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転入早々意気投合?

 茨城県の東、巨大人工島に存在する「久遠ヶ原学園」。

 そこには、「天魔」に対抗出来る唯一の力「アウル」を持った、「撃退士ブレイカー」が数多く集まっていた。「久遠ヶ原学園」は特殊教育機関である。

「天魔」と称される「天使」と「悪魔」。通常の人間の行なうあらゆる攻撃は、人知を超えた力を持つ彼らには通用しない。人類の感情や魂を吸い取り、自らの力や眷属を増やしていく驚異に、対抗し人々を守るのが「撃退士」の役割なのである。


 * * * * *


 そんな久遠ヶ原学園に通っている一人の青年に電話がかかってくるところから、物語は始まる。

 彼の名はケイン・ラインベル。ヒーローに憧れ、撃退士を目指していた。

「へえ! ポチたち、転校してくるんだ!」

 ケインは電話口で笑顔になった。犬のような名前だが、電話の主は亀甲族というカメの甲羅を背負った人の姿を取っている。天魔の亜種らしいのだが、詳しいことはよく分かっていない。

「フランソワもジンも適性があったんやで!」

「じゃあ昔のメンバーが揃う訳だな。何か楽しいことになりそうだぜ!」

「そうやなぁ……」

 ケインや兄・レオン、幼なじみのレイは、ポチローたちと昔、旅をしたことがあった。その経緯は割愛するが、とにかく以前の仲間だったのだ。楽しい思い出が脳裏に浮かび、にしし、とケインは笑う。

「来るときは迎えに行ってやるよ。学園の案内とかもさ。とにかく広いしでかいから」

「ケンさんおおきに~。それより可愛い女の子はおる?」

「あ、兄貴だ。んじゃあな!」

「ケンさん、わいの話聞いて」

 ケインはぶちっと電話を切って、兄であるレオンに駆け寄った。先程の話をすると、レオンは懐かしそうに微笑みを浮かべた。

「ポチにフランにジンさんか。元気みたいで良かった」

「また冒険しちゃったりしてさ! 今度は俺が大活躍だぜ!」

「あ、レイ。ポチたちが久遠ヶ原に来るんだってよ」

「兄貴、弟の話聞いて」

 ケインの話をさらっと流してレオンが呼び止めたのは、怜悧な印象の中性的なレイだった。幼なじみ同士である三人は、今でもよく話をしたり喧嘩したりするのだ。鋭い瞳に、長身ですらりとしている為、よく間違えられるのだが、レイはれっきとした女性である。昔より全体的に丸みを帯びて、女性的なラインになったなぁ、とレオンは客観的に思うのだが。

「私にもフランから連絡が来た。……全く、そこまでしなくとも良いだろうに」

「良いじゃんか、また一緒に戦えるかもしれないんだぜ?」

「フランとジンさんは頼れるけど、ポチがねぇ」

「……同感だ」

 昔からポチローはよくうっかりをやらかして、彼らをピンチに陥れてくれたものだった。数年顔を会わせていないが、少しはまともになっていて欲しい、とレイは深く溜め息をつく。

「この後どうすんだ? 俺はバイト行ってくるけど」

「私は講義に出るつもりだ」

「今日は図書館に寄ってこようかな。じゃ解散だね、また後で」

「歓迎会とかしてやろうぜー」

「ならばその分稼いでこい」

「何で俺のお金!?」

 ケインのツッコミ虚しく、レイもレオンもさっさと背を向けて去ってしまった。取り残された心地になるが、いつものことなのだ。仕方ない、と肩をしょんぼりと落として、ケインはバイト先の食堂へと向かったのだった。


 * * * * *


 ポチたちが転校してくる日。

 レイとケイン、レオンは学園直通列車の駅でポチたち三人を待っていた。

「もうすぐだね」

「ああ、ワクワクしてきた!」

「……全く、もう子供じゃあるまいし」

 天魔と対抗出来うる「アウル」の力に目覚めたレイは、撃退士として皆を守るのが使命と考え入学した。撃退士の授業は過酷なものも沢山ある。天魔と命を賭けて戦わねばならないのだ。甘い志ではつとまらない、とレイは思っている。

 しかし、かつての仲間だったポチたちと会いたくない訳ではない。むしろ嬉しいからこそ、迎えに来ていたのだ。

 もうそろそろ到着の時間、というときだった。


 ドガァァァァァン!!!


