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第四話、ナキリシス聖騎士団

ナキリシス神聖王国。

ナキリシス城敷地内。

国を守る聖騎士団が修練所にて汗を流していた。

訓練用の刃を落とした剣のぶつかる心地良い金属音が周囲に響く。


「剣の握りが甘いわ!そんなだからすぐに弾かれてしまうのよ!!…次っ!!」


修練所の中心で。甲高い怒号が響く。流れるような鮮やかで美しい腰まで届く金髪の女性騎士が、修練相手の剣を薙ぎ払った。身長が170ほどしかないのに190ほどはあるであろう大柄な男の剣を軽々と弾き飛ばしたのだ。

彼女はナキリシス聖騎士団団長、イグリッド・オルドヴァ。

純白の鎧を纏いながらも、その動きは流れるような軽やかさがあった。


「次は自分が行きます!!」


大柄の男が一礼してイグリッドの前から退き、代わりに若い男が彼女の前に出た。

イグリッドと同じ純白鎧を身にまとい、訓練用の騎士剣を両手で握り対峙する。ブロンドの短髪でまだあどけなさが残る、青年というよりは少年よりの表情。だがその顔つきは真剣そのものだ。

彼の名はマルク・アルベルト。


「うん。いい顔よ。いつでもきなさい!」


大勢の団員が見守る中、イグリッドは片手で騎士剣を握り余裕な感じでマルクに迎え撃つ姿勢だ。


「…いきますっ!!」


マルクは勢いよくイグリッドに渾身の剣撃を何発も打ち込むが、イグリッドに余裕でいなされてしまう。


「…くっ!?」


「力強いがそんな単調な動きでは、何回切っても私に当たることはない…はっ!!」


イグリッドの鋭い剣撃がマルクを剣ごと吹き飛ばした。


「…ててて。やっぱりまだまだ敵わないですね」


尻もちをついたマルクはそう言いながら、苦笑いで頭をかく。


「そうでもないわ。確かに単調ではあったけど、気合の入ったいい切り込みだったわよ?」


イグリッドは言いながらマルクに手を差し出す。

その表情は美しく、凛々しい笑顔であった。


「…精進します」


マルクは少し頬を赤らめながら、その手を握った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


訓練後。

イグリッドは団長専用執務室にて各書類に目を通していた。王国直属の騎士団ともなると、戦うだけでなくこういった事務業務も多くある。団長ともなるとより一層だった。

鎧を脱ぎ、黒いチュニック姿で鎧ではわからなかった豊満なボディラインが目立つ。


(…正直いって事務作業って退屈よね。末端の団員時代が気楽でよかったわ)


ため息をつきながら大量に積み重なった書類に目を通すイグリッド。彼女は聖騎士団唯一の女性であったものの、その卓越された剣術が評価されどんどん出世していき団長まで上り詰めた。だが彼女はそこまで出世欲はなく比較的事務作業が少ない末席がよかったのだ。


少し時間が経過し。


扉をノックする音が聞こえた。


「どうぞ」


書類に目を向けたまま、気だるそうにそう答えるイグリッド。


「…失礼します。アストラ陛下がお呼びです」


マルクだった。一礼して部屋に入る。


「王様が?わかったわ。今すぐ行くから、後はヴォイドの指示に従って」


イグリッドがそう返答すると、マルクが困った顔を見せる。


「…。それがヴォイド副団長は…」


マルクの表情から全てを悟ったイグリッドはまたも深いため息をついた。


「ルピ村のアスタルト…だっけ?どうせまたそいつの所に行ってるんでしょ?そういえば訓練の時もいなかったわね…モテるのに案外一途なのねあいつって」


そうやれやれと言った仕草を見せるイグリッド。訓練をサボっていた上にその理由が女に会いに行くためという、割かしクズなのにたいしてそこまで不快そうな感情はなさそうだ。


