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男女の仲は複雑なのね

「ウキ、お客さんだよ」

「そうみたいだな。姉ちゃん、ちょっと行ってくる。案内を頼むよ」

「静かにね」


 んっ……

「おや、起こしちゃったかい? まだ暗いから寝てな、ユーキ」

 んん……


 今日も新しい朝が来た。今朝も絶好調だぜ!

 サキを起こさないようにそうっとオレは身を起こし、フルに手伝ってもらって、みんなを起こさないように静かに屋台と一緒に外に出る。

 さてっと、まずは草スライムの実験結果を検証だ。

 最初はスープを吸わせて冷ましたの。

 おお、期待通りだ。熱してから冷ますと『にこごり』のようになっている。

 うん、食べた感触も、とろとろがぷるぷるになってる。

 さて、もう一つの水に常温で浸したのはどうかな。

 ……。

 うええ……。

 食感はタピオカみたいだけど、いかんせん青臭いなこれは。匂い消し匂い消しっと。

 そうだ。『あれ』を買ってあったんだ。吸わせるのも水でなくて生乳にすれば青臭いのはきっと抑えられるね。

 よし、本日お昼のチャレンジデザートは決定。まずは草スライム干しをみじん切りにしてっと……。

 朝食はいつものフレンチトーストに、塩漬肉の表面を薄切りにして塩抜きをしてから、今度はフライパンで焼いてあげる。


 今日は、目先を変えて、生乳からこしらえたカッテージチーズも添えるんだ。

 作り方は簡単。生乳を沸騰しないように温めて、レモンりんごのしぼり汁を徐々に加えて行くだけ。

 そうするとチーズが分離してくるんだ。

 朝食用にはこれを布でこしただけの、ふわふわなのを添えてあげる。残りはさらに水を絞って、固めてから冷やして夕食行きだよ。


「ユーキ……」

 ん? どうした?

「ユーキ……」

 なんだ、やけに早起きだなウキ。まだ皆寝てるぞ。

「ユーキ…… 俺は……」

 え? 何だその思いつめたような表情は?

「俺は……お前……」

 え? え? 何なの? その泣きそうな瞳は?

「お前……を……」

 待てウキ! そういうのはだな、こんな朝っぱらからじゃなくてだな、何回かデートを重ねてからの夕暮れとか、オトナの夜とかな、いろんな手続きやシチュエーションが必要なんだよ!

 な、まずはお友達から……。

「食い……たい……」

 バカ野郎! いきなり肉体関係を求めんなこの思春期野郎! 何で顔が熱くなってんだよオレ! 畜生オレは未成年だぞ!

 

「腹……減った……」

 はいオレ、ピエロでした……。

 フル、ウキを蹴ってよし。

「ぶるる」

 おや、蹴らないのかい? いつもは率先してウキに向かっていくのに。

 え? 何か事情があるみたいだから食わせてやれって?

 あれま、本当に腹が減っているみたいね。フルが同情するくらいには。

「肉……」

 仕方がないなあ。

 

 まだ棒パンには生乳が染み込みきってないし、この様子なら肉を食わせとけばいいみたいね。

 塩漬肉はもったいないから、こっちの買い置きでいいや。

 

 まずは肉の塊から、脂身つきで肉を切り出してあげる。この様子なら五百グラムは食うなこいつは。

 次に脂身と赤身の間の太い筋を包丁で刺し切り、両面に『岩塩粉』と『辛豆粉』を薄く摺りこんでから、包丁の背でガンガン叩いて細い筋も切る。ああ、世紀末だわ。

 フライパンでラードを温め、煙が出てきたところで一気に肉投入。

 じゅわあ!

 うりゃ、焦げ目がついたらひっくり返してすぐに蓋をし弱火よリート。

 火が通る間に、バターに岩塩粉とレモンりんごの汁を垂らして混ぜあわせるんだ。


 よっしゃ、焼けたぜウキ! 『猪のやわらかステーキレモンバター添え』だ、ありがたく食え!