「何だ!? 爆発の音みてーな……!」

「……事故でも起きたのかもしれないね。それか天魔かも」

「怪我人がいる可能性が高い。とにかく行くぞ!」


 レイたちは線路沿いに走り出した。程なくして横転した列車と、乗客らしき人々が見えてくる。レイの目には怪我を負った者もいれば、無傷な者もいるように見えた。

 その無事な者達は悪魔と戦っていた。事故がその悪魔達が引き起こしたものなのは一目瞭然だった。

「レイさん! それにケンさんにレオン師匠!」

「来てくださったのですねレイ様……!」

「……援軍、助かる」

 ポニーテールとマフラーをたなびかせるポチロー。

 ウェーブのかかった長髪、グラマラスな体を黒いドレスに包むフランソワ。

 左目に眼帯、レイに負けず劣らずな鋭い眼光のジン。

 既に戦っていた三人は、レイたちの姿を見て安心したようだった。

「怪我人を助けたいが……。その前に」

「まず邪魔者退治といきましょうか」

「よっしゃ、かかってこい羊ども!!」

 既に戦っていたポチたちに加勢するべく、レイたちは各々の武器を構えた。


 * * * * *


 ポチローはレイの姿を見て奮起した。撃退士としてはまだまだ半人前だが、憧れのレイの前で無様な真似は出来ない。レイピアをすっと構え、悪魔の眷属であるブラックシープに目標を定める。

「女の子の、しかも久方ぶりの生レイさんの前やし、負けられんで!」

「言い方がエロイぞポチー」

 ケインの冷やかしにもめげずにレイピアを突き出すが、ブラックシープはあざ笑いながらそれをかわした。

「ポチ!! やる気あるのか!」

「あかん、やらかしてもた……」

「仕方ありません。……僕、ラム肉好きなんですよね。君たちは美味しいのかな?」

「お、美味しくないに決まってるメェェ!」

「こいつ、何者だメェ……!」

 初撃からはずし撃退士の世界の洗礼を受けたポチローを、レイが叱り飛ばすが、当たらないものは当たらない。そんなポチローを見かねたレオンが、やれやれ、と肩を竦めながらブラックシープたちににっこりと笑いかける。悪魔の手先を食べる気なのか、と実の弟であるケインでさえ背筋が凍りかける。レオンは何事にも好奇心旺盛なのだ、これが本心で実行するかもしれない……。敵味方双方を恐れを困惑に陥れたレオンは尚も微笑んでいた。その隙を突け、とメガネ越しの視線にびしっと固まったポチローだったが、レイピアをスッと構えなおす。

「お、おおきに! レオ社長!」

「僕は社長ではありませんよ。とにかくがつんと、ね?」

「兄貴……笑顔が怖いぜ……」

「が、がつんといったるでー!」

 にっこりと凄みのある笑みを浮かべたレオンに気圧されるように、再びレイピアで鋭く突きを繰り出す。しかし、ブラックシープは角でキン、とそれをはじき飛ばした。

「メェェェ、効かない」

「なんやて……!?」

「……ポチ様……」

「堪忍な! 最初だから張り切りすぎてしもたわ」

 驚きを隠せないポチローに、ジンがおいたわしや、という目線を向ける。戦闘中であるのに、ポチローのゆるゆるとした雰囲気はそのままだ。期待していたレイたちはやっぱり変わっていない……と呆れた溜め息をつく。

「……お仕置きはどうしましょうかねぇ」

「この際、甲羅を剥がされれば宜しいですわ。このゆるゆる男にはそれくらいしないと」

「使えん奴は放っておけ。次だ」

「うう……殺生な……」

 にこにこしているのに威圧的なレオンに、ツンツンしたフランソワ。トドメのレイの一言に、ポチローはしくしくと泣き出す。最も大の男の涙では、誰も情けをかけない。

 気を取り直して、とケインが大剣を振り上げる。

「ポチがしくった分、俺の活躍の出番が広がったぜ! せいっ!」

「メェェ!」

 ケインが振り下ろした大剣の鈍い一撃で一体目のブラックシープは倒れた。よっしゃ! とケインはガッツポーズ。

「当てた上に倒した、やと……!?」

「参ったか、ヒーローとカメの違いだぜ!」

「流石だな、ケン。よくやったね。どこかのカメとは大違いだ」

「だろー? 俺もやるときはやるんだぜ!」

「……まぁ、成長したのは認めてやろう」

「わい、このままだと出番なし……?」

「そうですわね。甲羅干しでもしていれば良いんじゃないかしら」

「……ポチ様の仇は俺が……」

「そりゃ日光浴は好きやけど……って、わて死んでないで!?」

 言いたい放題の五人にツッコミが追いつかない。ジンがマントの中から苦無を取り出し、シュッともう一体のブラックシープに投げる。

「ンメェェ!」

「やったか……」

「やりますわね、主と違って」

「ジン兄ナイス!」

 苦無は真っ直ぐ急所に突き刺さり、全ての悪魔は倒した。ふん、と鼻を鳴らすフランソワとにかっと笑うケインに褒められても、ジンは顔色一つ変えずにこくりと頷いただけだった。

