第二話 右 ピンクオパール −幸運−
桜は綺麗に舞い落ち、蝶がヒラヒラと飛ぶ。そんな景色を見ながら、優希は和真に腕を掴まれて歩いていた。
和真「………ふぁああ〜…。」
優希「ねむいの?」
和真「このあたたかさでねるなって言う人はあくまにちがいない。」
優希「ふふっ、あはははは!」
和真「おかしいこと言ったか?」
優希「ははは…。かずまくんはきのうねるのおそかったの?」
和真を見る時は常に眠そうにしている。理由を知りたくなるのも当然だった。
和真「めざまし時計は6時にしたんだけどな…。」
優希「早く起きちゃったの?」
和真「起きたってより起こされてしまったってかんじ。」
優希「おこされたじゃないの?」
和真「うちは旅館だからさ、朝からいそがしくてうるさいんだよ…。」
優希「旅館か〜…。いえ広いの?」
和真「まぁね…。」
優希「いいなぁ…。」
優希の両親は共働きで、保育園の頃から一番に預けられ最後に迎えが来ていた。小さい頃の記憶もなく、『親の愛情』というものをよく知らない。だからかどうかはわからないが、和真の話を聞いてちょっぴり楽になった。
桜の木が増えてきて、学校が近いことがわかる。
ふと気がつくと和真が顔を覗き込んできていた。
優希「…?どうしたの?」
眠そうな目ではなく、考え事をしているような目だった。間をおいてからハッとして和真が反応した。
和真「ご、ごめんよ。何でもない。」
そう言った後の和真は普段と何も変わらなかった。
不思議だけど、優しい人だということに変わりはないようだ。
和真「…。学校にとうちゃくだよ。」
いつの間にか自分が和真の隣にいたことと、腕ではなく手を繋いでいる事に気がついた。
優希はきっと、私が握ったに違いないと思った。