薄くて丈夫で透明で
よし、新しい街での新しい朝が来たぜ。今日もオレは絶好調だよ。
リート、リル、フル、今日も楽しく過ごそうね。
ってことで、朝食と屋台料理の仕込みを始めよう。
まずは大量の肉をミートミンサーでひき肉にしてあげる。
こいつに味付けの岩塩粉、匂い消しの辛豆粉、つなぎの卵と、昨日ゲットした『ワンダラーバインのペースト』もちょっと入れる。
で、ひたすらこねる。
ここで秘密兵器登場なのだよ。それは、ミートミンサーにくっつけるアダプター。これは細長い金属のチューブなんだ。
こいつをミンサーに取り付けて、これも昨日ゲットした『ワンダラーバインのうにょうにょ』の片方を縛って、もう片方をチューブに差し込んであげる。
そうしてから肉をミンサーに戻し、ハンドルを回せば、肉がチューブを通じてうにょうにょに詰まっていくんだ。
肉が詰まっていく透明なうにょうにょを十五センチずつくらいでひねってあげる。その数約五十本分。
これを半分はスモークし、もう半分はそのままお湯に投入。リート、お湯は沸騰させないでね。
スモークしたのも続けて鍋に投入して、じっくりと火を通してあげる。
ふっふっふ。目論見通りの出来だわ。
後は生棒パンを薄くのばして、両面に焼き色をつけておいてあげる。これも五十枚。青菜はさっと水で洗って、ざるにとり、水を切っておくんだ。
「ユーキ、おはよう。今日も精が出るね」
あ、サキ、おはよう!
「ユーキ、腹減った」
お前はそれしか言葉を知らんのか? ウキ。
茹であがったのをざるに上げ、水分を拭きとってから、白いのを四本と、茶色いのを四本フライパンに並べ、ゆっくりと焼き色をつけてあげる。
うん、いい焼き色だわ。
で、これと青菜を、棒パンの薄焼きで包んであげれば完成!
「おまたせ! 『ワンダラーバインのソーセージ、棒パンクレープ包みだよ! 白い方はプレーン。茶色い方はスモークだからね」
「また奇妙なもんをこしらえたねえ。これは昨日洗っていたワンダラーバインの蔓かい?」
そうだよ、まずはかぶりついてみてよ!
「俺はお前を信じるぜユーキ!」
うれしいよウキ!
パキッ!
「うおおおおお!」
「これは驚いたねえ……。なんだいこの食感と肉汁の量は」
でしょでしょ? おいしいでしょ?
「ユーキ! おかわりだ!」
はいよ、ウキのはちゃんと二人前用意してあるよ。
「白いのと茶色いので、ほんの少しだけ風味が違うんだねえ。それにこの『ちょっと辛い味付け』が食欲をそそるよ」
それは昨日リートが焼いた『ワンダラーバイン』のペーストだよ!
「でさ、ウキ、これはいくらくらいで売れるかな?」
「一本五百エルで十分いけるぞ! おかわりだ!」
ありがとねウキ。それじゃ、もう一本分仕込むかな。
『うにょうにょ』の保存方法も試さなきゃならないなあ。
そしてお昼。オレ達は街の広場に移動したんだ。
『スモールフィールド』の広場は『リバーケープ』の広場よりちょっと広いかな。ここは銀髪族と赤髪族が半々くらいだってサキが教えてくれた。
「まずは客寄せからだね。ウキ、始めるよ」
「わかった、姉ちゃん」
ああ、いつ聞いても素敵な歌声ねウキ。残念なイケメンの面目躍如だわ。
ああ、真昼間からセクシーねサキ。フェロモン振りまきまくりよ。
サキとウキの公演が終わると、二人による『サクラタイム』の始まり。
「ねーちゃん、茶色いのと白いのを一本ずつくれ!」
「あたしには白いのをひとつもらえるかい?」
サキとウキの公演で集まった人たちが、二人に注目している。
「おまちどうさま!」
パキッ!
「こりゃうめえ!」
「これは美味しいねえ」
二人とも素晴らしい演技よ。
「お嬢ちゃん、俺にも一本もらえるかい?」
「五百エルだよ」
サキとウキの演技に引き込まれた、勇気あるおっさんがこの街でのお客さん第一号。
おっさんは、おっさんの仲間らしい一団に戻ると、その輪の中で音を立てたんだ。パキッ!
