第七話、ゲイル盗賊団。
「俺から言っといてなんだけどいいのかい?団長と俺二人で抜け出してさ」
ナキリシス城敷地内。厩舎。
純白の鎧を纏ったイグリッドは純白の馬に手綱をつけ、同じく純白の鎧を身にまとったヴォイドは漆黒の馬に手綱をつけていた。
「あなたと一緒にしないでくれる?ちゃんと王様から許可は得たわ。丁度ルピ村周辺にゲイル盗賊団の目撃情報があったから、その調査名目ってことでね」
いいながら純白の馬にまたがるイグリッド。
「…まじ?本当だとすれば笑えないやつじゃねえか!急ごうぜ、団長!」
あわてて漆黒の馬にまたがるヴォイド。
「慌てなくても現時点では信憑性の低い情報よ、はっきりいって体よくルピ村に行く口実にすぎないわ」
対照的にイグリッドは冷静にヴォイドを宥めるよう話す。
「現時点、ではだろ?もし本当だったらあんな小さい村一瞬で皆殺しにされるぜ?…はっ!!」
いいながら、馬に発破をかけ勢いよく出て行ってしまったヴォイド。
「………まあ、それもそうね…はっ!!」
イグリッドもヴォイドに続いた。
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「うん。こんなものですかねー」
ルピ村。教会にて。
アスタルトが納屋で物色をしていた。くたびれた短弓2丁と矢が数本入った矢筒2丁、ナイフ2丁を取り出した。
「教会なのに武器なんておいてたんだ、なんか意外」
パメラが口に指をあてて不思議そうに言う。
身長は155センチほどで、16歳前後。スカートだがラフな格好だ。細身な身体で女性というよりは少女と言ったほうが正しいかもしれない。
健康的な肌色で茶色のロングヘヤーが肩まで届いている。
「宗教というのは平和の象徴であるべきですが、それゆえに力というのはどうしても必要なものです。…まあ、あくまで備えという事ですのでパメラさんは安心してください。…ベルゼさんは弓を扱ったご経験はおありですか?」
ベルゼは元天使兵としての技術があったので弓の扱いは当然ながら超一流だった。だがそれはアスタルトとベルゼ内でしか知りえない情報だったのであえて聞いたのだ。
「…一応人並み程度には扱えますよ」
そう答えつつ、アスタルトから弓と矢筒とナイフを受け取ったベルゼ。
「えー!?ベル弓なんて使えたんだ?あとであたしにも教えてよね?」
そう無邪気に笑うパメラ。ベルゼは分かりましたと笑顔で返す。とはいっても伸び切った前髪でその表情はよく見えない。
「さて。準備もできましたし、村から出ましょうか」
そうにこやかに笑うアスタルトだった。
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「アスタルトさんも弓を使えるの?」
ルピ村から出て少しの時間が経過。
ベルゼは不安通りの作業着に短弓と矢筒とナイフを装備していた。アスタルトも修道服に短弓と矢筒とナイフ装備という若干違和感のある出で立ち。
パメラは手ぶらだった。
「人並みに…ですかね…うふふ」
ベルゼと同じ返しに自分で思わずクスリとなってしまったアスタルト。アスタルトも元天使兵だったので人並みどこらか超一流の弓使いなのだ。なお剣技も超一流。
真相を知らないパメラはアスタルトの表情に首を傾けていた。
「ねえアスタルトさん。シスターってどうやったらなれるのかな?」
道中を歩きつつ、パメラがまたも質問する。遠巻きであるが目的の森林が見えてきた。
「なりたいと思うのであれば都に赴く必要がありますね。総本山であるナキリシス大聖堂で洗礼と加護を受けることでシスターとして認められるのです」
変わらずにこやかに返すアスタルト。それを聞いたパメラはため息をついた。
「なーんか、洗礼とか面倒そうだね…アスタルトさんも聞いているんでしょ?私の事情。嫁ぐの嫌すぎてシスターになるのもありかなーなんて思ったりして。あたしって罰当たり?」
そう苦笑いするパメラ。それに僭越ながらと答えるアスタルト。
「本当になりたいのであれば私に言って下されば紹介しますよ?迷える子羊を助けるのもシスターの務めですので」
冗談に聞こえない口調で話すアスタルトに口を開けて呆れ顔になるパメラ。
「お父さんとの仲介できたんじゃないの?あなたってさ。もし本当にそれやったら逆恨みでお父さんに何されるかもわからないのに」
それにこんな理由でシスターになりたいっていうあたしなんかを紹介するなんてさ、とパメラは続けた。
「逆恨みが怖いようではシスターなど務まりませんから。それに本当にナキリシス神を信仰して入信するシスターなどほんの一握りです。どんな理由であれ入りたいという者がいれば拒まないのがナキリシス教なのです」
心の中でわたしもそうだしねと続けたアスタルトだった。
「…なーんかちょっと…いやかなりアスタルトさんのこと勘違いしちゃってたかも。…でもそれだけに嫉妬しちゃうかなあ、ちゃんと自分の考えがあってさ…それに比べてあたしは…」
「森につきましたよ?パメラさん」
良くない話の流れになったと思ったベルゼは話を遮った。
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「薬草は私が摘んでおきますので、ベルゼさんはパメラさんに弓を教えてあげてください」
そう言ってアスタルトは姿を消した。ともすれば森の中で女性一人は危険だが、魔よけの祝福を自信とベルゼ達に施してくれたので問題ないだろう。
つまりは。
後は二人だけでお楽しみくださいと。
「じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらおっか?ベルせんせ♪」
そう言ってパメラは無防備にベルゼに近づき大胆にベルゼの手を握った。
「わかりました」
二人きりならばと握られた手を離すことなく強く握り返したベルゼだった。
森林内。割と広々とした場所に来たベルゼとパメラ。
ベルゼから弓を借りたパメラが弓を引き絞ろうとするも上手く引けないでいた。
「ん~!!これ全く引けないよ~」
「親指で引くと上手く力を出せますよ。それと初心者は姿勢を正して足を開く」
いいながらベルゼはパメラの後ろから文字通り手取り足取りでパメラの姿勢を正す。自然とベルゼとパメラの身体が重なる。
「…今日は随分と大胆ね…ベル」
言いながらもまんざらでもなさそうに頬を赤くさせるパメラ。
「…一応今だけは立場が上ですので」
ベルゼの返答にパメラはクスリと笑った。
「そうだったわね?ベルせんせ♪」
パメラから放たれた矢は目標の木に鋭く突き刺さった。
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ベルゼ達からすぐ離れた後、アスタルトは遠巻きから二人の様子を眺めていた。
(まーったくじれったいですねー、さっさと一発ヤっちゃえばいいじゃないですか。せっかく二人だけしてあげたのにー………ルシフェル様ってまさか本当に勃起不全?)
