第三話 右 ガーデンクリスタル −安らぎ−
夏の面影を見せはじめる木々に囲まれた校門をくぐる。ここまでの道のりは和真が教えてくれた。道の途中にある看板や川を目印に覚えることができた。
昇降口に入った優希は和真だけが来ていることを確認した。いつも通りと思い、上履きに履き替えて教室へ向かった。
教室のドアを開けた優希は、和真が座っている事に気が付く。いつもは窓を立って眺めていたが、席替えで窓側になったからだろうか?
優希「おはよう!」
いつも通り、朝の挨拶をおくる。
和真「…おはよう…。」
むくりとこちらを向いた和真は眠気と疑問を混ぜた感じをおびている。
和真「いつ入ってきた?」
優希「?たった今だよ?」
和真「マジかよ…。」
和真の席は隣でとても助けられている。授業で分からない所を教えてくれたり、忘れ物をしてもすぐに貸してくれる。優希にとって和真はヒーローなのだ。
優希「きのうね!クッキーやいたんだよ!」
和真「うまくできた?」
優希「おいしいのもできたんだけどオーブンのおんどがむずかしくてしっぱいしたのもあるの。」
和真「そうか…いっかいにいっぱいやきすぎたんじゃない?」
優希「そうなのかなー。」
一回にたくさん入れすぎると上手に焼けないのか、良いことを聞いた。と優希は思った。
親がいないからコンロはまだ使えないが、電子レンジやオーブンは安全で簡単に使うことが出来る。材料は親があまり料理をしないのでたくさん残っている。帰るのが遅いので簡単に作ることが出来るものが多い。流石にカップラーメンとかではないが、味は単調である。
そんなとき、教室の扉がカラカラと開いた。
東篠「おはよー。はやくね?」
和真「はよー。いつも同じセリフだな。」
優希「おはよー。」
和真「そういえばゆきちゃん、おれのクッキーは?」
優希「えっ!?」
東篠「クッキー?おれもたべたーい!」
急に、そして意外な反応が返されたことに驚いた。
そのうち、秘密でクッキーを焼いてこようと優希は決心した。