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それって、好きってことじゃないの?

 お前が好きじゃないから困るってことも、待ってくれってことも。それってつまり両想いってことじゃないの?

 青天の霹靂すぎる状況に、頭の中が何度もなんども“あの日”のことを繰り返す。でも、いくら繰り返したって「待ってほしい」なんて言葉は見つからない。こうして考えている間も、全て自分がいいように考えているんじゃないかって思えて、目の前が涙で揺らぐ。

 聞いてないなんて大きく言ったあと、それに畳みかけるように笑い話にする方法だってあったはずだった。なのに、いつだって陽介を前にすると我儘になってしまう。

 その時、陽介がグイと手を引いて体を抱きしめてくれた。


「……陽介、皆見てるよ」

「別にいいよ、アイツらだし」


 屋上の隅で、チヒロたちはお弁当を広げながら何も言わず、こっちを見ていた。

 チヒロと目が合うと、ニヤリと笑ってピースをしてくる。

 ……見守られてる。恥ずかしいけど、胸の奥がほんのり温かくなった。


「鼻水ついちゃうかも」

「それは我慢してくれ」


 温かい胸のなか、陽介のちょっとした笑いが驚くほど心地良い。ドクドクと聞こえる心臓の音は、今の気持ちを落ち着かせるには早く感じるけれど、これが同じように緊張しているせいなのであれば。これほど嬉しいことはない。

 そっと腰に手をまわして、私もぎゅっと抱きしめる。そういえば小さいときも、こうやって抱きしめた事はあったのに、いつのまにかしなくなってしまった。最後に抱きしめたのは、疲れたって言って足を止める陽介を抱っこするために抱きしめたときだ。あの時はあんまりにも簡単に持ち上げるものだから、陽介のお母さんから「竜子ちゃんは力持ちね~」と褒められて、陽介からは何故かものすごく嫌がられたっけ。


 あの時は、持ち上げようとすると頬が当たるくらい身長が同じだったのにな。いま抱きしめられても、私の顔は陽介の胸にあって、陽介の顔は頭の上にある。なのに寂しいよりも、嬉しいとか、安心するの気持ちがいまは大きくて。あの時はないドキドキ感に頭を擦りつけて、陽介も私の身体を抱きしめたまま呟いた。


「……お前が話を聞いてない可能性もあったって、幼馴染として察するべきだったな」


 ちょっとした溜息。


「だ、だって亜人だから無理だろって」

「その次に言ったんだって、待ってほしいって」


 本当に?思い返してみたけど記憶がない。でも、確かにそのあとから教室に戻るまでの記憶もない。……もしかしたら本当なのかもしれない。でも、ということはつまり?


「亜人だから無理なのに待ってほしいってどういうこと?」


 だって、全く繋がっていない。

 彼が私を“贔屓”してくれることは分かるし、それ見るに嫌っているようにも思えない。けれど、これも仲の良い幼馴染と言われたらそれまでのことで……あの時のようにすれちがいたくもなかった。

 陽介はそっと体を離す。それから真っ直ぐに見つめた彼は、少しずつあの時のことを説明するように、少しずつ語らいだした。


「……亜人ってさ、能力が暴走しないようにって幼年期保護法によって人間とは同じクラスにならないよう区別してきただろ?大人になれば……高校を卒業すればその区別も無くなるって言うけど、その割に学校生活じゃ結構厳しいところあるっていうか。そりゃあ俺はそんなの気にせず毎日お前のクラスに行って話す事だって、手を繋ぐことだってできるけどさ。……そんな状態で付き合ったら、俺は良くてもドラ美を傷つけちまうかもって思ったんだよ」

「陽介……」

「だからこそ、あそこで俺はお前を追いかけるべきだったんだよ。……ごめんな、竜子」

「う、ううん……そんな、……そんな風に考えてくれてたなんて」

「まぁ、でも改めて思ったよ。俺はもう少し、お前を守る事が出来るようになるべきだってことも。そういう、亜人と人間が関係なく付き合える環境も欲しいって」

「……亜人と、人間が関係なく付き合える環境、かぁ」

「まぁ、多分難しいかもしれないけどさ。どうせなら、動いてみてもいいかと思って」


 この間のように、亜人と人間の人種問題はまだまだ根深いものがある。でも、それを一人でどうこう出来るようには思えない。

 むしろ、どうこうすることで付き合うのが先になるんじゃないかって、少しだけ現金な私も思ったりもする。私は視線を落とし、陽介の袖を掴む。それが甘えだと知っている陽介は、「どうした」って言ってくれるけど、


「す、好きって言って欲しい……」


 と言った時の返答は早かった。


「……いや、それはまぁ、その時のおたのしみって言うか」

「なんで?!」


 だって亜人と人間の間にある差別をなくすように動くなんて、総理大臣にならない限りは無理じゃない?ということは好きと言ってもらうことすら何年先になることやら。そりゃあ、陽介が私のことを好きでいてくれるのなら、この気持ちが両想いなのであればそれを待ちたいという気持ちはある。

 でも人間だって、亜人だって口にしないと伝わらない想いだってあるじゃない。そんな疑問から出た言葉はまたしても大きく、その音を合図に近寄ってきたチヒロが「お、暗い話は終わった~?」と声を掛けてきた。


「あーん、チヒロ、ヘタレのヘタスケがぁ……」

「おい誰がヘタスケだ」

「まぁ確かに陽介はヘタレなところあるよね、否定はしない」

「いや、否定はしろよ」

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