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猫と砂利 3話最終話

 昨日から足音は外でしか聞こえなくなった。外の足音は大抵猫だ。数年前、外から赤ん坊の声が聞こえると思って、怖がってな眠れなかった日があった。でも、寝ぼけながらその声をよく聞いてみると、それは猫の鳴き声だった。猫が他の猫と喧嘩している時の声。それが家の中では赤ん坊が泣いているような声に聞こえていたんだ。あれを発見した時には1人だったけど笑った。潜在的に自分が怖いと思っているだけだったから。

 まさに幽霊の正体見たりや枯れ尾花。

 怖いと思っているものはよく見るととてもくだらないものだと言うことだ。

 はあ、怖がって損をした。

 この日は久しぶりに畑に出た。趣味で季節の野菜を狭い範囲だけと作っている。するとそこへ、見たこともないミケの猫が近づいてきていた。首輪を付けていない猫。

 こいつ人間慣れしているな。さては誰かの飼い猫だな。この辺で猫を飼っているのは1軒。だけど、愛猫家だから、外へはゲージ以外では出さなかったはず。それに、色は白だった記憶が。どこかの誰かに捨てられた野良猫か。この辺では野良猫が多いから、何も不思議ではない。知らない誰かが野良猫に竹輪を与えていて一時期市を巻き込んだ問題にもなっていたな。こいつもその類のやつだな。僕に餌を求めにきたな。猫には悪いが、今は食べれそうなものを持っていない。取ったばかりの野菜はあげたくないし、畝間に生えている麦でも食べててくれ。

 この時の僕は猫が来たことに興奮していてあることを忘れていた。そのことを思い出したのは、夕ご飯を食べた後だった。

 いくら砂利の上だったとはいえ、猫が歩いたくらいでは砂利は音を立てることはなかったのだ。普段は車が出入りしているから、砂利でも相当固められている砂利だから。

 この間まで聞いていた砂利の足音はなんだったのか。泥棒がこんなボロ屋を狙うとも思えない。他に思い当たるものはない。幽霊を除いて。

 そんなことはないと言い聞かせながらこの日も眠りについた。そして、また昨日と同じ夢を見た。見知らぬ女性に「中野さんの家に行きたくて」と話しかけられる。今日に限って続きを見た。

 僕が「知りません」と答えると、「そうですか」と笑顔を見せるが、場を離れて振り返ると鬼の形相でこちらを睨んでいるというもの。怖すぎて息を乱しながら目覚めると、目覚ましが鳴る5分前だった。

 足音が聞こえなくなったら、今度は悪夢の番か。いい加減平穏な日常に戻りたいんだが。いつからこんなことになってしまったんだろうか。夜中に目が覚めてしまった時からだな。夜中に目が覚めなかったいいのに。睡眠のリズムが崩れてしまっているのか。1度夜中に起きたくらいで。矯正には時間がかかると言うのに。

 そう思いながらも日常を取り戻すために23時に眠るのは続けた。

 そんなある日のこと。また久しぶりに夜中の1時半に目を覚ましたのだった。

 ここ最近は悪夢ばかりで目が覚めることはなかったのに、なんで今日に限って。

 いずれ眠れるだろうと目を瞑ってじっと待っていると、また砂利を歩く足音が聞こえてきたのだった。

 音は聞こえるけど、聞こえないことにしようと無視をしていると、今度は廊下で足音が聞こえだしたのだった。またしても廊下の足音は僕の部屋とリビングを往復している。音の全てを聞きたくなくて、僕は頭の上まで布団を被った。薄い布団だったけどしないよりはマシだった。

 すると、足音は突然止んだのだった。今までのは幻聴だったのかと思って、布団から顔を出すと。頭の上から誰かに顔面を掴まれたのだった。僕は部屋の角で寝ていると言うのに。

 必死に足掻いて顔に被さっている手をどけようとするも動かず。顎を掴まれているから口を開くことさえできず。身体を暴れさせることしかできなかった。

 格闘は10秒くらいだった。時間が経つと、手の力が弱まってどうにか払うことに成功した。

 初めての経験だって、全身には汗をかいて、息も荒くて心臓も激しく動いていた。

 こんなことがあったのに呑気に眠っていられない。

 電気を1番の明るさで付けて、次同じことが起きた時は何かしらの対応ができるように、スマホを手に持って、壁にもたれていた。

 とりあえず落ち着くまではこのままで。

 僕の頭まわりにには顔に被さるような何かは落ちていない。頭の上も壁で、枕を壁に合わせていつも寝ているから、壁を貫通しない限りは人の手を持ってくることは不可能だ。顔の大きさと手の大きさは比例していることが多い。つまり僕くらいの大きさの人物ってことになる。この家にいるのであれば、父が当てはまるが、壁の向こう側から手を伸ばすことは不可能だ。にわかには信じたくないけど、幽霊以外そんなことをできるものはいない。

 この日はこのまま眠れずに朝を迎えた。

 部屋から廊下に出るのが何よりも怖かったが、窓を開けて電気を付けて、部屋に置いてあった効果があるかわからないお札を手に廊下を歩いた。背中から襲われると怖いから、背中を壁に擦らせながら。

 僕の朝のルーティンは歯磨きからだ。口の中の雑菌を体内に入れないためにここ最近始めている。

 何も思うことなく鏡の前に立つと。顔と首に引っ掻かれたような跡がついていた。黒く大きな痕だった。だが、瞬きをした途端に、その痕は初めからなかったかのように姿を消したのだった。

 これ以降、僕は足音を聞くことは無くなった。

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