「イグリッド団長。末端の自分が言うのはなんですが、副団長とは言えなんの処罰もないのは少し…いやかなり甘いのでは?」


イグリッドは訓練をサボったヴォイドに対しての処遇は何も言ってなかったものの、その様子でマルクは察したのだろう。事実これまでもヴォイドはこういう規則違反を繰り返していたがイグリッドは黙認していた。マルクの不満な意見は他団員もそうであった。


「…マルク。他のみんなもそうだけど本当にそう思うならもっと精進しなさい。騎士団の中で私の背中を預けられる実力者はあいつだけよ。それに遅刻やサボりをするだけで、自分のするべき仕事はちゃんとこなしているわ」


イグリッドの反論に何も返せず、悔しそうに下唇を噛むマルク。彼女は良い意味でも悪い意味でも仕事においてはリアリストだった。

多少行動に難があっても優秀で仕事をこなしてさえくれれば、ある程度のことは目をつむる。それもそのはずで、仮にヴォイドを謹慎処分にしたら彼女の仕事量が単純に増えるのだ。それに彼女に次ぐ剣の腕を持つヴォイドをなのだ。戦力ダウンが単純にまずい。


「…そんな顔しないでよ。私だって好きであいつの勝手を許してるわけじゃないわ。それにあなたが頑張っているのはちゃんとわかってる…だから早く私を楽にさせてよね?」


イグリッドはそう優しい笑みをマルクに向ける。


「…!?生意気を言ってすいませんでした!!一刻も早く団長の力になれるように励みます!」


そう慌てて頭を下げるマルク。

そうだった。イグリッド団長は厳しい所はあるが、基本は団員全員の事を考えてくれている。そんな優しい彼女に文句を言う前に、自分がいかに彼女の役に立てるかを考えるべきだった。

つまり彼女が多忙でさえなければ、しかるべき罰をヴォイドに処していたのだ。


「もういいわよ。そもそもあなたたちが不満に思うのも仕方ないことだしね。さて、正装しないといけないから出てってもらっていい?…指示はそれからだすわ」


そう立ち上がるイグリッドに頭を下げたまま、あ…あの、と歯切れが悪そうに口を開くマルク。


「なに?」


「好きでヴォイド副団長のことを許していないということは…つまりその…」


マルクの口調ははっきりしないままだったが、イグリッドは察したようで笑いながら答える。


「…ああ。『そう』勘違いする奴もいるでしょうね。でもヴォイドの事は何とも思ってないわ。…まあ大事な仲間ではあるけどね…変な噂流さないでよ?」


イグリッドの返答にマルクは真っ赤になった顔を見せた。


「…はい!?そんな噂をする奴は自分が成敗しますっ!!」


そう言ってマルクは勢いよく部屋を出た。

部屋の扉が閉まることを確認したあと、イグリッドの笑顔は消えて憂鬱な表情に変わった。


(とは言ったものの…マルク然り、ヴォイド以外の他団員然り、突出した戦闘の才能がないのよねえ…騎士団である以上、個より群としての強さが優先されるべきではあるけど…それでも個としての強さが必要な場面はどうしても出てくるわ)


本来であれば軍隊に突出した個は必要とされない。むしろ勝手な行動をとる優秀な者などいらず、従順な凡人が求められる。しかしながらイグリッドが束ねるナキリシス聖騎士団は王直属のエリート騎士団なのだ。

しかしその実集まってくるのは、貴族崩れの凡人ばかり。

それもそのはずで、王直属の聖騎士団である以上ある程度の出自が求められる。才能優先ではないのだ。結成当時は本当のエリート集団であったものの、そんな状況が続けば騎士団の凡庸化は進むわけで。


(…まあ、強さ優先で出世させてくれるだけまだましな環境よね。王様も騎士団弱体化を危惧して平民出のヴォイドの入団を許してくれたし)


ヴォイドは元凄腕の冒険者である。イグリッドはその卓越した戦闘センスを評価し、聖騎士団に勧誘した。平民出ということで方々から反発を食らったが、イグリッドのこれまでの功績とヴォイドに貴族位を与えることで認められた。

