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第二話、使用人としての立場。

(ガブの言っていることも…まあ、一理ある…正直な話、農作業や畜産業が思いのほか楽しくて続けている側面もあるからなー)


ナキリシス神聖王国領内。

ルピという名の小さな農村。

ベルゼはそこにある一つの農場兼牧場で働いていた。待遇はほぼ奴隷…とまではいかないが、低賃金且つ重労働という所謂底辺職であった。

今日の作業がひとしきり終了し、農場にある井戸で水浴びをしていた。

生まれたばかりの姿に戻って。


「ベルー!夕飯が………!!?ああ!ごめん!!」


一人の女性があられもない姿になっている姿のベルゼを見つけ、思わず両手で目を覆う。


(…俺がこの時間水浴びしているのわかっているだろうに)


これが何度目になるかという、日常化?されたハプニングだった。両手で顔を覆う女性の指と指の間が少し開いているのが、そのことを如実に物語っていた。

ベルゼは特に気にもしていなかったが、一応近くにあった布で下半身を覆った。


「…こちらこそすいません。あと食事のお知らせをありがとうございますパメラさん」


そうベルゼが頭を下げると、パメラは顔を覆ていた両手をブンブンと振る。

身長は155センチほどで、16歳前後。スカートだがラフな格好だ。細身な身体で女性というよりは少女と言ったほうが正しいかもしれない。

健康的な肌色で茶色のロングヘヤーが肩まで届いている。


「私が悪いのに謝ることないよ!それに…」


今日もいい『もの』見れちゃった…♪と心の中でそうほくそ笑むパメラだった。顔が紅潮している。

ベルゼは細いが引き締まった体だ。残念なのは伸び切った黒髪が表情を隠していることだが、その肉体美は見惚れるのも仕方がなかった。


「あ!これ新しい作業着ね。それと今日から家で一緒にご飯食べれるようにお父さん説得したから」


持っていた衣服をベルゼに渡しながら、笑顔で話すパメラ。


「パメラさん。色々してくれるのはありがたいんですが、アレフさんが心配しますので」


言いながら、ベルゼは衣服を受け取る。

ベルゼはアレフに住み込みで雇われている。アレフ自身はベルゼの事をよく働いてくれている使用人とは思ってはいるが、愛娘であるパメラがアレフ視点で看過できないレベルの好意をベルゼによせていたため、そのことだけは快く思っていなかった。

まあ『そのことだけ』がとりわけ、最重要問題であればアレフにとって大問題であるわけで。

それはベルゼにとっても同様では…なかった。


(…真面目に働いていれば一人娘だから、俺を婿にしてくれるかもしれないと考えてはいたが…現実はそう甘くないな)


アレフの懸念はずばり的中していた。

真面目で働き者の青年であるベルゼのそれは演技であり、下心はちゃんとあったのだ。

まあ、目的はパメラではなくアレフの家と農場ではあるのだが。

だがベルゼの考えている通り、現実は甘くない。

ただそれはある意味当然と言える。

使用人が真面目に働くのはまあ普通のことで、一人娘で跡継ぎがいないとはいえ出自不明のベルゼに家と娘を任せようという発想にはならないのだ。


「いいからいいから。それにベルは私にとっても使用人なんだから、言う事ちゃんと聞かないと駄目だよ?」


着替え終わったベルゼの背中を押しながらそう笑うパメラ。

態度からパメラがベルゼに好意を抱いているのはきづいてはいたが、アレフにその気がない以上パメラの好意はベルゼにとって厄介なものに変わっていた。

これ以上パメラに好かれてしまうと、家を追い出されてしまう可能性があるからである。

もし仮にパメラが暴走してベルゼと付き合うとか言い出したら、いくら娘に弱いアレフと言えど激怒し家を追い出されかねない…そうベルゼは考えていた。

現状行く当てのないベルゼにとって、それは致命傷とはいかないものの、出自不明者が新居を探すのは大変なことだ。

天使兵だったころの技術を使えば、冒険者としてそれなりに稼ぐことはできるだろうがベルゼはあまりそれは気が進まなかった。

何故なら初めて知った農作業や畜産業が思いのほか楽しかったから。

作物が成長する過程を見ることや、家畜の世話をすることがとても面白く感じていたのである。

ちなみに。

今のベルゼの肉体は歳をとらないこと以外は、人間の肉体とほぼ変わらない。だが天使兵としての肉体の使い方や効率的な力の出し方、癒し方の術を心得ていたので本来重労働であるはずの仕事が全くそう感じないのである。

まあ、あまり余裕な態度を見せるとあれなので適度に疲れている振りをしているが。

そんなわけで。

アレフ家を乗っ取る目論見は果たせなかったものの、当面の活動拠点としてアレフ家の使用人としてはまだまだ居たかったのでパメラの扱いには困っていたベルゼだった。


(…アスタルトに彼女っていう設定で演技してもらって、諦めてもらうか?ああでも、ナキリシス教のシスターって男と付き合えないんだっけ?まあ、いずれにせよ得策ではないわな。仮にアスタルトと付き合っている体にしたらあいつの『ファン』達から色々と恨みを買いそうだ)


パメラに背中を押されながら、ぼーっとそんなことを考えながら歩くベルゼ。

この農村の小さな教会でシスターをしているアスタルト。

村一番の美女で小悪魔的な可愛さを持つ。一方でパメラは典型的な元気っこ系の美少女という感じ。

アスタルトはその美貌故に、方々から男たちがやってきて口説かれている。

そんなアスタルトと付き合っているなんてのが、嘘だとしても広まってしまったら面倒なことになりそうだとベルゼは自分の中で提案して自分で却下した。


(…まあ、一線超えなきゃ追い出されるまではないだろうしな)


