変化の兆し
あの日以降、速水さんとは気まずくなってしまってあわないようにしていた。
彼もあまり気にしていなかった、ように見えた。
その日は、図書室で勉強していて。
帰りがいつもより遅くなってしまった。
図書室にはもう誰もいない。
とても、静かだった。
「ねぇ」
帰宅の準備をしてる時、突然後ろから声をかけられた。
「しずくちゃん」
私の名前を呼んでくれる人なんて、この学校には1人しかいない。
「速水さん……」
後ろも見ずに、呟いた。
「俺のこと避けてる?」
避けてます、なんて言えるわけもなく。
ただ、黙っていた。
「俺は……俺はあのことを誰かにバラしたりなんてしない。言った通り、僕はその力がとてもすごいことだと思う。………それだけ。言っておきたかったんだ」
ただそれだけのことを…伝えるためにこんな遅くまで?
信じられるわけない。
でも。
信じられるの?
わからない。
裏切られたら。
一度信じて裏切られた方が、信じずに裏切られるより辛い。
「………速水、さんはなんで…私に構うんですか?」
ずっと気になっていた。
こんな暗い私に何故構うのか。
この力を知っても話しかけてくるのか。
「全員と仲良くしないといけないからですか…?」
うまく言葉が出ない、けれど、これだけは言いたい。
「理由は…知りませんが、私を巻き込まないでください。関わりたく……ないんです」
半分は本当。
半分は嘘。
友達ができたのは嬉しかった。
速水さんと過ごしていてとても楽しかった。
けれど、私は知ってる。
私が裏で陰口を言われてることくらい。
それを、速水さんが辞めさせようとしていたことくらい。
私と一緒にいると速水さんまで悪く言われるかもしれない。
「最初は、そうだったよ。全員と仲良くならなきゃいけなかったから、君に声をかけた。けど、途中からは君と一緒にいるとすごく楽しかった。本当の友達のようだった。でも…巻き込まれたと君が思っていたなんて知らなくて。ごめん。」
速水さんは、いつも引っかかる言い方をする。
全員と仲良くならなきゃいけない。
誰かに決められたように言う。
全部、速水さんの意思でやってると思ってた。
でも、違うの?
何故?
何故か、なんて聞いてもいいのだろうか。
でも、関わらないでと言ったばかりだし。
聞きたい。
「答えたくないなら、答えなくていいんですけど………誰かに、言われてるんですか?速水さんが、完璧にこだわるのは、その誰かのせいですか?」
速水さんは何も言わなかった。
私は、何も言えなかった。
聞いちゃいけないことを聞いてしまったようで。
「それを話すのは、僕の父さんの生まれから話さなきゃ難しいと思うんだけど、それでも聞く?」
私は、黙って首を縦に振った。