第1章 〜厳格な円〜
小さな頃の夢というもの。
誰しもが1度は馬鹿げた、かつ壮大な夢を見るものである。手首から糸の出るおちゃらけたヒーローになりたいだの、この国の一番偉い人になりたいだの、皆一様に夢を描いては見るものの、歳をとるにつれてそれを馬鹿げていることと思い込み、自分を偽り、家族のため朝から晩まで書類を作る。
もちろん私はこのような方々を馬鹿にしているつもりなど毛頭ない。寧ろそのような生き方こそが一般的であろう。そういった意味では私はそんな夢を捨てきれず大きくなってしまった、「一般的」とはとても呼ぶことの出来ない大馬鹿野郎なのであろう(事実そのような言葉は雨のように浴びてきたが)。
これより綴るのは、そんな宇宙に魅せられた大馬鹿野郎が700万年間誰もなし得なかった月を踏む物語だ。
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私はU国の田舎とも都会とも呼べるような、そんな街で産まれた。雄大な自然と、人が作り上げた文化が計算し尽くされたかのように混ざり合うこの街が私は大好きだった。
ある満月の夜のことだった。パズルの大好きだった私は、昼も夜もなくパズルの魅力に取り憑かれていた。パズルほど美しいものはこの世界には無いとまで感じていた。何一つ無駄は許されず、厳格に、丁寧に世界を完成させる。うんうんと頭を捻りながらあれこれと考えているとベランダの方から母が私を呼んでいた。
自分の頭の中の世界は音を立てて崩れ、秩序は崩壊し、黒だけが頭の中を支配する。と、言うのは遊びを邪魔された幼児ならばそうなるかもしれない。しかし私はもう13だ。ボーイスカウトの最高位も来年受賞する予定だ。感情のコントロールは得意な方だ。
私は作りかけのパズルを足で蹴りあげ、ペットショップで甲高い声で鳴くオウムを彷彿しながら懇親の力を踵にこめて床を踏みつけながら母の元に向かった。
「見てごらん!今日は満月よ!スーパームーンと言うものらしいわ。TVで言っていたの。」
「ちょっと待ってくれ母さん。そのスーパーボウルとかいうムキムキの全力疾走を見せるためにわざわざ僕を読んだのかい?」
「何を言っているの?お母さんアメフトの話してんじゃないのよ。月よ月!」
「なんだってこんな年になっt...」
この時、パズル何かでは感じたことのなかった熱狂が私を襲っていた。
眼前に広がるは黄色く大きな丸。一度も考えたことがなかった。パズルしかして来なかったせいで上を見上げたことがなかった。こんなにも近くに厳格で、丁寧で、完璧な世界が広がっていたのか。いや、違う。近くなんかありゃしない。今や人に出来ないことなどタイムスリップくらいなものだと思っていたが、この700万年間皆が思い描き、なし得なかったことでは無いか。
「母さん。僕は月に行く。」
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