そんなこんなで団長として騎士団の質向上に努めていたイグリッドだったが、そういった改革的な行動は得てして嫌われてしまうのもワンセットなわけで。

その美貌と強さ故騎士団内でマルクのように彼女を慕う者も多かったが、そんな事情もあり同時に不満を者も少なくはなかった。

当然彼女自身もそれは知っていた。

仕方ないとはいえヴォイドの勝手を許しているのも、騎士団内の不満を膨らませていた。


(とりあえずはヴォイドのサボり癖を何とかしないとね………ルピ村のアスタルトかあ…他人の恋路は邪魔するのも応援するのも好きじゃないけどこの際仕方ないわね)


そう思いながら、正装に着替えるイグリッドだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーー



ルピ村の小さな教会。

木造で簡素な造りだった。控えめなステンドグラスから西日が舞い込む。

端にある小さくくたびれたパイプオルガンで音を奏でるシスターがいた。

修道服は本来体のラインが見えにくいが、グラマラスな肉体のせいで出るところがはっきりと出ていた。

修道帽から出ているピンク色の髪が腰まで届いている。

身長は160cmほどで、奇麗と可愛らしいを両立している小悪魔的な美女。


(…うふふふ。シスターなんて正直面倒ですけど、いつでもオルガンで演奏ができるのは楽しいですねー)


ご機嫌な感じで演奏を続けるシスター。

すると教会の扉がぎいいと鈍い音をたてながら、開いた。


「アスタルトちゃーん!また会いに着ちゃったよ!いやー相変わらずピアノが上手いねー」


太い声と共に一人の大男が入場した。

筋肉隆々な太い身体。だが金髪ロングのイケメンでややタレ目である。軽装ではあるが大きい騎士剣を腰にぶら下げている。


(…相変わらずキモいですねー。それにピアノじゃなくてオルガン…まあそんなことはどうでもいいですけど、『今日』に限っていえばあなたに会いたかったですよ?)


大好きな演奏の邪魔をされ、ほんの一瞬だけ不快そうな表情を見せたがそれはすぐに笑顔に変わった。


「ヴォイドさん…。遠路はるばる会いに来てくれてありがとうございますー」


とアスタルトは演奏を止めて甘ったるい声を出す。


「いやあ、アスタルトちゃんが振り向いてくれるまで何度でもくるさ」


と爽やかな笑みを返すヴォイド。

ヴォイドはナキリシス神聖王国聖騎士団副団長だ。当然都に住んでいるがルピ村は当然田舎なので、馬を使っても半日はかかる。しかしヴォイドは副団長という職権乱用をして、騎士団の馬を使ってアスタルトに会いに来ていたのだ。

しかも副団長用のいい馬なので、三時間ほどでルピ村に着く。


「なあアスタルトちゃん。ナキリシス教のシスターは男と付き合えないっていうけどさ。都にいるシスターなんてほとんど裏で男とつきあってるぜ?それにさ、こんなさびれた村にいるより俺と一緒になったほうが贅沢もできるしさ」


というとても聖騎士団とは思えないげすい口説き文句を言うヴォイド。アスタルトは内心お前がキモいから断ってるんだよと悪態をついていたが飲み込む。


「…そうなんですか?じゃあ、私も馬鹿正直に戒律を守っても仕方ないですね」


と満面の笑み(偽造)をヴォイドに向けた。


「…はあ、そうだよな…やっぱりだめか…って!えっ!?じゃあもしかしてもしかしてもしかしちゃったりする!?」


目を丸くし、両手をグーにして驚きと期待がこもった表情でヴォイドがアスタルトに迫った。

するとアスタルトが笑顔のまま頷いた。


「やっほうう!!?まじかまじかまじか!!粘ったかいが…」


と喜びぱなしのヴォイドに向けてアスタルトが正し!!と遮った。


「私と勝負して勝ったらですよ?」


アスタルトの不可解な言葉にヴォイドはぽかんとしてしまう。

アスタルトはそんなことなど構いもせず無防備に近づき、ヴォイドの耳元でささやいた。

その言葉は。

ヴォイドのイケメンな表情を醜く歪ませた。


「もし私にかてたらあ…一晩中好きにしていいですよぉ?」
















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