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冷甘メイドの怪奇図書  作者: 要 九十九
第一章「最初の一冊」
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第9話「拳銃と質問」

「動くな!」

 静かな工事現場に、その声だけが木霊する。鷹見警部はカミラさんだけを注視していた。

「鷹み……」「君もだ!!」

 彼女は拳銃の向きは変えずに、近付こうとした俺を目線だけで制止させる。鷹見警部は、右手に拳銃を構え、それに添えるように、左手に持ったライトでこちらを照らしていた。そんなやり取りの間にも、銃口は真っ直ぐカミラさんに狙いを定めている。

「鷹見さん、少し待ってください! そもそも、何でこんな所にいるんですか?」

 彼女がどうする気か分からない以上、その場で動かずに話をするしかない……。

「君たちを2人を昼から張り込んでいた。屋敷から出て、ここまで来た時には何事かと思ったが……」

「じゃあずっと見てたって言うんですか?」

「あぁ……。工事現場に入って、中々出てこない君達を追いかけたら、得体の知れない何かに、君が襲われかけている所だった」

「…………」

 何とか誤魔化す方法はないかと考えるが、ここに来たタイミングが悪すぎた。

「それを助けようと近付いたら、彼女が……」

 後に続く言葉は分かるだろう、と言わんばかりに鷹見警部がこちらを見る。

「わたしもまさか、あんな光景が見れるとは、夢にも思わなかったよ」

 カミラさんを見るその目は、まるで、獲物を見付けた肉食獣のように輝いていた。あの女との戦いを終始見られていた以上、下手な言い訳は通用しそうにない。

「黙ってないで、いい加減何か言ったらどうだ?」

「……私は」

(俺に出来ることは何だ? どうにかして、銃を下ろさせて、話し合える状況は作れないか?)

 今まで、事態を静観していたカミラさんが口を開こうとする。

「待ってください! 彼女は……」

「何を待てと言うんだ? ()()が、わたしを八つ裂きにするのを待てとでも言うつもりか?」

「あれって、いくら何でもそんな言い方……」

 鷹見警部が誰の事をそう呼んだかは、彼女の目線が物語っていた。

「君も見てただろう? どう考えても、彼女は人間ではない」

「それは!」

 俺を助けようとした時も、女と戦っていた時も、カミラさんの動きは、明らかに人間を超越していた。彼女が本気を出せば、今は離れた位置にいる鷹見警部ですら、一瞬で制圧出来るのは間違いないだろう。

「……南様、大丈夫です」

 言葉に詰まる俺に、彼女が優しくそう言ってくる。誰がどう見ても、大丈夫じゃないのは明白だった。鷹見警部が、カミラさんをさっきの女と同じに捉えてるとしたら、言動次第では直ぐに撃たれてもおかしくはない。

「……貴女は何をお聞きになりたいのですか?」

「やっとその気になったか。わたしが聞きたいのは3つだ」

「……答えられる範囲であれば」

「この期に及んで、そんな返答か……まぁ、いい。まず、今朝起きた事件と、前回の事件、この2つの殺人を行ったのはあんたか?」

「……違います」

「そう言うと思ったよ。それなら、今朝の殺人。その死亡推定時刻前後、殺害現場付近の監視カメラにどうしてあんたが映ってたんだ?」

「えっ……?」

 カミラさんが今朝、事件現場の近くにいた?

「部下に優秀な奴がいてね。おかしな格好の奴が、付近の監視カメラに映っていないか、調べて置いて欲しいと頼んだら、ついさっき、新たに分かった被害者の死亡推定時刻と一緒に教えてくれたよ。メイド服を着た金髪の女が映っていたと」

 どうなってる? カミラさんはそんな所で何をしてたんだ? 名刺の事といい、今回の件といい、分からない事がどんどん増えていく。

「…………それは、そこに映っていたのは間違いなく私です」

「これは正直に認めるか……。なら、最後の質問だ」

(あれ……? 何か、鷹見警部……)

 今までとは打って変わって、とても苦しそうな顔をしながら、彼女が口を開く。

「5年前の6月11日、お前は何をしていた?」

 突然の質問に困惑する。5年前? 6月11日? 何の話をしてるんだ?

「……何の話ですか?」

 カミラさんもよく分かっていないように見えた。

「もういい。回りくどい聞き方は止めだ。お前が、おやっさん……いや、朱鷺田正一を5年前に殺したのか?」

 聞いたことのない名前……今朝と前回の事件と関係のある名前なのだろうか?

「答えろ」

 ただ一つ分かったのは、その人の話を辛そうに続ける鷹見警部にとって、質問の人物がとても大切な人だったという事だけだった……。

「……私ではありません。その名前も今日初めて聞きました」

「嘘をつくな! あんな動きを出来る存在がそうそういる訳がない。そうじゃなければ、わたしは……」

 鷹見警部が、そう呟きながら俯いた隙をついて俺は前に出た。

「……南様!?」

 拳銃を向けられたカミラさんを()()()()()……。

「何をしている?」

 鷹見警部は、構えた拳銃とカミラさんの間に突然割って入った俺を見て、目を白黒させている。

「鷹見さん、もう止めて下さい」

「自分が何をしているのか分かってるのか? 君はそいつと出会ってまだ数日なんだろう? それなのに、何でそんな行動が取れる?」

「俺にも分かりません……」

「なら、さっさとそこを退け!」

「無理です!」

「君は()()()()。彼女の何が君にそこまでさせる?」

「確かに俺はカミラさんと会ってまだ数日ですが……それでも、彼女が鷹見さんの言うような事をするとは到底思えません!」

「君も見てた筈だ。彼女は人間を超越してる……。それなのに、何で信頼できる?」

「見てたなら分かる筈です! カミラさんは俺を助けてくれました。俺にはそれだけで十分です。だからもう止めて下さい。信用出来ないと言うなら、怪奇と…………」

 喋っていたせいで、反応が一瞬遅れる。いつの間にか、カミラさんが俺の前に出ていた。

「……南様。すみません」

「えっ!?」

 混乱する俺を置いて、カミラさんが力強く一歩を踏み出す。

「カミラさん! 待って!」

 彼女を止める為に伸ばした俺の腕は、一気に加速したカミラさんを捉えられず、むなしく空を切る。

「なっ!?」

 カミラさんの肩越しに、突然の出来事に驚く鷹見警部が見えた。

(駄目だ! 待って!)

 その指は引き金に掛かり、自分に迫る脅威に向けて――――銃弾が発射される。


 静かな工事現場に、大きな銃声だけが響いた……。

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