奇妙な店員
春風爽子は闇夜に包まれた道を走っていた。走っていたというのは車で、という意味だ。
その日は残業に追われ、帰るのが遅くなってしまった。もう深夜一時を超えている。
(もう。夜更かしは肌に悪いのに)爽子は急いで帰ろうといつもは通らない近道を全速力で走らせた。
爽子の車以外は通らない。いつもだったら道路貸切だと言って喜ぶが深夜の道は少し不気味だ。
おまけに最近、私の後をついて来たり、ポストに気味の悪い手紙を入れたりするストーカーに付け狙われていた。一人暮らしの爽子は毎日夜も眠れない。
自分の住むアパートまであと少しという所でガソリンが切れていることに気が付いた。面倒くさくて明日入れようと思っていたら道にガソリンスタンドが見えた。
ラッキーだと思いそのガソリンスタンドに入っていった。光り輝く深夜のガソリンスタンドはオアシスのような存在だった。
そこの店は最近流行のセルフサービスの店ではなかった。
爽子の車がスタンドまで行くと、若い男の店員が来た。目つきが悪い、金髪の男だった。帽子が全く似合わなかった。多分、高校生で夏休みを利用してお金を貯めているのだろう。
その男は車の窓をたたく。
爽子が窓をスライドさせると男が話しかけてきた。
「レギュラーかハイオクどちらにいたしますか」鋭い目で爽子を見る。
「レギュラーで千円分お願いします」
「かしこまりました」
男はふてくされた顔でガソリンを入れ始めた。
爽子は眠たくなり、欠伸をした。
「お客さん、ポイントカードはありますか?」ガソリンを入れ終えた店員が聞いてきた。
爽子が財布の中を探すと、幸いこの店で使えるカードを発見した。
「これでお願いします」
店員は爽子から受け取ったカードをレジでがちゃがちゃとやり始めた。
しかし店員は爽子のの方を向いてこう言った。
「すいません。このカード使えないみたいなんで一度事務所まで来てもらえますか」
爽子は面倒臭かったので「また今度でいいです」と断った。
「すぐ終わるので来てください」
すると男は勝手にドアを開け、爽子の腕をつかんだ。
男は何故か緊迫した表情を浮かべている。よく見ると汗をかいている。
爽子は不思議に思った。
この男は何がしたいんだろう。
男と爽子はやや小走りで事務所に入っていった。タバコ臭い粗末な部屋だった。
爽子を押し入れた男は事務所のドアのカギを締めた。
「何してるんですか?カードの事で来たんでしょ?」驚いた爽子は問い詰めた。まさか自分を襲うつもりではないのか。そんな想像が頭をよぎった。
目の鋭い店員は重い口を開いた。爽子はその理由に全身の震えを止めることができなかった。
「あなたの車の後部座席に男がいたんです。刃物をもった大男が」
この話はずっと前に考えた話で僕の中で一番怖いなと思える作品だと思えるんです。みなさんからの感想、アドバイスをお待ちしています。
ちょっとでも奇妙な世界を体感してもらえればなと思います。