は何を食べさせてくれるんだい?」
「ウマそう! ウマそう! ウマそう!」
今日は『コーンプディング』に『タコス』だよ!
まずはオーブンから焼けたコーンプディングを取り出して、皿に取り分けてあげる。
アツアツだから気をつけてね。
「うわあ、コーンの甘さと香りがすごいねえ! 舌触りもとろっとしたのとつぶつぶが楽しいよ!」
「甘い、甘くて美味いぞユーキ!」
甘いだろう、甘いだろう。そういう料理だからな。
今日はそれだけじゃないぜ。
オレはトルティーヤに肉と玉ねぎの炒めもの、チーズ、青菜を乗せて半分に折ってあげる。
ほれ、ウキ、これも食べてみな。サキは好みで味を調整してね。
「辛い! 辛くて美味いぞ!」
「こりゃまたトルティーヤがいい味出してるねえ」
でしょ。これも常備菜だけでできるから、普段から出せるよ。
そうそう、ウキ、トルティーヤに焼肉を挟んでみな。
「これも美味いぞ! 肉の旨味をトルティーヤが包んでいるぞ!」
「どれどれ、あたしにもちょっともらえるかい? へえ、これも甘辛くて美味しいねえ」
うわ、大人気だわ。追加のトルティーヤと肉を焼いてこなきゃ。
ああ、お腹いっぱい。二人につられてオレも目一杯食べちゃったよ。
ところで『リタイアメントキャッスル』ってのはどんな街なの?
「この辺り一帯の領主が住む街でね、これまでのリバーケープやスモールフィールドよりも賑やかだよ」
あれより賑やかなのかあ。
「食材も各地から集まるから、ユーキが欲しい物もあるかもしれんぞ」
へえ、それは楽しみだなあ。
「それにまもなく『コンテスト』の時期だから、いろんな連中も集まっているだろうね」
『コンテスト』?
「様々な芸を競いあう場さ。領主が好きでな」
ふーん。なにか色々と賑やかそうね。
「ただしうっとおしい連中も多いけどな」
うっとおしい連中?
「官憲だよ。領主の警護名目で威張り散らしているのさ」
うええ。
「まあ、目立たなきゃ絡まれることもないから安心しろ」
そっかあ。
でも、二人と一緒にいればだいじょうぶだよね。
ってごめん! 二人と三匹ね。
だから噛まないでリル、踏まないでフル、出て行かないでリート……。
「それじゃ、今日中にリタイアメントキャッスルに入るよ!」
「おっす」
はーい。
リタイアメントキャッスルまでの道でもオレたちはユニコーンコーンの群生地を見つけ、乾燥コーンと熟したコーンをたんまりと収穫したんだ。
三食連続でとうもろこし三昧だぜ。
ついでに『焼きとうもろこし』の販売もして、オレたちは路銀を稼いだんだよ。
ホント処女って最強だよな。すごいぞオレ。
いつかは失うんだろうけどさ。
って、真っ昼間から何考えてんだオレは。
「ユーキ、なに顔真っ赤にしてんだい?」
「またアホなことでも考えていたんだろ」
アホの子に呆れるような表情でうなずかないでよリート、リル、フル……。




