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黒姫物語  作者: 中安叶子
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家に帰ると、家の周りにはやはり兵士がいた。

馬を降りてすぐ、何人かが寄ってきた。

「男の魔法使いの居場所を知りませんか」

 ケイラはゆっくり首を振る。

そのまま中へ入ろうとする背中に兵士が声をかける。

「しばらくこの辺りを見張らせてもらいますので」

 居間は明かりがついていて、ブブが机の上にどっしりと座っていた。

「大丈夫だったか」

 ケイラはそのまま自分の部屋に入ろうかとも思ったが、ブブの一声でそばの椅子に座ることにした。

「すまない。マーリンはここには帰ってこれない」

 ブブもそうか、と言ったきり何も追究してこなかった。

「安心しろ。ここには俺がいるからな」

 得意げに言うと伸びをして、体を丸めて眠りについた。

 ケイラは明かりを消すと仮面を取り、椅子にうずくまって静かに涙を流した。


 

 それからしばらくは、一人と一匹は肩身の狭い暮らしだった。

 街に出るにも毎回兵士らに疑われる。

 しまいにはケイラもブブも外に出ることを諦めた。退屈な日々ばかりだった。

 ただ、ケイラの心も安定しつつあった。

 いろいろ悩んだすえに強くならなければと、決めたのだった。

 そんなある日、家の窓を叩く音がした。

 叩くといっても小石が当たる程度のかわいらしい音であり、木の板を外すと白いハトが二羽、外の木にとまっていた。

 ブブが相手をして、しばらく猫とハトの鳴き声が続いた。

 ケイラはその様子がおかしくてふっと笑う。

 ブブが窓を離れるのと同時にハトも飛び立った。

「あいつら、ケイラにお願いがあるんだってよ。なんでも、かわいそうな女の子を助けてほしいそうだ。住んでる場所は聞いたから、気が向いたら見に行ってやってくれよ」

 ハトが頼むこととしては滑稽で、ケイラは感心して頷いた。

「わかった。行ってみよう」

 ケイラが家を出る支度を始めたとき、今度は扉をノックする音が聞こえた。

 なんだろうと、ケイラとブブは顔を見合わせる。

 急いで仮面をつける。

 扉の向こうには、兵士が三人いた。

 あのときと一緒だ、とケイラはどきりとした。

「魔法使いのケイラ様にお願いがあります。密令ですので、このまま城へご同行願えますか」

 ケイラは断ろうとも思ったが、ついでだと思って承諾した。

 帰りに馬車で寄ってもらった方が早いだろうと考えたのだ。

「行ってくる」とブブに一声かけると、兵士らについて馬車に乗った。

 

 城は落ち着きを取り戻していて、見張りも掃除婦もいつもと変わらず働いていた。

 ケイラもできるだけ冷静に努めるが、どこかでマーリンがひょっこり現れる気がして仕方なかった。

 

 案内された部屋は王室の隣だった。

 今は王室は閉ざされ鍵がかけられていた。

 誰が待っているのだろうといぶかる。この階はだいぶ上の位の親族しか住めないはずだ。

 その部屋で待っていたのは白ひげをはやしたおじいさん、名をセオンと言った。

 机をはさみ面と向かって座った。

「城まで出向いていただき、感謝いたします」

 セオンは丁寧に礼を述べた。つられて少し頭を下げる。

「アーク王が亡くなられたのはご存知でしょうか。王の息子は若くして戦死し、今現在の王の直径の血筋は、もうシャン様しかおりません」

 アーク王も同じようなことを言っていたと、ケイラはふと思い出した。

 それほど跡継ぎに深刻なのだろうか。

「シャン様はご病気にかかられております。医師からはもう治らないとまで。ご病気というより、呪いと言った方が良いかもしれません」

 ケイラはごくりと唾を飲んだ。何も知らない間に、城ではいろいろなことが起きすぎている。

「魔法の力と言うのは、幻を見せるものだと学びました。完全にお救いすることはできなくとも、せめて、民衆の前に出られるようにしてさしあげたいのです」

セオンの意図がわからなかったが、王子に会うのだと思うと興味がわいた。

「すると私は何をすればよいのですか」

「きっとシャン様に会えばわかります」

 セオンはそれ以上何も話さなかった。

「あちらです」と奥のもう一つの部屋へケイラを導く。

 ケイラはドアの前まで来ると、深呼吸をしてしっかりとノックした。

「どうぞ」と中から男の人の声がした。

「失礼します」

 ケイラは大きく鳴る鼓動を感じながら、それを抑えようとわざとゆっくり動いた。

 

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