表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
申し訳ありませんが、結婚してください  作者: 命知叶


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/41

対処


そのすぐ後に大きな足音が響き、部屋に人が何人か入ってきた。メリッサは痛みに思わず顔をしかめそうになったが、そうすると余計に痛んだ。左手で何とか身体を支え、右手でそっと顔を探ってみればぬるりとした感触が伝わってきた。

(あ、鼻とか‥折れた?)

「メリッサ様!!」

メリッサの顔から滴る血に、リッチェが今まで聞いたことのないような悲鳴をあげた。ずきずきと痛む顔の、どこを押さえればいいのかわからないままメリッサは言った。

「リッチェさん、大丈夫です、多分鼻が‥」

ちょっと折れたかも、と言いかけた時、身体をぐわっと抱えられて心底驚いた。

額も強く打ったのか、左目がうまく開かない。右目を瞬きさせながら自分を抱え上げた人物を見上げれば、眉を寄せ怒りに震えるイズリーシュの顔があった。


殿下って怒っててもすっごく顔が綺麗だなあ、と気の抜けたことを考えていると、イズリーシュはそのままメリッサを寝室へと運び込み、大きな寝台の上にそっと横たえた。

そして自分のハンカチをメリッサの顔にそっと当ててくれた。

「‥‥メリッサ、すぐに医師を呼びます。横向きになって‥そう、それでいい。そのままここでじっとしていてください。‥リッチェ!メリッサの傍に。マリサ、メリッサの顔を拭う湯を用意して。アンザー!皇宮医務室に走れ!」


イズリーシュはきびきびと指示を出して、もう一度メリッサの方を見て少ししゃがんだ。今かなり見っともない姿をしているから見ないでほしいな‥というメリッサの願いは聞き届けられないようだ。イズリーシュは、いたわしげな顔をしてそっとメリッサの肩を撫でた。

「私の‥私の不注意でこんな目に遭わせてしまって‥申し訳ない。顔、に‥怪我を負わせる、など‥」


イズリーシュはそう呻くように言うと、うなだれて歯を食いしばった。メリッサは、流れ出る血をハンカチで拭いながら懸命に話した。

「れんふぁ、らいじょうぶれふ、おひになさ‥」

「いい、メリッサ無理に話すな。すぐに医師が来るから。ここで安静にしているようにね。‥リッチェ」


リッチェはイズリーシュの横で目を赤くして控えている。その手には丸い、水晶玉のようなものが握られていた。

「殿下、すべての事の次第はこちらに」

そう言って差し出されたものを握りしめ、イズリーシュは頷いた。そしてもう一度、横たわっているメリッサの頭を撫でて寝室を出る。


表の部屋に戻れば、既にソルンが控えていた。

「あの者は」

「は、別室に移動させました。護衛騎士のほかに近衛もつけております。念のため、法務官も一人呼んでおります」

「上出来だ」

イズリーシュは短く答え、すぐにメリッサの部屋を出た。



程なくして駆けつけた医師によって手早くメリッサの治療がなされた。鼻の骨は折れてはいなかったが、粘膜が傷ついたために多く出血していたらしい。どちらかと言えば他の部分が重傷で、左の頬骨にはひびが入っているとのことだった。その報告を聞いた時、気丈なリッチェが膝から崩れ落ちた。

「メ‥メリッサ、様‥申し訳も‥」

「そんな、リッチェさんのせいでは」

「メリッサ様、あまりお話しになりませんように」

医師に軽く止められて、メリッサは口をつぐんだ。他にも顔にいくつか擦過傷ができていることや、左目上の額部分も少し切れてしまっているのでもうすぐ来るはずの魔法力治療師に治療してもらうことなどを説明される。

魔法力による治療などは、よほど裕福なものか高位貴族でなければ受けることなどない。メリッサはかえって緊張が高まるのを感じた。

(そんなに大した怪我でもない気がするけど‥私なんかのために来てもらっていいのかな?)

