第二話 左 エンジェライト −心−
春を感じさせる桜や蝶が至るところに見える。優しい温かさは眠気が未だに残る和真に睡眠の誘惑を送りつけるようであった。
和真「…………ふぁああ〜…。」
優希「眠いの?」
和真「このあたたかさでねるなって言う人はあくまにちがいない。」
優希「ふふっ、あはははは!」
和真「おかしいこと言ったか?」
優希「ははは…。かずまくんはきのうねるのおそかったの?」
昨日は旅館の皿洗いと親の話で11時に寝た。6時間の睡眠では小学一年になったばかりの和真にはキツいものがある。
和真「めざまし時計は6時おきだったんだけどな…。」
優希「早くおきちゃったの?」
和真「おきたってよりおこされてしまったって感じ。」
優希「おこされたじゃないの?」
和真「うちは旅館だからさ、朝からいそがしくてうるさいんだよ…。」
優希「旅館かぁ〜…。いえ広いの?」
和真「まぁね…。」
優希「いいなぁ…。」
優希はそのまま後ろから横に移って歩いていた。今は前を向いて歩いているが、掴まれていた腕を外し手を握ってきた。
チラリと顔を見てみる。髪はショートでフワッとしている。表情ははっきりしていて目は大きい。
ふと和真はその大きい目を見たときに感じた。
優希という女の子は優しく笑っている。道がわからなくて不安だった先ほどとはうってかわって笑っている。
だが和真は、どこか悲しみを感じさせる目を見た。
優希「…?どうしたの?」
色々な事を考えていたせいか、顔を見続けていたようだ。
和真「ご、ごめんよ。何でもない。」
出来るだけ平然を装ったが、彼女は…一体何を悲しく感じたのだろうか?
和真「…。学校にとうちゃくだよ。」
疑問を持ったまま和真は、まだ生徒のいない小学生の校門を優希と手を繋ぎながらくぐった。