3、森―1
目を開けたらそこには賑わう中世ヨーロッパの町並みが広がっていた。そして俺の目に入ってきたのは、街の中心にそびえ立つ、先が見えないほど巨大な古塔だった。
ヤバイ、わくわくが止まらない。俺は上がりに上がったテンションで駆けだした。後ろでは同じプレイヤーの人たちが街を見て、
「FOキターーー!!」
「うわっ!人多いな!」
「だれか一緒に狩り行きませんかー!」
「盾装備できる人募集してます!居ませんか?」
などと、騒いでいた。そんな言葉を聞かずに走っていた俺は迷わず南の森を目指す。
森にはゴブリンやスタンプピグが出るらしい。スタートダッシュを切りたいのならそこがいいと深弥と麗奈も言ってたしな。え?深弥と麗奈ってだれかって?
深弥はFOを俺に勧めてきた、最近ちょっと禿げ始めてきたイケメンくそ野郎だ。そのまま髪の毛全て消え去ればいいのに。麗奈っていうのは俺の中学からの友達でかなりのオタクでゲーマーだ。顔は良いんだが、性格と趣味がちょっとアレなだけに彼氏ができない残念美少女だ。
麗奈情報だが東には草原がありスライムなどがいて初心者はそこで体をならすそうだ。
まあとにかく森の方が強い敵がでて、レベルが上がりやすいと言うことで俺はこっちを選んだ。そうと決まれば早速レベル上げだ。ゴブリンとやらがどれだけ強いのかも知りたいしな。
しばらく走って行くと森の入り口についた。ていうか凄いな、こんなに走ってるのに全然疲れてない。でも視界の左上に見えるSPゲージが少し減ってるし、やっぱりこのSPゲージって疲れると減っていくのかな。
それにしても森って言うより、奥の方まで行ったら樹海って感じがするな。入り口付近はまだ敵が弱いんだったな。まだLV1だし入り口付近じゃないと死ぬ気がする。
「よし。じゃあまずは、《索敵》」
索敵を発動させると頭の中に赤い点と黄色い点がいくつか浮かんでるレーダーのようなものが出てきた。この黄色いのはノンアクティブモンスターだな。
ノンアクティブモンスターってのは攻撃をしない限り攻撃してこないモンスターのことで草原に出てくるスライムやホーンラビット、森に出てくるスタンプピグなどが分類される。逆にアクティブモンスターっいうのが自分から攻撃してくるやつらのことで、森に出てくるゴブリンなんかもその類だ。
「スタンプピグから倒して体を慣らして行こうかな。」
初戦闘をいきなりアクティブモンスターっていうのはやっぱりキツイだろ。こっっちの奴らは草原に出てくる敵より強いんだし…。
黄色い点がノンアクティブだから、たぶんこの辺に……。
「いた!」
のんきに歩いてやがる。まずは短剣の通常攻撃だけで倒してみるか。
「くらえ!」
短剣を片手で持ち構えてから勢いよく振り下ろす。
ザクッ!
