一歩、踏み出せ
高校生活。
勉強面はきっと大丈夫だろう。
部活や委員会には強制でなければ入る気はないし。
一番心配なのは人間関係だ。
家族以外とは関わらないようにしていたし。
そもそも家族とも目を合わせられないのだ。
目を合わせると嫌でも目に入る、数字が見えるから。
それに、大好きな親が死ぬ瞬間なんて死んでも見たくない。
大丈夫。
きっと今日はレクリエーションくらいだろう。
クラスはもうわかってるから、自己紹介とかをするんだろうか。
自己紹介。
私はこれが苦手だ。
とてもとても、苦手だ。
人付き合いが得意な方でもないし、自己紹介ではよく失敗する。
噛んでしまったり、声が小さくて聞こえないと言われたり。
前髪が長く顔が隠れるので、暗い子という印象を抱かれることが多かった。
1日は早く過ぎた。
なんやかんやと時が過ぎ、気づけば教室で自己紹介タイムが始まっていた。
今やってる人が終われば、私の番。
何を話せばいいんだろう。
名前と…中学校、あとは…趣味とか…?
「えーと、俺は速水律っす!クラスメイト全員と仲良くなりたいと思ってます!よろしく!」
終わった…。
次は私の番だ。
前の人みたく明るく元気にはやれないけど…。
「え…と、ゆ、雪野しずく…です。よ、よろしくお願い…しましゅ…。します…。」
噛んでしまった…。
特に何も言えなかったし!
ただの根暗だと思われただろうなぁ…。
「ねね、しずくさん…だよね?席近いし、仲良くしよ!」
前に座ってる明るい元気ないい人…。
顔を見ないように。
「あ…えと…、よろしく…です…」
嫌な印象を与えてしまっただろうか。
「あ、俺のこと苦手だった?ごめんね」
苦手ではないけど…あまり話しかけてほしくはないかもしれない。
「あの…あんまり私と親しくしない方がいいと思います…」
………沈黙。
すごく気まずいのだけれど…なにかしてしまったのだろうか。
「……なんで?俺、嫌なことしたかな…。嫌わないでくれたら嬉しいんだけど…」
少し焦ったような態度の彼。
自己紹介の時に全員と仲良くしたい、と言っていたし完璧主義者なんだろうか。
何か言い訳を考えなきゃ…。
「あなたは…明るい人だから、私暗いし…」
……また沈黙。
優しげな微笑を浮かべて、彼は言った。
「ま、仲良くしたいなーって思ったら言って?無理強いはする気ないからさ」
優しい人。
ありがとう、ごめんなさいと言おうとして、つい顔を上げてしまった。
声をかけてもらえて、嬉しかったのかもしれない。
つい、気を緩ませてしまっていたのかもしれない。
一瞬、ほんの一瞬だったが、彼の数字がはっきり見えた。
〇〇年、×月、〇日、〇〇時、◯分。
不幸にも、その数字は翌日の午後を示していた。
死に方はわからない。
それを知るためにはもう一度、彼を見ないと。
でも、これがバレたらまたいじめられるかもしれない。
そうなったら、父と母を『また』悲しませてしまうだろう。
でも、両親は喜ぶだろうか。
私が自分可愛さで人を見殺しにしたと知ったら、両親はその方が悲しむだろう。
私が、速水さんを守るしかない。
でも、どうやって?
これがバレなくて速水さんも助けられる方法なんて…。
あれなら、あの方法なら。
バレないで、助けられるかもしれない。
一か八かだ。
「は、速水……さん」
太陽のように輝く笑顔を浮かべ、彼は私を見た。
「何?どした?」
何を話せばいいだろう。
呼んだはいいものの、言葉が、声が出てこない。
あと3秒。
「え…と、」
あと1秒。
「ん?」
見えた。
高校の近くの横断歩道。
男子と喋りながら渡っている速水さん。
信号は青だ。
もちろん車の信号は赤。
なのに、止まる気配のない車が近づいてくる。
電話、運転手は電話をしているのか。
車が何かにぶつかる音。
急ブレーキ音。
血にまみれている速水くんと男子。
一緒にいた男子も怪我をしているみたいだ。
ああ、なんの因果か。
この人も柚ちゃんと同じ死に方をするのか。
罪悪感と責任が心にのしかかる。
「わ、私と…友達にな、なりませんかっ…?」
勢い任せに出した言葉。
片生が相手は変だろうと思ったのだけれど…。
言ったら言ったで変になってしまった。
「……いいよ?」
もちろん!と言ってくれる速水さん。
この人はどこまで優しいのだろう。
私みたいなのとも仲良くなってくれるなんて。
「そ、そのかわり…明日、私と帰りませんか…?」
タイミング…!
絶対今じゃなかった…!
それに、その代わりって何…!
交換条件みたいに言うなんて最悪…。
印象絶対悪い…。
「いいけど…いきなりだね」
笑みを隠しきれなかったのか、口元に手を当て彼は楽しそうに笑っていた。
この人は絶対に守らなきゃいけない人だ。
私の心の何かが、そう告げていた。
どうやって、守ればいいんだろう。
それだけで、頭がいっぱいだった私は彼の表情が少し、かげったのに気づかなかった。