ああ、おっさんの驚きの声が心地いいわ。
「お嬢ちゃん、俺にも一本だ」
「俺は白と茶色を一本ずつくれ!」
「ところでこの料理はなんて言うんだ?」
「『ユーキ風ソーセージのクレープ巻』だよ!」
この日は広場のあちこちで、パキッという音が響くことになったのさ。
「大海蛇が揚がったぞ!」
ソーセージが無事完売で、一休みしていた広場に、こんな声が響いたんだ。
『シーサーペント?』
「『大海蛇』ってのは、スモールフィールドの沖合に棲んでいるモンスターさ」
へえ。
「漁師たちが時々襲われるんだが、たまにこうして『返り討ち』にしてくるんだ」
うわ、ちょっと興味があるかも。
「シーサーペントの肉は、上品な白身魚のようで美味いんだよ」
食べたい!
「じゃ、見に行ってみるか」
行く行く!
「うわあ、でっかい!」
港に横たえられた『大海蛇』は、長さ十メートルくらいの、白い鱗を持った、蛇というより竜といったイメージのモンスターだった。細長い口から覗くギザギザの歯が怖いなあ。舌がでろんと垂れているぜ。
三人でシーサーペントを眺めていたら、漁師らしきおっさんたちが、鮪包丁みたいなのを持ち出して解体を始めだした。
へえ、見事な手際だなあ。あれは真似できないわ。
「ユーキ、大海蛇肉を買っていくかい?」
うん。
「俺は魚は苦手だ」
シーサーペントって魚なのかしら? でも、まずは食べてみたいな。
「一切れだけ買っていくね」
どう見ても白身魚に見える肉の値段は、一キロくらいで千エルだった。意外と安いなあ。
そうしているうちにも、みるみる大海蛇が解体されていく。あ、あれも買ってみようかな。
「おじさん、それもくださいな」
「なんだいお嬢ちゃん、妙なものが欲しいんだな。いいよ、肉のおまけってことで持って行きな」
うふふふふ。
「それじゃユーキ、ちょっと早いけど打ち合わせがあるから行ってくるよ。夕食をお願いね」
「俺はソーセージでいい」
いってらっしゃい!
さて、どうしたものかな。
さすがに未知の肉を刺身にするのは気が引ける。まずはバターで焼いてみようかな。
じゅわー。
うーん。まんま白身魚だわ。お肉がほろほろしていて、やさしい旨みを感じる。
魚嫌い向けの匂い消しには、スッキリした香りの『星香実粉』の出番ね。
まずはシーサーペントの肉をすり身にして、卵白、岩塩粉、星香実粉と混ぜてあげる。
これをワンダラーバインのうにょうにょに絞り袋で詰めてあげる。少量ならミンサーを使うよりこっちの方が手軽なんだ。
あとはソーセージと同じ手順。
それとは別に、生パンの実を薄く延ばしてバターを塗り、半分に折ってからまた薄く延ばしてバターを塗る。
これを五回くらい繰り返せば、パイ生地の出来上がり。これを十五センチ角に切り分ける。
その上に岩塩粉と星香実粉を軽くまぶしたシーサーペントの切り身を乗せて、折り曲げる。
かぶせた生地に包丁で三本切れ目を入れて、卵黄を塗ったら準備完了。
もう一つには、切り身と一緒に固めて置いたカッテージチーズも乗せるんだ。こっちにはバツ印に切れ目を入れてあげる。余った生地は細長く斬っておく。
仕上げは二人が帰ってくる直前に。
さて、これでウキを騙せるかな?
買ってきたもう一つの食材は、肉の角煮をこしらえたときと同じように下茹でをしておくんだ。うわ、灰汁がすごいことになってる。
灰汁が出なくなったら、一旦取り出して水洗いをし、定番野菜をざく切りにしたのともう一回煮てあげる。今度は一時間くらい煮たら、そのまま放置しておくんだよ。
さてっと、明るいうちに市場を覗いてこよう。明日の商品も用意しなきゃ。
行くわよリート、リル、フル!




