Rap1229-タムラクン の 恋-6
Rap1229-タムラ先生夜間外来総合
Rap1229-タムラクン の 恋-6
その文字にいとおしさを感じながら、
しばらく見とれていた。
その文字をそっと上から優しくなぞる。
かすかに触れるか触れないかの感触で。
トーストはまだ暖かかった。
圭介が起きる時間はわかっていたのだろう。
タムラ先生は一人の患者をじっくりと診察していた。
その患者は青木彩 23歳。
この大学病院に、名刺を受付に差し出し、
そこで待っていると、一人の看護師がやって来た。
彼女の案内のままついて行くと、
一般外来とは少し離れた所にやって来た。
表札には“特別外来”と書いてあった。
勧められて、ドアをノックして中に入ると、
シャーカステンを背にしてタムラ先生がいすに座っていた。
青木彩はかなりびっくりした。
まさか、そこにタムラ先生が座っていることに!
彩の予想では、かなり年配の髭を生やした先生が、
座っていると思った。
「え、先生がここの先生なの?・・・・!」
「・・・・やぁ!」
と、にっこりと微笑む。
すると、そうですと隣で立っている、
タムラ先生より少し若い医師が、話しかけた。
「本学の特別講師です!」
「学長が、本学と交友関係にあるニューヨークの大学から、
特別にお招きした助教授です。」
少しはにかみながら、タムラ先生はその若い医師に
「ありがとう!」
「すまないが君は少し席を外してくれ。」
と穏やかな命令口調で告げた。
若い医師は、目礼して黙ってドアを開け出て行った。
青木彩の、タムラ先生に対する態度がガラッと変わった。
神妙な顔つきで、彩はタムラ先生の言葉を一語一句、
聞き漏らすまいと耳を傾けた。
タムラ先生は、診療所でのデーターのコピーを持参しており、
胸部レントゲンをシャーカステンに掛けた。
足りない(出来ない)検査をこの大学病院で検査している。
“マンモグラフィー 超音波検査 病理検査で診断をつけ、
進展範囲や転移をMRIやCT、骨シンチ” よりも、
もっと進んだ、ほぼ確定診断が出来る優れもの。
KEKフォントンファクトリー
(放射光の特徴を生かし、X線の屈折を利用した診断法)により、
乳癌の確定診断が下された。
それを今、青木彩に話している所である。
彩はかなりショックだった!
かなりというよりものすごいショックだ。
タムラ先生もまたショックだ!
また若い女性を悲しませなければならない。
タムラ先生はその後の対応処置、実際どうすればよいか等を、
北村曜子に託す事にした。
その結果、青木彩はタムラ先生に全て任す決心をした。
オペの当日、オペに向けて準備がスムーズに進んだ。
タムラ先生にとっては特別な事ではない。
手術承諾書を、家族に記入してもらう手続きに当たって、
当日やって来た人の中に、見覚えのある人がいた。
その人は母親らしき人と一緒にやって来た。
おそらく患者の姉であろう、確かに見覚えがあった。
その人は、以前腰痛のために診療所にやって来た、
伊東美咲似の、すらりとした美人だった。
彼女もタムラ先生を見てびっくりしている。
「あっ! あの診療所の先生!」
「先生はこの大学の先生なのですか?」
「びっくりしましたわ!」
軽く微笑みながらタムラ先生は、
「腰の具合はどうですか?」
「はいだいぶ良くなりました!」
と小さな声で答えた。
彼女の名前は、青木泉27歳である。
ある大手の広告代理店に勤めているらしい。
青木泉は、タムラ先生に向かって深々と頭を下げ、
「妹のこと、本当によろしくお願いします!」
といった。
オペは順調にそして、いつものように完璧に行われた。
オペ室を出て、オペの状況を説明するために、
待合室で待つ家族のもとに向かった。
そこには、姉の青木泉だけがひとり心配そうに待っていた。
実は彼女たちは、母一人娘二人の三人で生活をしているのだ。
父親がいない理由はあえて誰も聞こうともしないし、
しゃべろうともしなかった。
青木泉に
「大丈夫、きっと結果はパーフェクトだよ!」
「安心していいよ!」
「本当にありがとうございました!」
「あと30分もすれば麻酔が覚めるでしょう。」
「少しそばにいてあげてください!」
「心のケアーも必要でしょう。」
と言って、タムラ先生は左手で泉の肩をたたき、
右手で彼女の手を取り握手をした。
そしてタムラ先生は待合室を後にした。
自分の研究室に戻り、コーヒーを自分で入れ、
ソファーに座って寛いでいた。
しかし、タムラ先生は何故か、得体の知れぬ何か、
見えぬ不安を胸に抱いていた。
病状は日に日に良くなって行くのだが、
彼女の表情はさえない。
食欲も無く、一度中止した点滴を再開する事となる。
タムラ先生も心配して、いつも以上に回診の回数を増やした。
彼女に、術後暫くして落ち着いたら、
再手術を行えばきちんと元に戻り、
キレイになる事を説明するのだが、
ほとんど上の空である。
ベテランの看護師が、何度も彼女の部屋に行き説明しても、
様子は変わらなかった。
北村曜子も何度となく足を運んだが、
表面的には朗らかに振舞うが、
彼女たちプロの心は騙せない。
医者も看護師も、一致した意見でもう少し状況を、
見守るしかないというのであった。
外見的な病状は、ほぼ完治に近く、
自宅療養に切り替えようと、言う事になった。
明日にも退院許可がおりようとしていた!
そんなある日、タムラ先生が危惧していた、
その嫌な事が的中する事になった。
彼女が突然、病室から姿を消してしまったのだ。
ではまた・・・・暫くのオフです! 浅見 希
タムラ先生夜間外来(総合) R1229
DrDr――――――総合Tamura ―――――DrDr