と考えるのを放棄してパメラと一緒にアレフ家に向かうベルゼだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「いただきます!」「いただきます」「…いただきます」



木造の家。広いダイニングに木造のテーブルに椅子。燭台が周囲を照らす。

木造の食器にはスープと、ベーコンエッグが盛られていた。そしてパン。

ベルゼとパメラが隣同士で座り、アレフが不満そうな顔で対面に座っていた。

ベルゼはアレフの心中を察していたため、あまり視線を合わせないようにしていた。


(…いや、そんな顔されてもどうしようもなかったんだが)


ベルゼの雇い主はアレフだがその娘のパメラもまあ似たようなもので、一緒に食事をしようと言われたら無下にするわけにもいかないわけで。


「ベル。今日のスープ美味しい?」


そんなベルゼの心中など梅雨知らず、笑顔でそんなことを聞いてくるパメラ。


「ああ、とても美味しいですよパメラさん」


そもそも自分の立場でまずいと言えるのだろかという疑問はさておき、そう笑顔で返すベルゼ。

もっとも伸び切った前髪で表情が良く見えないが。


「良かったー。おかわりいっぱいあるから、沢山食べてね?」


と、ご機嫌そうにパメラもスープを頬張る。

そんなパメラの様子を見てアレフもようやく諦めたのか、大きくため息をついた後不満げな表情が普段の顔に戻りパンをかじり始めた。

程なくして。

ベルゼのスープが空になり、ベルゼが手を手を合わせようとするとパメラが遮る。


「遠慮しなくていいから、もっと食べなよ!」


と、ベルの食器を持ちおかわりをよそいにくパメラ。ベルゼが慌ててせめて自分でやりますから!?と止めると、いいからいいからと逆に止められる。


「パメラ。一応お前にとっても使用人なんだから流石に…」


とアレフが口を出すとパメラは顔をプイと背ける。


「別に私がしたいだけなんだからいいでしょ!」


予想通りの反応にまたしてもため息をするアレフ。


…。


………。


………………。


…流石にまずいと感じたベルゼは先手を打つことにした。


「…アレフさん。『次回』からはやはり自分の小屋で食事を摂ることにします」


「ベル!?そん…」


突然のベルゼの提案にパメラが叫びかけたが、アレフの怒号にかき消される。


「パメラ!!!お前は黙っていなさい!!ベル…お前からそう言うならまだ許せんこともないな。どうせパメラに押されたんだろうが、そうだとしてもよくノコノコと家の敷居をまたげたものだと思ったよ」


だが、拾ってやった恩は忘れていないようだなと続けるアレフ。


「はい。自分の配慮が足りませんでした。今後はこのようなことがないように努めますので、許していただけませんか」


椅子から立ち上がり深く頭を下げるベルゼ。

普段は娘にたじたじのアレフだったが、今宵ばかりは違った。パメラの行き過ぎた好意に危機感を感じたのだろう。鬼の形相だ。

何も言えず立ち尽くすパメラに、丁度いい機会だから座りなさいと促すアレフ。


「ベル。もういいからお前も座れ。今の態度を見るに大丈夫だろうが念押ししておかないとな」


パメラが俯きながら座り、ベルゼも同様に座る。

それを確認したアレフは一息つき、腕を組む。


「『嫁入り前』の大事な身体に万が一にも、傷を付けさせるわけにはいかないんでな」


アレフの言葉にパメラがなにか口にしそうになるが、鋭い目つきのアレフにだまらせられる。

一方のベルゼはアレフの言葉で大体の事情を察した。


「ユルプル伯爵をしっているか?ナキリシス神聖王国の領主を」


正直知らなかったベルゼだったが、話を早めるためになんとなくはとこたえた。


「詰まるところ、いずれパメラさんがその御家に嫁ぐということですよね?そういった事情も知らず軽率な行動をしてしまい、申し訳ありません」


再びそう頭を下げるベルゼ。

内心。

それならそうで早く言っておけよと思うベルゼだった。この家が乗っ取れない以上、ベルゼはパメラにこれっぽちも興味がなかったから。大体にしてそんなに心配なら今日のような感じでさっさとパメラに楔を打てばよかったのだ。


「うむ。ちゃんとわかっているようだから、今回は許してやろう」


どう考えても俺は悪くないけどなと思うベルゼだったが、そういえば使用人なんてこんな理不尽なことを受けるのも当たり前かとも思った。


「お父さん、私…」


「大方は俺が折れてやるがこの話は絶対に断らないぞ。こんな小さい農村の娘に伯爵家との婚約話なんて二度とこないだろうからな。それにお前もその方が贅沢できて良いだろう?」


何か言いかけたパメラにまたしてもそう遮るアレフ。


「…!!?お父さんなんて大っ嫌い!!!」


パメラはそう大声を上げ、がんと立ち上がり出てってしまった。

元々パメラに興味がなかったベルゼは特に心配するでもなく、これで当面は追い出されることもないだろうし、パメラからも距離を置けるなーとぼんやり考えいた。

考えていたら。


「…何をしているんだ?さっさと追いかけろ!女の夜道は危険なんだ!ああ、慰めるのは良いが、手は出すなよ?」


いや、お前の娘なんだからお前が追いかけろと思ったし、そもそもお前とパメラの勝手な喧嘩じゃねーかとも思うベルゼだったが。


「…わかりました」


とパメラを追うベルゼだった。

使用人の立場は辛いものである。























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