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第三話、醜悪。

(…さて。追いかけろとは言われたものの…何処へ行ったのやら)


アレフ家から飛び出していったパメラを追うために、ベルゼもアレフ家を出る。

周囲は暗く、恐らく走っていたであろうパメラを見失ってしまった。


「ルシ…おっと、ベルゼさん。キョロキョロしてどーしたんですかー?」


甲高く間延びした声が聞こえた。

暗闇から一人のシスターが現れた。

修道服は本来体のラインが見えにくいが、グラマラスな肉体のせいで出るところがはっきりと出ていた。

修道帽から出ているピンク色の髪が腰まで届いている。

身長は160cmほどで、奇麗と可愛らしいを両立している小悪魔的な美女。


「…。アスタルト、ちょうどよかった。パメラさんを見なかったか?」


アレフ家の敷地から出てすぐにアスタルトに出会ったベルゼ。パメラ同様、夜中に女性の一人歩き…ましてや村一番の美人である彼女がそんなことをしているに違和感を持つはずだが、ベルゼはアスタルトの隠された強さを知っていたのでそこには触れず質問をした。

そもそもアスタルトは夜中に、度々ベルゼの小屋に遊びに来ていたので違和感もくそもないわけで。


「…話が見えないんですけど?こんな美女がせっかく遊びに来たのに他の女の事聞きます?普通」


と、露骨に不満そうな顔をするアスタルト。ベルゼは急いでいたので事の顛末を説明するのが面倒だったが、アスタルトの言い分も理解できたので説明する。


「…はー、しょうもな。…でもま、そういうことなら、あっちの方向に走っていくのを見ましたよ?」


言いながら、指をさすアスタルト。その先には小川がある。


「助かったよ。この埋め合わせはいつかするから」


ベルゼはアスタルトの指さした方向に体を向ける。


「じゃあ、後日でいいので私のいう事なんでも聞いてくれます?」


さっきまでの不満そうな顔が一気ににやけ顔に変わったアスタルト。


「ああ。聞けないこと以外はなんでも聞いてやるよ」


そう言い残して、ベルゼは走り去った。


「…。ばーか!!!」


ベルゼの背中に向かってそう叫ぶアスタルトだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


村はずれにある小川。

そこにパメラが体育座りをしていた。小石をポンポンと小川に投げている。


「…何しに来たの?今は一人でいたいのに」


背後からベルゼの気配に気づいたパメラが、振り向かずに呟くように言う。


「すいません。ですけどこの時間に女性で一人は危険ですので」


正直ベルゼは困っていた。慰めの言葉をかけるのは良いがそれで変な勘違いされても困るし、仮に放っておいて万が一パメラの身に何か起きたらそれはそれでヤバイ。

どちらに傾いてもベルゼがアレフ家を追い出されかねない。

言葉を慎重に選ぶ必要がある。

しかしま。人というものは一人で抱え込むとふさぎ込んでしまうものだ。他人に話を聞いてもらうだけで、気が楽になることもある。


「…不躾かもしれませんが、ユルプル家に嫁ぐ件について詳しく聞かせてもらえませんか?」


ベルゼの質問にパメラがため息をついた。別につまらないわよ?とパメラがいったが、ベルゼはもしよろしければと答えた。


「…多分察しているだろうけど、私はユルプル家になんて嫁ぎたくないの。これまで通り、お父さんとベルと一緒に農場と牧場の仕事をしていたいのに」


そういって小石を小川に投げるパメラ。憂鬱な表情だ。


「その気持ちは僕にとってはありがたいですけど…ユルプルって伯爵ですよね?客観的に見れば悪い話ではないと思いますが…」


ベルゼの問いにパメラはそりゃあ客観的にはねえと乾いた笑みを見せる。


「嫁ぐといっても妾としてよ?…正直正妻でもやだけどね。うちって一人娘でしょ?私が嫁いで子供ができたら、その子をうちの跡取りにしてあげるって話。…酷くない?私の気持ちも考えないで、勝手にきめちゃってさ。私は跡取りを生む機械じゃない…ベルも座って?」