「これでもう戦えないでしょう、どうしますか?」

「メェェ……カメ以外は強いな……」

「メエ……今日の所は引き上げよう、本命は別だメェェ」

「一言余計な羊やでぇ」

 ブラックシープたちはそう言い残し、逃げていった。各々武器をしまって、とりあえず一息つく。ぐだぐだではあったが、危険は取り除けた。

「本命……? 何か企んでいるのかしら」

「気になりますね。先生方にも言っておきましょうか」

「いや! 俺達で何とか出来るの証明しようぜ!」

 フランソワが柳眉をひそめる。頷いたレオンは冷静に判断をするが、ケインは兄の意見に反対の意を示した。この兄弟は両極端なほど性格が異なるのだが、不思議と仲は良い。

「敵は天魔なんだぞ、さっきのはまだ雑魚だったから……」

 レイも難色を示したが、その途中でポチローがジンに泣きついた。

「ジン~わいの出番~」

「はっ……も、申し訳ありません……」

「レイ様のお話を断つなんて……! この役立たずカメ! 今日という今日は許しませんわよ!」

 レイ様命のフランソワが肩を怒らせ得意のムチを取り出すと、ベチンとポチローの甲羅を鞭打った。レオンも先ほどのお仕置きをばかりに魔法の記された本でばしんばしんと物理的に叩く。這いつくばったポチローは、心なしか嬉しそうだ。あっという間に浦島太郎が現れそうな構図になったが、いつものことなのでレイが止めに入る。

「……レオン、フラン。今は怪我人がいる。早めに助けを呼ばねば」

「嗚呼、そうだったね」

「レイ様がそう言うなら仕方ありませんわね……」

 満足したレオンと、怒りを収めたフランソワ、そしてレイたちはそれぞれ怪我人の介抱や助けを呼びにいった。ポチローは放置だ。仕方ない、としょんぼりうずくまっていると、何かがきらりと輝いた。

「……ん? これ、何やろ」

 ポチローは銀色のペンダントと、そして綺麗な羽根を拾い上げた。前者は落とし物だろうが、羽根は何の動物のものだろうか。ポチローには分からなかったが、物知りなレオンは知っているかもしれない。後で確認してみることにして、それらをポケットにしまって立ち上がる。

「怪我した可愛い女の子はいるやろかぁー」

 虐げられても尚、ポチローは自分の信念を崩さないのであった。


 * * * * *


 列車事故、そして悪魔の襲来、更には怪我人の介抱などによって、レオンたちは午前中の授業には間に合わなかったが、理由が分かると公欠扱いになった。久遠ヶ原学園は、「撃退士の任務による欠席は、出席扱いとなる」制度がある。公式な任務ではなかったが、多くの新入生を守ったことが認められたのだ。

 放課後になり、ポチローたちに学園案内しようとレオンたちは集まった。ちょうど六人いるので、二人ずつペアに別れて行動することにした。

 レオンの作った難解なあみだくじの結果。


「今朝のお仕置きはまだ足りないですからね……」

「怖っ!! レオ師匠よりレイさんの方が良いー!」

 暴君(?)レオン&被害者ポチローペア。


「うふふふ、レイ様はわたくしのものですわ! 日頃の愛が実ったのですわね」

「フラン、私は物ではないのだが」

 レイ命フランソワ&王子ポジションレイペア。


「活躍コンビだな、ジン兄!」

「……嗚呼。久遠ヶ原の情報は資料で読んだが、実際行ってみたいところもある。宜しく頼む」

 賑やかケイン&寡黙ジンペア。


 という三つのペアはそれぞれ別れ、校内散策に繰り出した。

 しかし、レオン班はポチローが可愛い女の子を見つけて大暴走。

 レイ班は、フランソワに群がる男性陣が殺到。

 ケイン班は、ケインが不良集団に挑みかかり、ジンが火に油を注いで大乱闘。

 ……そんな訳で校内散策どころではなくなってしまったのであった。

 悪魔との戦いの時より皆ぼろぼろ。そんなポチローたちの初めての久遠ヶ原ライフは何とか幕を下ろしたのだった。


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