所詮は植物でした
「もうすぐ『スモールフィールド』の街に到着だよ、ユーキ」
へえ、意外と早く着くのね、サキ。
「ユーキ、魚料理は出来るのか?」
どんな魚か見てみないとわからないよ、ウキ。
肉料理に比べて、魚料理は色々と難しいんだ。一口に『魚』と言っても、種類がたくさんあるからね。
「なんだい、あの人だかりは?」
「スモールフィールドに向かう連中だな、あれは」
なんだろうね。オレ達と同じような姿をした人たちが何やら集まってる。
三人を代表してウキが彼らに声を掛けたんだ。
「なあ、どうしたんだ」
「街道でちょっと厄介事が起きてな」
「厄介事とは?」
「街道に『放浪蔓』が居座ってんだよ……」
サキが『ワンダラーバイン』について教えてくれた。
何でも、そいつは無数の蔓を持った植物で、中心に消化液を貯めた壺のような本体があるらしい。
そいつはまるで意識があるかのようにうねうねと動いて、生き物という生き物をとっ捕まえては、真ん中の壺に放り込むんだって。それってイソギンチャクとウツボカズラの化け物みたいなものかな?
ちなみに強さは人間様よりちょっと強いくらい。数人がかりなら何とかなるモンスター。
だけど、旅の皆さんは、それぞれリスクを冒したくないので、仕方なくワンダラーバインがよそに移動するのを待っているらしい。
さすが別の世界。ファンタジーなモンスターの登場だわ。
「で、そいつって食べられるの?」
「そいつを誰かが食べた話は聞いたことがないねえ」
ってことは『先駆者』の称号は残っているということね。ちょっと興味がわいたわ。
その先にいたのは、緑色のうねうねした植物。うわ、想像通りの気持ち悪さだよ。
「仕方がねえ。草刈りでもすっか」
へえ、残念なイケメンもでも、そのセリフはちょっとカッコイイよ、ウキ。
「にゃあ」
ん? どうしたのリート。 お前も連れてけって?
なになに、でっかくても所詮は植物? 強気ねリート。
「って、リートが言ってるんだけどさ」
「ほんじゃお手並み拝見とするか」
「無理はするんじゃないよ」
頑張ってみるねウキ。危なくなったらすぐに逃げるね、サキ。
さあ、オレ達の見せ場だよリート。
「ふぎゃあ」
ねえねえ、ちょっと『中二病』してもいい?
「にゃあ」
よっしゃ。
「我より『火を司る魔人』の名を与えられし精霊獣よ、我の命に応じ、我らに仇なすものを業火の洗礼を与えよ!」
きゃー。かっこいいぞオレ。
ん?
なんで恥ずかしそうな表情でこっちを見つめるのよリート。
リルもフルも、オレにアホの子を見るような目線を送るのはやめなさい。
「ユーキ、お前はホントにアホの子だな」
「ユーキ、さすがのあたしも今のは庇いきれないよ」
わかったよ畜生。それじゃリート、真面目にやるよ。
「にゃあ」
『焼き払え!』
「がおおおおおおん!」
うお、びっくりしたぜ! 子猫ちゃんがいきなり炎を纏ったライオンに変身したよ!
さすがのウキとサキも唖然としてるぜ。よし、突っ込めリート!
すごいわすごいわ! 無数の蔓がリートを捕まえようとしてどんどん焼けて行くわ!
ひゃあ、本体もあっけなく食いちぎっちゃったわ!
うわあ、獰猛だわ、かっこいいわ、素敵だわ! リート!
って、痛い痛い! アキレス腱は噛んじゃダメだって、やばいってリル!
足を踏むなあ! お前の体重はシャレになってないんだよフル!
なになに、お前たちだってその気になればできるんだって? わかったよ、その時はお願いね。
「にゃあ」
お疲れ様、リート。
「ユーキ! お前、精神力は大丈夫かい? 気分は悪くないかい?」
全然平気みたいだよサキ。ありがとう。
「さすがはアホの子だな。あれだけの戦果をあげておいて、ペット漫才で締めるとはな」
え?
気がつくとオレは、他の旅人達からの驚嘆と称賛に包まれていたんだ。
と、ちやほやされている場合じゃなかった。オレには目的があるんだ。
旅人達が解散した所を見計らって、オレはワンダラーバインの調査を始めたんだ。
まずは本体。これは話にならないわ。硬い、硬すぎる。それに消化液がちょっとグロいわ。何が溶けているかわかったもんじゃないし
次は蔓。まずはこんがり焼けたところから。直径二センチくらいのところを両手で折ってみる。
パキッ!
