Rap1228-タムラクン の 恋-5
Rap1228-タムラ先生夜間外来総合
Rap1228-タムラクン の 恋-5
玄関の外で、もたもたしていたら、ほかの人に迷惑なことが、
わかるからである。
部屋に瞳を入れてドアを閉めると、瞳はいきなり抱きついてきた。
田村先生は、しばらくそのままにして、ゆっくりと瞳の体を離し
「この間の約束が、果たせなくなってしまうだろう。」
「今日はこのまま帰りなさい!」
瞳は今にも泣きそうな目をして、先生をにらみつけていたが、
先生の気迫に負けて、うなだれて帰って行った。
やっと一息つき、コーヒーをいれてソファーに坐っていると、
チャイムが鳴った。
瞳が、まだあきらめきれずに戻って来たのかと思って、
いきなりドアを開けると、そこには北村曜子が立っていた。
「どうしたんだい! いきなり?」
と言いながら、曜子を部屋に招き入れた。
黙って曜子にもコーヒーをいれて、
カップを手渡した。
「急にあなたの顔が、見たくなっちゃったの!」
そう言って曜子は、圭介の入れたコーヒーに口をつけた。
圭介とは田村先生の事である。
三年前の冬以来の、二人のプライベートな会話だ。
圭介と曜子は、五年前2人は知り合った。
それは劇的な出会いであった。
田村圭介は、ニューヨークのある大学病院で、
画期的ながんの摘出手術でセカンド(助手)として、
初めてオペを行った後、圭介の宿泊していたホテルのバーで、
ブランデーグラスを傾けていた。
カウンターで、バーボンのロックをあおるように、
飲んでいたのが曜子だった。
何か思い詰めたように、ただひたすらクラスを重ねていた。
「そんなにガボガボ飲んだら死ぬぞ。」
「いいの、死んだって!」
と投げやりに曜子はつぶやいた。
「どうしたんだい!」
「何か仕事で失敗したのか。」
「ほっといて」
圭介がそのまま黙っていると、
今度は曜子が、先ほどの“ほっといて”といった言葉とは裏腹に、
「そうよ、もうあたしは終わり!」
「終ったのよ」
そう言ったあと、曜子はカウンターにうつぶせて、
蹲る様に寝てしまった。
圭介は、そのままにしておくことが出来ず、
部屋に連れて帰った。
そのまま、2人の関係が約二年間幸せな生活が、
ニューヨークと東京で続いた。
お互いに、医者と看護師という医療関係の仕事であったために、
二人は急に燃え上がった。
曜子も国際的な立場で、看護師と言うものの仕事の意義を、
確かめるために、ニューヨークにやってきたのであった。
そしてあの日、圭介と会った日だった。
曜子は周りから孤立してしまい、同僚からはじき出されるような格好で、
オペ中に大きなミスをしてしまった。
辞表を仕事場に置いて、ここにやって来たのだった。
曜子の働いていた病院から、彼女をスカウトして、
圭介の働いている大学病院に働けるようにしたのだった。
2人の別れはお互いが忙しすぎて、自然に冷めていき、
距離が遠くなり、自然消滅した格好だった。
二人ともお互い嫌いにはならずに。
在る時、曜子が乳がんでオペをすることを知り、
圭介がそのオペを買って出たのだった。
曜子にとってかなり複雑な気持ちだった。
こんな形で再び出会うなって、うれしさもあった。
つらさもあった。
圭介にとっても同じ気持ちだった。
そして、しばらくお互いに近づいたが、
以前のような熱い関係には戻れなかった。
「どうした!」
「君がわざわざ会いに来るなんて、びっくりしたよ。」
「どうしてかな・・・」
「勝手に足がこちらに向いてしまったのよ!」
「あなた、最近幸せそうね・・」
「・・・・・・?」
「ただね! それが言いたくて・・・」
「焼いているわけではないのよ!」
「あなたの幸せそうな顔を見ていると・・・・」
「私も何だか幸せな気分になれるの!」
「君、誰かいい人、いないのか・・?」
「私・・・? 今は仕事が恋人よ」
「そうか・・・」
曜子は、昔のままの圭介の部屋から、
サイドボードのバーボンをグラスに注いだ。
圭介はそれを黙って見ていた。
圭介の頭の中に、記憶がよみがえってきているように・・・
圭介が翌朝目覚めてみると、
テーブルの上に、昔のようにスクランブルエッグとトースト!
そして、フレッシュオレンジジュースが置かれていた。
曜子の姿はすでになく、テーブルに直接
“突然ごめんなさい”
“ありがとう!”
と、彼女がプライベートで使っているルージュで、
書かれていた。
ではまた・・・・暫くのオフです! 浅見 希
タムラ先生夜間外来(総合) R1228
DrDr――――――総合Tamura ―――――DrDr