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この傷と後悔と

作者: P4rn0s
掲載日:2026/01/19

夜中にふと目が覚めた。

暗闇の中で、自分の呼吸だけがやけに大きく響いていた。

胸が苦しくなるのは、きっと今日だけじゃない。

ここ最近ずっと、朝が来るのが恐ろしい。


テーブルの上にはスマホが伏せられたまま動かない。

通知はない。

ずっと前からない。

それでも癖みたいに画面を起こしてしまう。

そんな自分が情けなくて、また胸が痛んだ。


あなたの写真は、もう消したはずだった。

なのに、アルバムの空白を見た瞬間、

そこにあなたがいた時の温度だけが鮮明によみがえる。

消したところで意味なんてなかった。

消えていないのは、こっちの方だった。


部屋の隅に置いた丸めたままの毛布を見ると、

あなたがそこに寝転んで笑っていた夜を思い出した。

意味もなく喧嘩して、意味もなく泣いて、

でも結局あなたが先に寝息を立てて、

私はその横顔をずっと見ていた。

あの頃を思い出すのが、今はただ残酷だった。


昼間の自分は、まるで別の生き物みたいだ。

仕事をして、笑って、誰かに頷いて、

ちゃんと普通の人間を演じている。

でも夜になると全部剥がれる。

あなたがいなくなった空いた部分が、急に重さを取り戻す。

息をするだけで苦しくなる。


あなたが最後に残した一言が頭のどこかにこびりついて離れない。

「ごめん、もう無理かもしれない」

あれは別れの言葉じゃなかった。

助けを求める声だった。

なのに私はうまく聞けなかった。

受け止められなかった。

その事実が、今でも胸を刺す。


あなたがいなくなってからの日々は、ひどく静かだった。

街を歩いても、音はちゃんとあるのに全部遠かった。

笑い声も、車の音も、風のざわめきも、

まるで別の世界の出来事みたいだった。

音のある無音という言葉があるなら、それだった。


あなたを探すように、私は町中を歩いた。

知らない場所にも、あなたがいそうな気がした。

そんなはずないのに。

でも、探さないと胸が潰れそうだった。

見つからないことがわかりきっていても、探さずにはいられなかった。


夕方、川沿いを歩いていると、風が強く吹いた。

冷たい風だった。

その風の温度が、あの日あなたの手から離れていった瞬間の冷たさに似ていた。

思わず立ち止まった。

足も、呼吸も止まった。


「どうして私じゃだめだったの」

言葉が漏れた瞬間、喉が痛くなった。

こんなこと、あなたがいた頃には言えなかった。

言ったとしても、あなたは困ったように笑っていたのかもしれない。

その想像だけで、胸が締めつけられた。


帰り道、コンビニの明かりがぼんやり滲んで見えた。

涙を流していたのかもしれない。

気づく余裕もなかった。

ただ歩くことだけが、やっとのことだった。


家に戻ると、電気をつける気力もなかった。

暗い部屋の中で、あなたのいない空気が重く沈んでいた。

椅子に座ると、そのまま動けなくなった。

胸の奥が硬い拳で殴られ続けているみたいに痛かった。


あなたがいなくなった原因を探すたび、

自分にしか行き着かない。

もっと話せばよかった。

もっと聞けばよかった。

もっと、もっと、もっと。

いくら積み上げても遅すぎた。

その遅さがいちばん苦しい。


ふと、机の引き出しに入れたままだった封筒を思い出した。

開けられなかった、小さな手紙。

あなたから最後にもらったもの。

震える指で封を破った。

中には短い言葉だけがあった。


「君のことが嫌だったんじゃないよ。

 ただ、自分のことが嫌になっただけなんだ。」


読み終えた瞬間、息が詰まった。

目の奥が熱くなった。

あなたはずっと戦っていたのに、

私は何も気づけなかった。

届かない声がそこにあった。


そして理解した。

あなたは私を置いていったんじゃない。

自分の痛みに押し潰されてしまっただけだ。

それでも私は、あなたに置き去りにされた気持ちを

どうしようもなく抱えて生きている。


胸が痛くて、苦しくて、

それでも今日も呼吸をし続けてしまう。

あなたがいない世界で。

あなたの痛みの続きだけを

私ひとりが抱えたまま。

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