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第8話、悲鳴のオーケストラ

「…助けてくださーいい!!ベルゼさーん!!!!」


森林からアスタルトが飛び出てきた。ベルゼは既に弓を構えいつでも放てるように構えている。

ベルゼは思わず、笑みがこぼれてしまう。アスタルトの実力は知っていたものの、万が一ということもある。対照的にパメラは下唇を噛んでいた。

ベルゼのすぐ後ろまで後退したアスタルトは全然疲れていなかったものの、はあはあと疲れたふりをしながら口を開いた。


「…はあ、はあ、野盗です。なんとかここまで逃げてきました…ベルゼさん、敵は一人です」


「ベル…大丈夫?」


不安そうな顔を向けるパメラに大丈夫とそのまま返すベルゼ。これにはちゃんと根拠がある。本当に逃げなきゃいけないレベルの敵ならアスタルトがそう告げているはずだ。

それがないならそれだけのレベルの敵ということだ。


「…ちっ!!?仲間がいやがったか」


アスタルトに襲い掛かろうとした野党が追いついた。ベルゼとの距離はまだかなり離れている。


「おい。悪いことは言わないから武器捨てて、そこの女二人俺によこせ。そうすれば特別にお前だけ逃げるのだけは許してやる」


野盗の聞くに堪えない交渉内容は完全に無視してベルゼは弓を引き絞った。

狙いは勿論野盗。


「けっ、せっかく生きる可能性があったのに馬鹿なやつだ。じゃあ望み通りお前からあの世に送ってやるよ」


そう野盗は唾を吐いて、大ぶりのナイフを二刀流で構えてもの凄い勢いでベルゼに迫った。


「…」


ベルゼは何も言わず矢を放った。

もの凄い早さだったが。


「はっはあ!!そんな単純な打ち方じゃあ!俺にかすりもしねえよ!!」


サイドに避けられる。

距離が大分詰められてもし次外したら野党のナイフがベルゼに届くであろう。後ろで何か騒ぐパメラ。

それでも構わず冷静に次の矢を構えるベルゼ。


(…見てから避けてはいないな。俺の指を見て先読みして避けている)


「ははあ!何べん撃っても変わらねえよ!」


ベルゼはそれでも冷静なまま、弓を放った。


「はあ!!むだだ………グガ!!?」


野盗の額をベルゼの矢が貫いた。


「………やった!?やったやった!!すごいよ!ベル!!」


そういって思わずベルゼに抱き着くパメラ。ベルゼはそれに構わず野盗の死体の方に目を向ける。


(…見た目からして野盗の斥候だろうが、それにしては中々に腕がいい。先読みとは言え俺の弓を避けるとはな)


実はベルゼは2度目の矢を放った時、ただ放ったのではない。引き絞った弓を一瞬手放し、再度つかむという人外離れした技でフェイントをかけていた。結果、指の動きを見て回避行動をしていた野盗はまんまとそれにハマって避けてしまったのだ。