パメラは右手で自分の隣をポンポンと叩いた。ベルゼは言われた通り、パメラの隣に座る。

当然、少しの距離は取りながら。


「ああ。だからパメラさんに普段やさしいアレフさんがあそこまで怒っていたんですね。しかし難しい問題です…アレフさんの意思はともかく、伯爵家との縁談を安易に断れないでしょうし…どうしたものか」


領地を統括する立場のユルプル家と、その領地内で地代を収める立場のアレフ家。

どちらからの縁談かはわからないが、いずれにせよ立場の弱いアレフ側が一方的に断ったら今後の未来が暗くなるのは想像に難くない。


「…ふふ。ベルはやっぱり優しいね。どうにかならないか考えてくれるんだ?」


パメラの表情が少し緩くなった。


「パメラさんにも世話になってますからね。とはいえ、僕にできることはあまりなさそうですけど、でもないなりになにが出来るかぐらいは考えさせてください」


伸び切った前髪で表情はよく見えないが口に手を当て、真剣に考察するベルゼ。


「さっきだって私のせいでお父さんに怒られたのに…ベルにとっては私がいなくなってくれたほうがいいんじゃないの?」


言いながらも、笑顔を向けるパメラ。それに関しては返答に困るところではあった。たしかにパメラから行き過ぎた好意を向けられアレフから理不尽な責めを向けられたものの、だからといってパメラがいなくなるのはどうなのだろう。ベルゼが距離感をきちんと守ることが出来れば、ベルゼの待遇を良くしようとしてくれるパメラという存在は単純にありがたくはある。


「…一応僕も男ですから。アレフさんが主人ではあるものの、できる限りはパメラさんの味方をしたいですよ」


ベルゼがそういうと、はーと深くため息をつくパメラ。


「ん~それじゃたりないんだよな~。まーでも話して少し気がまぎれたかな?ベル、ありがとね!」


パメラは勢いよく立ち上がりスカートについた土埃をぱんぱんと落とす。


「帰ろっか」


そう座っているベルゼに手を差し出すパメラ。一瞬躊躇したベルゼだったがすぐ離せばいい思い、その手を取った。


ーーーーーーーーーーーーー






帰り道。

ベルゼとパメラが横並びで歩く。勿論手をつなぐようなことはない。


「…ねえ、ベル」


さっきは切り替えた感じのパメラだったが、アレフ家に近づくにつれその笑顔に力強さが弱まっていく。

途中で立ち止まり、ベルゼの服をぎゅっと掴んだ。


「本当に私を助けたいと思ってる?」


俯いているのでパメラの表情が良く見えないベルゼ。質問の意図が見えないが、なにかよろしくない方向に行っていることだけは理解できた…できたが。


「…ええ。信じてください」


今はこう答えるしかない。


「………じゃあ、お父さんをさ…………」


「!」


いつもの可愛らしい少女の顔が醜く歪んだ。


「コロしてくれる?」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





《なーんてね!冗談だよびっくりした?》



ベルゼの掘っ立て小屋。

パメラと別れたベルゼはベッドに腰を掛け、くつろいでいた。

その隣には先客のアスタルトがいた。


「ふーん。なーんていうか『あの父親にしてこの娘あり』って感じですねー」


甘ったるい声で話すアスタルト。ベルゼからことの経緯を聞いてそう感想を漏らした。


「ああ。後で冗談だとは言っていたが、あれは本音だろうな。…親子そろって実に醜悪だよ」


言葉とは裏腹にくつくつと愉快そうにベルゼは笑う。


「その割には随分楽しそうですね。…ああ、ルシフェル様ってあの家狙ってたんでしたっけ?あの父親殺っちゃって娘とくっついちゃえば、思い通りになるというわけですか」


あんな農場のどこがいいのか理解不能ですけど、とアスタルトはやれやれと言った仕草をした。


「作物を育てるというのはとても面白いぞ?それに牧場もあるからその家畜の世話も面白い。愛着もわくしな…知ってるか?愛情をこめて世話すると牛たちの乳の出が良くなるんだ」


