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戯曲 トルーデン  作者: 岩﨑大翔
3/11

第一幕 第三場 父と母と、トルーデンの思惑

第一幕 第三場

 

 3

 十数日前

 大広間 テルダールとテリーヌ、トルーデンが長い机を囲んで朝食についている。

 

 

 テルダール

トルーデン、そなた朝からそわそわしてはおらぬか?

 トルーデン

いや、お父上。今日は久しく足を上げていなかったこともあって城下の西方に伺おうと考えております。私ももう良い頃合いにございます。世間に顔が知られる機会も指折り叶わぬほどに増えました。これを最後に出てみようと思うのです。

 テルダール

うーむ。いや、近頃は物騒でな。なに、行くのなら警護はつけさせよう。しかしだな、数日前の豪雨、バケツを四、五度ほどひっくり返したようなものであった。そなたも知っておろうがあれによって、これが何の怒りであろうか見当もつかぬものだが東を流れる大河川が溢れてしまったのだ。堤防高く聳えこれは安全、と。いやいやこれが慢心であった。いや人はちっぽけな、ちっぽけだからこそか、慢心が心の隅に根付くのだ。空を仰いで気力を得る者もいれば、こんな大きな体だのにあの小さな鳥のように飛べるわけもないのはと、嘆き気力を集られる者もいる。すこし横道に逸れたがそれによって今し方世間は荒天の兆しを見せておるのだ。おそらく先例に倣い暫くは税金を上げざるを得なくなる。これは民衆とて容易に計り知れること。そなたの素性が知られれば何をされるか判らぬ。今は控えるべきであろう。

 トルーデン

いやそこまでの思慮は若年とて一国の息、そして貴方の息子でもある。予想はできております。

 テルダール

して、では何故自らそのような場所に飛び込みたいと。

 トルーデン

そのような時分だからこそ如何に民衆が生きるのか、この眼でしかと確認したいのでございます。

 テルダール

だめだ、今はよすのだ。一国の息であるならば尚のことだ。そなたのかすり傷は国の打撲、そなたの捻挫は国の骨折とも異わぬのだぞ。

 テリーヌ

お二人ともおやめになって、あんまり耳がつんざかれてしまいそう。貴方、貴方の仰る通りなら、喧嘩は国の分裂になるんではなくて?

 テルダール

それもそうだな。上手いことを言う。とにかくトルーデン、時節をわきまえよ。これは心配ばかりの忠言ではないぞ、王からの命と弁えよ。

 

テリーヌはテルダールに見えない側の瞳をトルーデンに瞬かせ、一つ咳払う。それを合図にトルーデンが立ち上がる。

 

 トルーデン

自室に戻ります。それでは、良い一日を。また後ほど。

  

 (トルーデン退場)

 

 テリーヌが席を立ち、テリダールの席の側に立つ。 


 テルダール

テリーヌ、そなた何か合図をしたのだろう?私は心配ゆえあのように。いや、いくら街を踏もうとしかし蛙は大海を見ることはあるまい。それに、、、

 テリーヌ

貴方、蛙ですって?それはあんまりよ

 テルダール

いや冗談だ。わかっておくれ。

 テリーヌ

わかった上で言っているわ。貴方誰を妃に持っているかお判りでしょう?冗談も川流れのままでなければあんまりだわ。それに心配ばかりでないとおっしゃっていたけれど貴方、トルーデンはきっと心配はいらないわ。

 テルダール

何故だ?

 テリーヌ

体は貴方から頭脳は私から。民衆の知る世の理よ。

 テルダール

ふん、よく物を申す。妃でなかったら憤慨しているかも判らぬぞ?なら心配の外側もそなたにはその先まで判っていると?

 テリーヌ

ええ勿論よ。ね貴方、愛しているわ。私の方を見て?

 

 テリーヌがテルダールにもたれかかると、今度はテルダールから熱い抱擁を交わす。

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