抱いた違和感
今になって、友人たちの言葉を思い出す。
「ほらぁ、人間と恋愛なんてするもんじゃないってドラ美」
そりゃあ人間と亜人は違うし、こうやって“区別”されている。世の中の動き的には多様性を認めて仲良くしましょうと言い出して、高校を卒業すれば大学からは同じ教室で学ぶことも許され、社会でも交わっていくことになる。――でもその区別をされている間に、陽介が他の女の子と付き合ったら?
(何よ……私のこと振っておいて……優しくしてるくせに)
ズルリと伸びた尻尾が、地面をシタンシタンと叩く。
思い返してみれば、やっぱり陽介の行動はよく分からなかった。私の事は無理だってスッパリいって振ったくせに、普通に一緒に帰ったし、帰り道なんて肉まんを一つ買って半分こしたし。次の日だって食堂でカラアゲをくれたし、きのうの夜も遅くまでやりとりをしていた。
そんなことを考えていると余計に腹立たしくなって、私は丁度よく目の前にやってきたボールを取って前へ蹴った。
「竜子!そのボールを寄越せ!」
目の前には、彼女である透子に良いところを見せたい更間田が一人。いくら亜人科の人数が少なくて男女混合だからといって、女ひとりに容赦がない行動は減点にはならないのだろうか。しかし彼女持ちなんて敵じゃない。猪突猛進、電光石火。――いまの私は、陽介だって目じゃない!
「更間田ぁぁぁ!退けええええ!!」
「うぇっ?!ちょ、おま、サッカーのルール分かってんのか……ッ!?あ、あ、あああ!」
後ろなんて振り返る暇はないけれど、今の私は無敵だ。私の後ろはきっとペンペン草も生えてない。そのままの勢いで更間田を撥ね飛ばして進むと、今度は黒い翼を打ち鳴らす烏と頭の方で手を組んでいるチヒロが前に出た。
「オイオイ、東陽。ここを進むつもりか」
「リュコ~、二対一は厳しいんじゃない?」
なんともまぁ、ザコムーブである。
なんせ、先のとおり更間田を撥ね飛ばすような勢いだ。ザコムーブをかましても勢いが留まる事はなく、寧ろ次のターゲットはお前たちかと瞳がギラリと光ると、二人は顔を見合わせて頷き……思い切り避けた。
「オオオイ!天宮!鎌手!!テメェ!」
更間田の怒鳴り声。
「いやぁ、無理無理!アレを止められるわけねーって!」
「そうそう、燃えるのがオチっしょー」
そんな呑気な会話の向こうで、チラリとまた頭に陽介と誰だか分からない女子の顔が頭を過ぎる。
踏み込んだ足は燃え盛り、叫びと共に火炎球が放たれた。
「こうやって、悩んでるのは……ッ!私だけ、かあああ!」
燃え盛る足が放つ、地面を焼き焦がすほどの火炎球。その球は鋭くゴウゴウと燃えながらゴールを狙い、そこに立つゴールキーパー・雪見マトイは顔面蒼白でそれを見つめた。
――好きな男子と同じゴールキーパーをやりたいと名乗り出ただけなのに、まさか燃え盛る火炎球を受けることになるなんて。
多分、雪見の頭にはそんな言葉がよぎっていた筈だ。
「りゅ、……っ竜子ちゃ……っぴゃ………っぴゃあああああ!」
興味本位でつけたぶかぶかのゴールキーパー用手袋がワタワタと泳ぐように揺れ動く。それでも迫りくる火炎球にマトイが怯えたように叫ぶと、その体を守るよう大きな雪がモコモコとあふれ出して、大きな巨大雪だるまが火炎球を受け止めた。
オオッとどよめく辺り一帯。
「はは……っ、亜人科がサッカーやってると超次元サッカーすぎておもしれー」
「……ゴールネットが燃えてないといいが」
――このとき、私は気づいていなかったけれどこの騒ぎを見て、陽介は笑っていた。その隣には穂積の姿。ゴールネットの心配をする彼は雪だるまからプアッと顔を出す雪見を見ていたが、その背後でそれを見ていた女生徒はフウンと息を漏らしてつまらなさそうな顔をすると、悪意のない純粋な疑問を演じた声で呟いた。
「でも、感情のコントロールが出来ない亜人と付き合うって大変そうね」
その言葉に陽介の視線がチラリ。
それに気づいた女生徒は、「あっ、ごめんなさい。声に出てた……?」と品よく微笑むと、彼らとまた馴染むよう亜人たちを見下ろした。