内心不安に思ったが、顔色を真っ青にしているリッチェや、先ほどのイズリーシュの様子などを考えれば、ここは黙って言われるがままにしておく方がいいだろうと自分を納得させる。

それにしても、家に帰るチャンスだった気がするのに。

(‥‥もっと早く、あの方が帰れって言ってくれてたらなあ‥)

メリッサは、医師とリッチェが何やら話をしている横で、ぼんやりとそんなことを考えていた。



「タシーナ=セロレーン」

敬称もなく呼び捨てられたセロレーン夫人は、驚きと怒りで年若い甥を睨んだ。この甥は、いつも穏やかで人当たりがよかったので、セロレーン夫人のお気に入りだった。無論、皇帝陛下に似た美貌も気に入っている。タシーナは今になっても皇帝陛下への横恋慕がやめられていなかった。

だが、いつも穏やかに微笑んでいる甥がこの上なく厳しい顔で自分を見据えている。その視線の鋭さに、一瞬セロレーン夫人の怒りの感情が怯んだ。だが、すぐに噛みつき返してやる。

「イズリーシュ、伯母を呼び捨てるとは何事なの?しかもこんなところに無理に連れてくるとは‥」

「黙れ」

低い声でイズリーシュが甲高く耳障りな声を遮った。

「発言を許した覚えはない」

セロレーン夫人の口元がひくひくと震える。見たことのない甥の怒りに怯む気持ちと、自分が不当に扱われている事への不満が、セロレーン夫人の中で拮抗しているのだ。

「お前の皇宮法令違反を今から申し渡す」

「何ですって?!私は何も違反などしていないわよ!何を言っているのイズリーシュ!」

「‥煩い。口を塞げ」

イズリーシュが氷のように冷えた声で近衛兵に命じた。近衛兵は、罪人に噛ませる鋼鉄製の猿轡を持ってきて無理やりセロレーン夫人の顔に嵌めた。

「ン、ンンー!ンン!」

この扱いにセロレーン夫人は全身で抵抗したので、両脇から近衛兵によって押さえつけられた。

「法務官、申し渡せ」

イズリーシュに促された法務官が、手元にまとめた紙を見ながら言い始める。


「ほとんどが不敬罪ですな。まずは、皇太子殿下を敬称なしでお呼びしたこと数回、皇太子殿下の命令を無視してメリッサ様の部屋に入ったこと、これは不法侵入にもあたります。それから勝手にメリッサ様を東宮から追い出そうとしたこと‥こちらは皇宮紊乱、皇帝令遵守違反、威力宮務妨害に当たります。一番は、殿下の婚約者候補たるメリッサ様への暴行傷害。これが最も重い罪になります‥‥ああ、今医師からの伝達が参りました」

書類を持参した文官が部屋に入ってきてそれを渡すと、法務官は眉を顰めた。

「これは‥‥医師の診立てでは全治二か月となっております。思いのほか重傷ですな」


全治二か月。

イズリーシュはぎりりと奥歯を噛みしめた。未だ目の前でうんうん煩い唸り声をあげているこの女を蹴り飛ばしたい、という不埒な欲求が胸の中を突き上げてくる。爪が食い込むほどこぶしを握りしめ、イズリーシュはじっと耐えた。

そのまましばらく心を落ち着かせ、一度目を閉じてから目の前の中年女性を見た。


「タシーナ=セロレーン。以上の罪をもってお前は投獄される。罪科は追って裁判ののち決められる。それまで牢で待つがいい。ああ、セロレーンを名乗れるのは今日までだ。セロレーン侯から離縁願いが提出されている。貰い手のないお前を善意で引き取ってくれたセロレーン侯に申し訳がない」

タシーナは目を瞠った。自分が、高貴な身分であるはずの自分がそんな目に遭うことがあるものか。妹である皇后がそんなことを許すわけがない。

そう考えたタシーナの胸の内を悟ったのか、イズリーシュがふっと鼻先で嗤った。

「母上のお気持ちを、お前は踏みにじりすぎた。もうお前を庇う必要はないと父上も仰せだ。ただの前伯爵令嬢タシーナ=リハンとなって裁決を待つがいい。厳しいものになろうがな」

連行せよ、と命じれば、近衛兵が力の抜けたセロレーン夫人‥前セロレーン夫人を引きずるように引っ立てて部屋を退出した。


残された部屋で、法務官が机に紙を置いて色々と書き込んでいる。その横に記録用の魔適具を置いた。

「法務官殿、こちらも証拠品として保全を頼む」

「承知致しました。‥まあ、思い上がりというのは始末に負えませんな。皇后陛下のご心痛を思えばやりきれない」

イズリーシュはぎろりと法務官を睨んだ。

「母上を思って罪科を軽くする必要はないぞ。父上も相当の罪科をお望みだからな」

「はい、それはもう、法令に則って進めさせていただきます。ご安心ください」

「では頼む」

イズリーシュはそう言い置いて部屋を出た。そしてメリッサの部屋へと向かった。



皇宮に勤めているような人々より、平民のメリッサの方が怪我などに慣れているのでメリッサ自身はそこまで大事に捉えていません。ちょっとギャップがありますね。


お読みくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