そう失礼な思考をアスタルトがしていると、背後から男の影が現れた。
「…おー、こんな森の中にこんな可愛い子ちゃんがいるなんてなあ…俺と良いことしない?」
バンダナに皮の胸当て、ナイフに軽装といういかにも野盗っぽい恰好をした男だった。醜悪な顔がさらに醜く歪んでいる。ちなみに魔よけの祝福は人間には聞かない。だからこそ、弓とナイフを装備したのだ。
振り向いて男を確認したアスタルトは、はーとわざとらしくため息をついた。
「だれだか知らないけど邪魔しないでもらえます?…あとあなたしばらくお風呂入ってないでしょう?臭いからこれ以上近づかないでください」
そう面倒くさそうに手を振り、しっしっ!というアスタルト。
「シスターの癖に随分生意気じゃあねえか。でも気に入ったぜ?ルピ村行く前に一発お前で抜いてやるよ」
そう醜い表情で醜いことをいう男。しかし男の発言にアスタルトは面倒くさそうな表情から一気に興味津々な感じに変わった。
「ルピ村に何の用です?」
「…へへ、それよりも自分の心配したほうがいいぜ?まあいいや、これから俺『ら』全員の慰み者になるんだからその前払いで答えてやる…俺ら悪名高きゲイル盗賊団の次の標的にめでたく選ばれたのさ。俺はその斥候だよ」
そう笑う野党に対してアスタルトは真剣な表情に変わった。もちろんこれは目の前の男に脅威を感じているのではなく、村が野党に襲われることで『今後』についてのプランが大分変ってくるからだ。
アスタルトの中で。
(…なるほど。ゲイル盗賊団と言えば、小さい集落を狙っては略奪の限りを繰り返すので有名ですね。近くに着てたのは想定外でしたね)
徐々に迫ってくる野盗など全く気にせず思考を続けるアスタルト。野党は諦めたの思ったのか、構えを解き余裕な感じで近づいてくる。
(うーん。予定は大分変わっちゃいましたけど、この方がスムーズに事が運びそうです♪…あの女には悪いですけど、さっさとエッチしないでもたもたしてるのが悪いのです)
「………きゃー!!助けてーーー!!!」
突然。
アスタルトはそう叫んで踵を返し野党から逃げ出した。
勿論。
逃げる方向はベルゼ達の方向。
「!!?斥候の俺から逃げられると思うなよー?可愛い子ちゃん」
逃げられたが余裕そうに後を追いかける野盗だった。
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「…!?」「アスタルトさんの声…?」
少し離れた場所にいたベルゼ達にもアスタルトの叫びは聞こえた。
「パメラさん。弓を返してもらえますか?」
「う、うん」
パメラから弓を受け取りいつでも、放てるように弓を構えるベルゼ。
「ね、ねえ!?叫び声が聞こえた方向に行った方がいいんじゃない!?ベルゼ」
そう慌てて言うパメラに落ち着いてくださいと宥めるベルゼ。
「敵の数も分からない以上、下手にこっちから動くのは返って危険です。それに魔よけの祝福が施されている以上、敵は人間の可能性が高い…そしてアスタルトさんは女性だ。もし捕まってもすぐに殺される可能性は低い」
ベルゼの言を聞いてパメラの表情が固まってしまう。
殺される可能性は低い。
それはつまり殺されなければ何をされても構わないと言っていると同義だ。
「…軽蔑してもらって構いませんよ?それでパメラさんを守れるなら安い物です」
伸び切った前髪でその表情が見えないが、ベルゼはそうパメラに向かってほほ笑んだ。
「………軽蔑なんてしないよ!あなたはあたしのためだけにいてくれたらそれでいいわ!」
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「ちっ!!?女のくせに随分足がはええ!?」
斥候である野盗の男は足には自信があった。またなくては斥候としての務めを果たせない。そして本当に足は速いのだ。
単純にアスタルトの足が速すぎるのだ。
(…まーったく、大分手加減して走ってやってんのにだらしない奴ですねー本当に斥候なんですかー?)
そんなことを思いながら斥候からつかず離れずいった距離感を保ちながら走るアスタルト。
アスタルトの身体は本来であれば人間とほぼ変わらない。だが天使兵としての技術と技量でリミッターを意図的に外すことが出来るのだ。
人間は本来の十分の一程度の力しか出せない。
つまり10倍の力を常に引き出せるのだ。
(まあ、見失われると厄介なので、精々ついてきてもらえますか)
そうため息をつきながら走るアスタルトだった。




