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申し訳ありませんが、結婚してください  作者: 命知叶


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これから、二人で

本日二回目の投稿です。

こちらが最終話になります。


たくさんのアクセス、評価やブックマークありがとうございます!



「新しい飲食物というのは、なかなか受け入れられるまでが大変ですよね。何か大きなきっかけでもないとなかなか浸透していきません」

その言葉を聞いて、イズリーシュがはっとササライを見た。ササライは微笑みながら、ゆっくりと珈琲を飲んでいる。

メリッサはクリームのたっぷりのったケーキを食べてから珈琲を飲むと、目を輝かせた。

「わあ、イズリーシュ様、珈琲ってケーキととても合うように思います!」

イズリーシュはそう言われて自分も同じようにしてみた。確かに濃厚なケーキのコクと甘みを、珈琲がさっぱりとさせてくれる。これは合う。


「ササライ殿」

「はい、殿下」

「この飲み物が、帝国内で流行るとすればどのような経済効果が出るだろうか」

ササライはうんうんと頷きながらイズリーシュに言った。

「この珈琲の原材料になる豆が育つのが、カンメルのもっと東‥カンザンメル地方と同じような気候の土地なんですよ」

カンザンメル地方は、前領主が人身売買に手を染めていたことで領地召し上げとなった場所だ。その事件自体は二十年近く前なのだが、事件直後から領民の流出が止まらず、今は非常に人口も減少して荒れた土地になっていた。


ササライは自分の皿にもケーキをサーブしながら言葉を続けた。

「帝国の中に先駆けて、カンザンメル地方で珈琲豆を栽培するんです。最初は収穫して販売するまでは時間がかかるでしょう。帝国内である程度の収量が見込まれるまでは、外国からの輸入で珈琲を定着させていただきたい。‥カンザンメル地方には、入植者を王都から優先的に募ればある程度は集まると思います」

イズリーシュは真っ直ぐにササライを見た。自分がずっと懸案にしていたカンメル地区の治安の悪さを、ササライも気にかけていたのだろう。


カンザンメル地方への入植の条件を珈琲豆の栽培を条件にして、最初は課税も押さえる。組合を作らせ、定期的な収量になるまでは他の産業も兼ねさせてもいい。そうすれば、カンメル地区でくすぶっている貧困層も、入植しやすくなる。

搾取、利用の対象である貧困層が減れば、悪事を行っているカルテルの力も削がれていくに違いない。


そして珈琲豆を流行らせるいいきっかけとなる行事が、近々帝国では、ある。


「メリッサ」「はい」

「あなたに頼みたいことがある」

メリッサはふふっと微笑んだ。

「はい。‥私がこれから主催するお茶会では、珈琲を出すことに致します。‥ササライさん、いい輸入先をご存じでしたらあとで教えてくださいね」

「はい!ぼくが何度か買ったことのある隊商会を紹介しますね!」

ササライはそういうと大きく口を開けてぱくりとケーキにかぶりついた。

イズリーシュはササライに言った。

「成婚式典での返礼品には珈琲を出そう。式典での飲み物にも加えようと思う。‥ササライ殿、あなたのご提案で私の懸案が解決できそうだ。本当にありがとう」


ササライはもぐもぐとケーキを咀嚼して飲み込んだ。イズリーシュには返事をせず、メリッサの方を向いた。

「メリッサさん」

「はい」

メリッサもカップを置いてササライに向き直る。

「もう、平民の女の子の顔じゃなくなりましたね」

「え、ええ!?そう、ですか?‥自分では、あまりそんなふうに思わないんですけど‥」

「しっかりと、皇太子殿下の婚約者の顔になってますよ」

ササライは力強くそう請け合った。


イズリーシュもササライに向けて姿勢を正した。

「あなたと、メリッサのお陰で、私は自分の未熟さに向き合えることができました。‥メリッサの人生を、大きく変えてしまったことは、もうどうしようもできませんし‥メリッサと離れて生きることも、考えられない。ですが、これからメリッサを尊重し、二人で幸せな家庭を築きたいと思います。‥‥いずれ皇帝となったとしても、ササライ殿にも助言をお願いしてできうる限り、よき為政者になりたいと思っています」


真剣にそう語るイズリーシュをちらりと見て、ササライは珈琲を飲んだ。

「よき為政者、とはふわふわした言葉ですね。よい、という基準は人によって違うと思いますが。どういった皇帝になりたいのか、ご自分ではっきりとお決めになった方がいいですよ」


突き放すようなササライの物言いに、イズリーシュは顎に手を添えて少し考えこんだ。メリッサはややはらはらしながらイズリーシュを見つめている。

すると、イズリーシュが顔を上げてメリッサを見た。

「メリッサは、どんな皇帝が、『よい皇帝』だと思うか?」

突然の質問に、メリッサはどきどきしながらも一生懸命に考えてから答えた。


「難しいことは、まだ私にはわかりませんが‥毎日ちゃんとご飯が食べられて、病気になった時お金の心配をせずにいられたら嬉しいです。えっと、あとは‥悪いことをした人はちゃんと処罰されるようになってほしいです。力のある人は警邏隊に逮捕されなかったりしてたので」

イズリーシュは瞬時に表情を険しくした。

「そんなことがあるのか」

「う~ん、やっぱり貴族の方とか、大商人とかだとお目こぼしされてる場合がありましたね‥あ、あと、もっと勉強の機会があると嬉しいです!平民だとなかなか上級学問は修められないですから」


メリッサの言葉を受けて、イズリーシュは呟いた。

「最低限の衣食住の担保、法令の末端までの遵守、身分による不平等の解消‥‥それに勉学の機会の付与‥これは埋もれた人材の発掘にもつながるな‥」

イズリーシュはメリッサに微笑んでから、またササライの方に向き直った。


「私には素晴らしい妃がいるから、『よき皇帝』の姿には迷わなくてよさそうです」


ササライは穏やかな、慈愛にあふれた表情で笑った。


「その結果、殿下がどのような皇帝になれたかは‥まあ殿下が亡くなった後くらいにわかるでしょうね。このササライが、無駄に長い命で見守っておきますよ」




一年後、アイシュタルカ帝国の皇太子イズリーシュ=アイシュタル=ハンザとメリッサ=ロントの成婚式典が華やかに執り行われた。平民出身の皇太子妃は人気が高く、二人は身分差を感じさせない睦まじさであったという。

後に四人の子宝に恵まれた夫妻は、より一層帝国の発展と安寧に心を砕いたと語り継がれている。



お読みくださってありがとうございます。


思ったよりもまた長くなってしまいました。ササライのくだりは、個人的に書いているのが楽しかったです。本当はもう少し、貴族や政治のどろどろ書いてみたかったんですが、冗漫になってしまいそうでやめました。そう言ったものを面白く表現できる方って、本当にすごいですよね‥。


このようなお話にお付き合いくださった皆様、ありがとうございました!よかったらリアクションや評価、感想などいただけると励みになって喜びます!お願い致します!

ちなみに、カハータ訛りは、作者も故郷を離れて長いので‥現地の方が不自然に感じられていたらすみません‥見逃してやってください。

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