第三話 左 カーネリアン −活力−
桜の木の桃色は既になくなって、緑色の葉が元気に揺れている。
集団登校してくる生徒が来るにはまだ時間がある。校庭で遊んでいる他学年の生徒の声もかろうじて聞こえる程度だ。
席替えで窓側になったので外の景色を眺める。空は青々として、雲一つない。和真は窓を開けた。
カラカラと音をたてて空いた窓から優しい風が吹いてきて気持ち良い。このまましばらく眠ろうと思ったその時、声をかけられた。
優希「おはよう!」
和真「…おはよう…。」
教室のドアは閉めておいたはずなのに…いつドアを開けたんだ?
和真「いつ入ってきた?」
優希「?たった今だよ?」
和真「マジかよ…。」
優希の席は隣だった。まったく、初日から今日まで何かしらの関わりがある。実際、今日この時間に優希が来るのにも違和感はなかった。このクラスで一番二番に登校するのは和真と優希なのだ。その他のクラスメイトは一人を除き、皆集団登校してくる。一人で登校して来るもの同士、会話が生まれるのは必然なのだ。
優希「きのうね!クッキーやいたんだよ!」
和真「うまくできた?」
優希「おいしいのもできたんだけどオーブンのおんどがむずかしくてしっぱいしたのもあるの。」
和真「そうか…いっかいにいっぱいやきすぎたんじゃない?」
優希「そうなのかなー。」
優希はお菓子作りが好きらしい。色々なお菓子に挑戦している。親が共働きの為、放課後は学童保育に通っているらしいが、基本的に家に帰るようだ。
本人いわく『行っても面白くない』そうで、自由にやっているらしい。
再びカラカラとドアが開く。どうやら教室のドアと窓を動かす時の音が似ているらしい。
純義「おはよー。はやくね?」
和真「はよー。いつも同じセリフだな。」
優希「おはよー。」
和真「そういえばゆきちゃん、おれのクッキーは?」
優希「えっ!?」
集団登校で学校に来ないのはこの三人だけだ。いつもと同じ、変わらない雰囲気で会話が進む。
純義「クッキー?おれもたべたーい!」
和真の眠気はなくなっていた。