放たれたと思われた矢はベルゼの手元に残っていて。

避けたと油断した野党の額を貫いた。

アスタルト同様、リミッター解除できるベルゼだからこそできる技だ。

とはいえ。

初弾を避けられた事実は変わらないわけで。


「…パメラさん気持ちはわかりますが、時間がありません。急いで村に戻らないと」


そう言いながらパメラを自分の身体から離すベルゼにパメラはぽかんとする。


「どうして?だってあの人死んじゃってるよ」


ベルゼはそう簡単に返すパメラにほんの少しだけ気味悪さを感じた。例え悪党でも目の前で殺されればなにか思うことがあるはずだ。特に戦闘経験がない女なら。

それを興味のない物体としか見てない感じでいうパメラ。


「…。あれは斥候と言って事前に敵軍の情報を調べる隠密員です。そしてこの近くにはルピ村しか集落がない…つまりこれからあれの本体がルピ村を襲う可能性があります」


「ちなみにそれは確実ですよ。あの野盗さん本人が言ってました。これからルピ村を襲うって」


アスタルトは慌てるでもなく冷静に言う。パメラがそれを聞くとええ!!?と驚いた。


「ふ、二人ともどうしてそんなに冷静なの!?本体ってことはあれが何人、何十人っているんでしょ!?そんなのが襲ってくるっていうのに!」


パメラの疑問はもっともだった。だがそれは仕方ない。

二人とも単純に強いから。


「ですから急いで村にこの脅威を伝えないといけないのですよ。パメラさんの気持ちはわかりますが、こういう時こそ冷静に対処しなければ…」


そうアスタルトが宥める様にいうとパメラは激高した。


「あなただって結局ベルに助けられたじゃない!!あんな偉そうなこと言ってたくせに!その弓だって結局ただの飾り物じゃない!」


本来であればアスタルトでもあの野盗を撃退することは容易ではあったものの、アスタルト自身のある目的のためわざと逃走したのだ。


「…返す言葉もありません。それならば私だけでも村に戻りますがお二人はどうしますか?」


ベルゼが口を開こうとすると、パメラが割って入った。


「ねえベル!?あたしたちだけでも遠くに逃げよ?だってもうすでに襲われてる最中かもしれないのに、そしたらベルだってあたしだって殺されちゃうかもしれないのに…」


泣き叫びながらベルゼの胸を叩くパメラ。


「…パメラさん」


「あたしを守れるなら安い物ってさっき言ってたでしょ!?あれは嘘なの!!?」


そうぼろぼろ涙をこぼすパメラにベルゼは黙ってこくりと頷いた。


「本当!?じゃあさっそく隣町まで避難しよ?」


途端泣き止んで、笑顔になるパメラ。

ベルゼに背中を向け、村とは違う方向に顔を向ける。


「…!?」


その直後、パメラは崩れるように倒れてしまった。


「…で。とりま気絶させてこれからどうするんですかー?ルシフェル様」


アスタルトが口に指をあてながら可愛らしくそう問う。

ベルゼは崩れ落ちたパメラを抱えた。

パメラが気絶させたのはベルゼだった。ベルゼは光速とも言える手刀をパメラの後ろ首に当てたのだ。


「勿論村に戻る。…確かに斥候がこいつだけとは限らないし、ともすれば本当に襲われている最中かもしれないからな」


縁起でもないことを言いつつも、口元が醜く歪むベルゼ。


「の、割にはなんか愉快そうですね。もしそうであればルシフェル様の可愛がっている家畜や作物も荒らされているかもしれませんよ?」


アスタルトの指摘にベルゼは、ん?と気の抜けたような表情を見せた。


「…ああ、俺笑ってたか今?…そうかそうか。定期的に表れる破壊衝動はそういうことか」


ベルゼは自分が飼育していた家畜たちをとても可愛がっていた。ペット以上の感情で接していたのだ。

しかし同時に。

愛すれば愛するほど、ぐちゃぐちゃにバラバラに壊したくなる衝動が襲ってくる。

ルピ村でこつこつと農民として積み上げていたことも。

トランプタワーを崩すような感じで。

一瞬で崩壊させたくなる。



それは



アスタルトに対してもそうである。



ベルゼは力のない笑みをアスタルトに向けた。


「ガブ。危険を感じたらいつでも俺から離れていいんだからな」


ベルゼの言葉にアスタルトはいつもの魅力的な笑顔で返した。

それはルシフェルの内情を全て察しているかのようだった。



「安心してください♪なにがあってもガブリエルは、ルシフェル様のことを愛してますので」





ーーーーーーーーーーーーーーーー



ルピ村に戻る途中。


「ルシフェル様。ちょっと寄りたいところがあるので、先に戻っててもらえますか?」


ルピ村とそれ以外の分かれ道でアスタルトが言う。今頃村が盗賊団に襲われているかもしれないのに悠長な態度ともいえるがそれはしかたない。

アスタルトにとって村はその程度の価値しかないから。


「…。なにか企んでるだろ、ガブ」


悪戯な笑みを見せるアスタルトに怪訝な表情を見せるベルゼ。


「やだなあ…私はいつだってなにか企んでますよ?それじゃあ」


言いながら手を振り、ルピ村とは逆方向に体を向けるアスタルト。

その方向はナキリシス神聖王国。


(………まあ、お前が楽しいならそれでいいさ)


アスタルトの思惑は分からないが、とても機嫌が良さそうだったのでベルゼはこれ以上は追及しなかった。

気絶しているパメラを抱えているベルゼはルピ村に向かった。



ーーーーーーーーーーーーー



「…お~まさに文字通り。阿鼻叫喚って奴だな」


ルピ村のついたベルゼはパメラを抱えながら村を守る塀の見張り台に飛び移った。リミッター解除できるベルゼだからこそできる芸当。

ルピ村の住民たちがゲイル盗賊団らに襲われていた。

本来村を守るための塀が盗賊達にその出入り口を占拠され、住民たちにとって地獄の檻に変わってしまったのだ。

女は犯され、男は虐殺されている。

略奪の限りが尽くされていた。

本来であればルピ村の住民であるベルゼにとって、これは許してはおけない状況。

というようも、多勢に無勢なのだ。

普通の発想であればどこかに助けに求めに行くのが正解だ。

だがベルゼは住民たちの悲痛な叫びを目を閉じながら聴き入っていた。

まるで盛大なオーケストラを聴いているかのような恍惚な表情で。


「…おっと。悦に入っている場合じゃないな。…しかしなんでだろうな。天界大戦の時もそうだったが、自分の大切にしていた物が崩壊していく様は…とえもとても愉しい」


ベルゼは目を開け、自身が勤めていた農場に向かう。

もうこの村は再生不能なくらいに蹂躙されていた。ならばもう自身の能力を隠す必要はない。リミッター解除状態のベルゼはまるで忍者のように、民家の屋根を飛び移りながら目的地に向かった。

道中助けられる住民もいるにはいたが、そんなことよりも先ずは確認しなければいけないことがある。


「………間に合わなかったか」


農場についたベルゼ。

同時に牧場でもあったのでベルゼが可愛がっていた牛の生死を第一に確認したかったのだ。

結果は全ての牛が無残にも殺されていた。

こんな牛を殺して何の意味があるのか。肉を切り取った形跡もない。

意味など無いのだろう。

ただ愉悦目的で殺したのだろう。

ベルゼは抱えていたパメラを降ろし、牛たちの死骸に近づきそれを優しく撫でる。


「…怖かっただろう?痛かっただろう?ごめんなあ………もうちょっと早く駆けつけていれば助けられたのに」


伸び切った前髪で表情が良く見えないが、悲しそうにそうつぶやく。


「…本当にごめんなあ」


しかしその口元はみるみる醜く歪んでいった。


「こんなことになるなら」




「俺が先にお前らを殺しておきたかったよ」





























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