「ぶひぃぃぃぃ!!」
手に肉を刺した感覚が伝わって来る。その感覚に動きが鈍り、スタンプピグに突進された。
「うわっ!なんだよこの感覚気持ちわるいくらいリアルだな」
「ぶひぃぃ!」
立ち上がっている間にまた突進してくる。
「そう何度もとばせると思うなよ。」
俺は突進してくる奴をジャンプしてかわして後ろから斬りつける。
「ぶひぃ!」
肉を斬った感覚に少しまだ戸惑うが、なんとか耐えて斬り返しす。スタンプピグももう一度突進してくるが、左にかわし、すれ違いざまに斬りつける。
すると、スタンプピグが細かい光の粒子となって消えていく。そして目の前にウインドゥが出てきてドロップアイテムが表示される。
スタンプピグの皮
スタンプピグの皮。皮装備などを作ることができるが、その見た目と臭いで使われることは少ない。
そこまでいいアイテムじゃないな。まあ売れば金になるしいいか。
「でも、戦うのって結構しんどいな。あの斬った時の感覚がヤバイな。」
あの斬ったときの感覚さえ慣れてしまえば楽勝なんだけどな。まあ戦闘にも慣れたし次はアビリティでも使ってみようかな。
アビリティとは、スキルのレベルを上げて行くと覚えることができる、技のようなモノで、MPを消費して繰り出すことができ、MPがなくなると出すことができなくなる、というものだ。
俺が今使えるアビリティは、短剣術の《スラッシュ》と幻惑魔法の《ミラー》の二つだけだ。《スラッシュ》というの相手を斬りつけるアビリティ通常攻撃より威力が高い。《ミラー》というのは自分とは反対の動きをする自分の姿を3秒だけすぐ横に映し出すといった魔法だ。
ちなみに幻惑魔法は効果が短いから使いづらいという意見が多くあまり使われていない。まあ、使い方の問題だと思うけどな。
「とりあえず使ってみるか。」
適当にその辺にいたスタンプピグを斬りつけこちらを向かせる。
「《スラッシュ》」
突進してくるスタンプピグをかわしながら、タイミングを合わせ《スラッシュ》を発動させる。
「ぶひぃぃ!」
さっき斬りつけたときよりも、相手のHPゲージが大きく削れ、俺のMPが減っていく。
「結構きいてるな。さすがアビリティ。次は《ミラー》か。」
スタンプピグがすぐ傍までもう来ていたので、とりあえずかわしながら斬りつける。もう一度突進しようとしてきているのでギリギリまで引きつけてから《ミラー》を発動させる
「《ミラー》」
するとすぐ横にもう一人の俺が同じポーズで現れた。
「ぶ、ぶひぃぃ!」
スタンプピグは驚いたような顔をしてつっこんできたので右に避ける。するともう一人の俺の方は左に避けてかわしていた。しかしそこで3秒が過ぎて、消えてしまう。
「この《ミラー》って魔法、結構使えるんじゃないか。」
今度を俺からスタンプピグに駆け寄り《スラッシュ》を何回もくりだす。
「ぶ、ぶひいぃぃぃぃぃ!」
3回目を当てたところでいつもより大きくダメージが入り、スタンプピグも消えていく。どうやらクリティカルが出たらしい。クリティカルでとどめを刺した場合は、ドロップアイテムが変わるそうだが、
スタンプピグの足
スタンプピグの足。食用以外にはあまり使われないがとてもおいしく、いろんな料理に使われている。
どうやら食用のアイテムらしい。これも俺には必要ないから、売ればいいかな。
その後も2時間ぐらい狩りまくってMPが尽きかけたので休憩を入れる。出たアイテムの数は
スタンプピグの皮×15
スタンプピグの肉×10
スタンプピグの足×6
スタンプピグの鼻×1
とまあまあ集まった。スタンピグの鼻だが、30匹目ぐらいの時にクリティカルで倒したとき初めてでたら、少しだけレアなんだろう。
そのとき急に目の前の風景が変わり、目の前には始まりの街の巨大な古塔のがあった。
「へ?」
周りを見渡すと他のプレイヤー達も同じくして集められたらしい。
「なんだなんだ。」
「なんかのイベント?」
「せっかくいいとこだったのに。」
「これってプレイヤー全員か!?」
そんなことを口々に言っている。
ゴーーーーーーーンゴーーーーーーーーーーンゴーーーーン
突如巨大な古塔の鐘が鳴り響いた。そして空中には、一人の女性が現れた。
「やあ諸君。いきなりだがこのゲームは私が乗っ取った。諸君等はもうこのゲームから出られない。」
そんなに大きい声ではないが確かにそいつの声はここにいる全員に聞こえていた。
「このゲームを【デスゲーム】にする!」
こうして俺たちの長い戦いが始まった。