そう楽しそうに話すベルゼにアスタルトは嫌らしい笑みを向ける。


「そんなに乳しぼりが好きならここにも立派なお乳がありますよ~ほらほら」


と豊満な胸をベルゼに摺り寄せるアスタルト。


「…牛と張り合って虚しくならんのかお前は」


アスタルトの大胆な誘いにもベルゼはふうと一息つくだけだった。


「ふーんだ!ルシフェル様の勃起不全!ED!インポ!」


そう頬を膨らますアスタルトに、それ全部同じ意味だぞと笑うベルゼだった。


少しの時間が経過し。


まだ若干不満そうな顔をしているアスタルトが口を開いた。


「…で。これからどうするんです?本当に父親殺しちゃうんです?」


シスターの恰好をしているのに物騒なことを言うアスタルト。それもそのはずでアスタルトはナキリシス教のシスターをしているが、別にその神を信仰しているわけではない。むしろナキリシス神よりもずっと高位の天使だったのだ。…元ではあるが。


「…事はそう単純ではないな。実際にその貴族とのやり取りはパメラではなくアレフがしているだろうし。それによっては仮にアレフを殺したとて、俺にとって都合のいい展開になるとは限らない」


そもそもアレフがなんらかの事故で死んだとしても、例の貴族との縁談が破断するのが確定ではない。むしろ可能性は低いとベルゼは考える。例えばパメラが嫁いだとしても、その貴族家から何人か働き手を出せばいい。経営だけならパメラが遠方でもできるだろう。


「はえー、なんか色々面倒くさいんですねー。仮にあたしがルシフェル様の立場だったら、取り合えず殺して、その後に上手くいかなかったら考えますね」


そう言いながら後頭部に両手を組み天井を見上げるアスタルト。


「それは強者の考え方だから、今後はそれを改めたほうがいいぞ?ガブ。今の俺たちでも低俗なモンスターや人間相手には無双できるだろうが、ある一線を超えた強者には勝てない場合もあるだろうからな」


ベルゼは言いながら思い出す。且つて天使としては最高位だった熾天使セラフィムだった自分のことを。今では最下位から2番目の大天使アークエンジェルスにも劣る力しかないだろう。


「はあ、それ聞くと本当に萎えますねえ。でもだからこそ色々考えて行動するようになったともいえるわけですか?一応あたしも大人しくしてますけど、それはルシフェル様の真似をしてるだけだし…」


天界大戦で神に負けて地上に追いやられた後、ルシフェル側についた天使たちは散り散りになった。

たまたま近い場所に堕ちたルシフェルとガブリエルは、ベルゼ、アスタルトと名を変え人間として同じ村で生活していた。

アスタルトは天使兵としての技量が残っていたので、その力を利用してもっといい生活をしようと最初いっていたがベルゼはそうはしなかった。お前がそうしたいならそうしろとだけ言われ、ただの農場の使用人という立場に落ちついたのだ。

アスタルトはそんなベルゼを見て、なにか考えがあるのだろうと自分も一介のシスターとして慎ましく生活していた。


「…ガブ。いつまでも俺を追いかけるのはやめて、そろそろ自分の目標をもって動いてみたらどうだ?天使兵としての力を使うかどうかはともかくとして、それはとても面白いものだ」


ベルゼの問いに、再び不機嫌そうになるアスタルト。


「私の目標はルシフェル様を…………あっ」


アスタルトの表情が突如、ぽかんとしたものに変わった。その後、いつものいたずらな笑みとは違い真剣な面持ちをベルゼに向けた。


「…ねえルシフェル様。あたしがもし自分の目標を作ったとして。その達成に向けた努力をルシフェル様は応援してくれます?」


いつもだったら、警戒して内容を聞くまでは安請け合いしないベルゼだったがその真剣な表情を見て。


「…ああ。そもそもガブのことは大切に思っているから」


ベルゼの返答に途端アスタルトの表情がにまーという可愛らしい笑顔に変わる。


「言質取りましたよー?それじゃこれから忙しくなりそうなので、今日はこれで失礼します♪」


そう言って、機嫌よさそうにベルゼの小屋から出ていくアスタルトだった。


(…なんだったんだ?)
























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