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ⅱ 朝の散歩

 ジークフリートの朝は早い。


 騎士団長を務めていた頃は毎朝太陽と共に起き、新人隊士たちの素振りの練習に参加していた。


 団長は団長室でお茶でも飲んでいてください、と止めてくる部下を引き留め、新人と同じ隊列で素振りをするのは運動にもなったし、普段は話す機会もない新人と交流できるのも楽しかった。


 何より豪華な部屋でお茶を飲んで待つなど性に合わない。


「騎士たるもの、常に鍛錬、か」


 かつての師匠の言葉を思い出しながら伸びをする。


 騎士団を退職した身なので剣を持つことは許されていないが、身に染みついた癖はどうしようもない。


 素振りができないなら散歩にでも行こうか、と思い立って騎士団の退職の時にプレゼントされたフロックコートにマントをばっさりと羽織ると扉を開けた。


 外の厩舎で水を飲んでいたケンが嬉しそうに鳴くので軽く撫でてやってから歩き始める。


「なんだ、ケンもついてきたいのか」


 ヒヒン、と鳴いて答えるケンを後ろに従えてしばらく足を進めるが、民家がポツポツある以外は何もない。


「随分田舎に来たもんだな」


 果てしなく広がる牧場では羊や牛がのそのそと起き始めている。


「おい、そこのじーさん、どこ行くんだい」

「じーさん、とは私のことか」

「それ以外に誰がいるんだよ」


 声をかけてきたのは羊飼いの青年のようだった。


 年は孫とほとんど変わらないだろう。


 しかし、王都の騎士学院で鍛錬に励み、常に自分にも敬語と不動の姿勢を崩さない孫息子と違い、羊飼いは眠そうな目でだらんと柵に寄りかかっている。


 ここが騎士団の鍛錬場ならシャキッとしろと怒鳴っているところだが、もう退職した身だし、こんな青年もいるだろうと笑顔で聞き流すことにする。


「その先は森しかないぜ、やめときなよ。森には魔女が住んでるんだ」

「魔女か、興味深いな」


 若い頃はまだ小規模で王太子直属だった騎士団を率いて、何度も魔女狩りの任務に駆り出されたものだ。


 賢かった王太子殿下は魔女を狩るより保護して国益にした方がいいと訴え、国が魔法学院と魔法師団を立ち上げて魔法使いを保護し始めてからもう数十年になる。


「もし魔女ならなぜ魔法師団に保護されていないんだ?」

「もう老婆なんだよ。昔の魔女狩りで片目が見えないんだ。魔法師団に入る話も持ち上がったらしいが、森の掘建小屋に暮らすのを選んだ変わった魔女だよ」

「ふむ。ありがとう、行ってみるよ」

「え?おい俺の話聞いてたのかよじーさん」


 羊飼いのおーい、と言う声を背後に森に足を踏み入れると、木々が一斉にざわめき出した。

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