へえ、いい音だわ。まるで『アレ』にかぶりついたときみたいな音だ。
次は味見ね。緑色が鮮やかだわ。ちょっと一口。
……。
辛い…。辛いわ…。
リル、お水よ! お水を持ってきて!
「おいアホの子、何してんだ」
うるさいわねウキ。
あーびっくりした。でも、落ち着いてみると、これってまんま『ハラペーニョ』よね。慣れればいけるかも。
次は生の部分ね。すごいわ、ぐにょんぐにょんだわ。
焼けたのは中身がペースト状に固まってたけど、生は液体に近いのね。油圧式ポンプみたいな仕組みで動いていたのかな。
どれどれ。
皮はぐにょぐにょしていて、味がしないわ。しっかしこの皮、弾力があってしっかりしているなあ。
中身はどうかしら。舐めてみよ。
……。
辛い…。辛いわ……。辛い上に青臭いわ……。
リル、お水!
「何だいユーキ、泣きそうな顔して」
サキ、これって、青汁とハラペーニョソースのカクテルみたいだったの。
うーん。火を通したのは味付けに使えそうね。生はいかんな、生は。
って、おっさんかよオレは。
後は……。
やだ、思いついちゃった! リル、お気に入りの『漏斗』を持っておいで!
「何してんだユーキ」
「何か思いついたのかい?」
ふっふっふ。
まあ楽しみにしていてよね。さあリル、蔓の中身を洗い流すのよ!
まずは桶に水を張って、リルに水を流してもらいながら、生の蔓をもんでいくの。そうすると両端から中身が流れ出てきて、蔓はふにゃふにゃの皮だけになるの。
で、仕上げはリルの漏斗。これを蔓の片方に差し入れて、リルに勢いよく水を噴き出してもらう。これで残った液体もきれいに洗い流せるんだ。
こうしてオレは、透明で長い筒状のうにょうにょしたのをたくさんと、刺激的な辛さを持つ緑のペーストを一瓶分手に入れたんだ。
「すっかり遅くなっちゃったねえ」
ごめんよサキ。
「腹減った」
今日は外食でお願い、ウキ。
オレ達も無事スモールタウンに到着。サキは屋内荷車置き場が備え付けられている部屋をとってくれたんだ。きっとオレに気を使ってくれて。その期待にこたえられるよう頑張るよ。
次にオレ達が向かったのは、サキとウキが明日からステージに上がる予定の居酒屋なんだ。店の名前は『ととや亭』
うわ、魚臭いぞ。これは期待できるか?
「ユーキ、お前は何を食べる?」
えーっと、あれ。
オレは隣の席でおっさんが食っていた白身魚らしきものを選んでみた。
「へい、おまちどう。八百エルだよ」
「おつりちょうだい」
オレの前にも、白身魚をソテーしたようなものが来たぜ。どれどれ。
へえ、クセがなくて美味しいや。色々と工夫できそうだわ。
サキの前に並んだのはピンク色がきれいな身の魚の切り身。サーモンみたいだわ。
ウキの前には肉を焼いたの。
「俺は魚は嫌いなんだ」
あれ、それは困ったな。
「嫌いって、何が嫌いなの」
「生臭いのがダメだ」
それだと、シンプルな焼き魚とか煮魚はアウトだね。うーん……。
「この白身魚やサキの魚はどうなの?」
「食えないわけじゃないけど、好んでは食わねえ。舌触りもぼそぼそして美味いと思わん」
こりゃ難物だぞ。
「ユーキなら美味い魚料理もつくれるかもよ」
嬉しいことを言ってくれるね、サキ。
「俺、残しちゃうかも」
頑張って美味しくするよ、ウキ。
この後サキは打ち合わせがあるというので、ウキとオレ達だけ先に店を出たんだ。
「ウキ、肉と青菜と生棒パンを買いたい」
「それじゃ市場に行ってみるか。生棒パンは店に聞いて問屋を紹介してもらおう」
こうして仕入れも無事終了。
「ユーキ、明日は何を売るつもりだ」
「内緒」
ふふふふふ。明日のウキが驚く顔が楽しみだわ。