「うおお、ユーキ、美味いぜ、美味いぜ!」

 よっぽど腹が減ってたんだな。半泣きになって肉にかぶりついてやがる。

 リートもリルもフルも呆れ顔だぜ。 

 

「おやウキ、朝っぱらから豪快なのを用意してもらったじゃないか」

「姉ちゃん、オレは幸せだ!」

「よかったね。 ああ、ユーキ、おはよう。朝から世話をかけたね」

 おはようサキ。いえいえ、肉を焼いだだけですから。

 お、おっさんとねーさんも起き出してきたな。おはよう、おっさん、ねーさん。

「朝からいい匂いだな」

「おはようございます」

 ついでだおっさん、ねーさん。あんたらも朝飯食っていけ!

「ってユーキが言ってるんだけどさ。食べていくかい?」

 すぐに頷いてくれる二人が嬉しいな。

 

「はい。『棒パンのフレンチトースト、カッテージチーズ添えと塩漬肉添えの二種』だよ。塩漬肉添えの方は、青菜で包んで食べると美味いよ」


 美味いか?おっさん、ねーさん。

 

「本当に世話になった。飯も夜もな」

「ええ、いい思い出になりましたわ」

 なんだおっさん、ねーさん、急に礼儀正しくなって。

「いえ、こちらこそ、喜んでいただけて幸いです」

 うお、サキも改まってるぞ。とりあえずオレも起立しておこう。 

「ユーキちゃんと言ったか。料理、美味かったぞ」

「お礼と言ってはおかしいですけど、これを受け取って下さい」

 それは布製の手提げ袋。何だろ?

「中身は草スライム干しと『ジュエル貝の乾物』くらいしか残っていませんけど、ユーキちゃんならきっと上手に料理してくれるでしょうから」

 いいの受け取っちゃって?

「いただいておけ」

「もらっておけ」

 わかった、サキ、ウキ。

 

「では俺たちはリバーケープに戻る。達者でな」

「こちらこそ」

 何か最後は偉そうだったよな、おっさんとねーさん。

   

「それじゃ、俺達も行くとしよう」

「そうだね。ユーキ、準備はいいかい?」

「いつでも行けるよ!」


 サキから、おっさんの正体はリバーケープの貴族『アスモズ公』 ねーさんは、多分ゴッドインパルスの貴族『ガブリエラ公』の一人娘『イシュタ』だと聞いたのはずっと後の話。畜生、そうと知っていれば、もっと愛の逃避行について話を聞きたかったぜ。


 うーんと、これが『ジュエル貝の乾物』かあ。

 すごいわこれ! 超高級食材じゃない!

「ねえサキ、この世界では、この『ジュエル貝の乾物』ってどうやって食べるの?」

「ああそれかい。それは削ってスープの味付けにするんだよ」

 うわ、間違ってはいない。間違ってはいないけど、間違ってる!

「ねえサキ、ウキ、これは私の自由にさせてもらっていい?」

「お前がもらったものだから任せるよ」

「俺も食べたい」

 これは長丁場の勝負になるわね。

 まずはリル、新鮮なお水よ!


 ということで、メニューを考えながら歩いていたら、いつの間にかお昼。

 このペースなら、今日中に次の目的地『スモールフィールド』に到着できるんだって。

 ジュエル貝も楽しみだけど、次の街で出会える食材も楽しみだなあ。

「ユーキ、腹減った」

 はいよウキ。


 今日のお昼は白トマトとひき肉でこしらえたミートソースをたっぷりかけたスパゲッティ。

 デザートは、草スライムを刻んだのを、生乳、シロップ、レモンりんご、そしてミントみたいな風味の『爽快花』で漬け込んだ、『草スライムタピオカミルク風』だよ。

「うお! 麺と肉が美味いぞユーキ!」

 ありがとウキ。

「へえ、草スライムのぷるんとした食感と甘さと酸っぱさのバランスがいいね。草臭いのも気にならないよ。このすっとした香りは『爽快花』かい? 薬だと思っていたけど、こうしてみると美味しいもんだねえ」

 さすがねサキ。

 それじゃ、ウキのお昼寝タイムに合わせて、次の仕込みを考えよっと。 

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