Rap1221-ある看護師の・・・死 -8
Rap1221-タムラ先生夜間外来総合
Rap1221-ある看護師の・・・死 -8
「大丈夫! 手を貸そうか?」
「ううん、平気・・・・・有難う!」
「ごめん、少し一人に・・・・・・」
「わかった、・・・・わ!」
そう言って、佐伯理沙の住んでいたマンションへ麗奈と葵、
介護で使う車椅子毎入るワゴンタイプの車に、
理沙を車椅子のまま乗せて来た。
そして、何とタムラ先生も同乗していた。
早田先生は外来に残して・・・・・それも最も暇な時間を見つけて!
理沙には事前に、鎮痛剤としてモルヒネ35mg1A筋注。
もう、痛み止めは効果が鈍く、彼女は相当痛い筈だ。
神経ブロックもきちんと行って・・・・・
救急用品一式、酸素点滴も持参して・・・・これは本当に特別待遇だ!
勿論彼女の、突然の病変に備えての万全の措置だ。
佐伯理沙のマンションは賃貸なのか、自己所有なのかは不明だが、
かなりな金額のマンションだろう。
おそらく4千万前後か・・・・・
これは誰の援助か?・・・・まあ・・その辺はヒミツで!
本当に最後の、最後になるであろう・・・・自分の部屋に、
理沙は一人で、はいつくばう様にして、いつも出勤前に座る化粧台に、
必死で向かい、座る。
渾身の力を振り絞って、自ら最後の化粧。
見慣れた鏡の前に己の顔を映し見て、
痩せて頬がこけた姿に自然と涙が零れる。
「まぁ・・・こんなもんでしょ!」
「ねえ、あなたが一番嫌いな奴・・・そう理沙の末路ね!」
「この顔で・・・・、どれ程の男を誑かし、騙した・・ね!」
「あいつは、卑怯な奴・・・妻にバレそうになると、スッと身をかわした!」
「どうせ、妻の機嫌ばかり・・・」
「そうよね、あなたは婿養子! その病院を狙って、ね!」
「で・・・、また浮気がバレそうで・・・また一人泣かしたそうね!」
「あなたの、行き先は地獄でしょうね!」
「もう、あの世とやらでも会う事は無いでしょう! 安心よ!」
「あいつは優しい・・・あいつは・・・本当に!」
「あいつとは上手く行く、そう思った男はもういない!」
「待っててね!・・・もう直ぐ・・あなたに会いに行くわ!」
「そっちで・・・幸せになろう! ね!」
「でも、今私幸せよ!」
「今までの無謀な振る舞いを許してくれる、素敵なスタッフに会えたの!」
「やっとね! もう少し、もっと早くに出会えていれば・・・よかった!?」
「そうね・・・そんなに都合よく人生回らないよね!」
「こんな私には!」
「ああ、あのタムラ先生の弟さんに、もう少し早く巡り会いたかった・・・・」
「あの人なら・・・・尽くして、尽くし抜いて・・・命も捧げて見たかった!」
「無理か・・・・まるで、月と、キラキラと光り輝く特等星じゃぁね!」
「でも、幸せ感じた・・・潤先生に少しでも体を診察して貰えて・・・・」
「そうね、理沙・・・あんた、幸せ者よ!」
「あなたの過去を考えれば・・・・ね!」
「はい、納得です・・・・神様!」
「さぁて・・・これ如何しようかな・・・?」
化粧品ケースの裏に、小さな細長の光る長さ64mm×10mm×21mmの、
白い記憶媒体を手に持ちブラの中にしまった。
そして、ノックの音
「はい、すいません!」
約束の15分きっかりに、麗奈がノックしたのだ。
「あら・・・あなた綺麗よ!」
「有難う、その気持ち!」
「ううん、本当よ!」
「そんな・・・照れる・・・わ!」
「もう良いかしら・・・?」
「はい、お願いします!」
そして、麗奈の方に寄り添い、車椅子まで葵と麗奈で運び
8階のエレベーター前に立ちB1を押す!
そこには、例のワゴン車が止めてあった。
「これで・・・悔いは・・・無いわ!」
「・・・・・・・・!!」
葵、堪えていた涙が流れて・・・もう止まらない
「葵さん!」
「はい!」
「貴女も、麗奈さんみたいな素敵な看護師さん・・・にね!」
「・・・・は・・ぃ!」
「私は、ダメだったけど・・・!」
「いいえ・・・貴女も素敵な看護師さんです!」
「有難う・・・少しおまけしてもらって、“素敵だった!“ かな!?」
「そんな事無いわ・・・・貴女は優れた看護師ですよ!」
麗奈が言い切った!
「有難う・・・・泣いちゃうわ・・・!」
「ねえ・・・最後のお願い・・・叶えて!?」
「はい・・・それじゃ・・・・行きましょう!」
この瞬間、タムラ先生、車の中で待機していた。
勿論、何か急変したら直ぐに駆けつける用意をして・・・・
理沙を乗せた車は、首都高速道路を走り京葉、
千葉東金道路を経て目的地へ
「わぁ・・・・・気持ちいい!」
「本当ね・・・・九十九里って・・・こんなに美しい砂浜なのね!」
「そう、最強よ! 関東一」
「日本一私にとって・・・・ね!」
「これくらい大きな砂浜は日本に2.3箇所しかないわ!」
「へぇ・・そうなんだ!」
{ガイド}
千葉県九十九里浜は、66キロに渡る日本有数の砂浜です。砂浜に現れる風紋は、風の力や方向で刻々と姿を変え、波打ち際では波が砂を動かし波漣と呼ばれる模様を作り出します。波が届けてくれる栄養分を食べる小さなムシや貝。九十九里浜はミユビシギ日本最大の渡来地にもなっています。
「有難う、タムラ先生、麗奈さん、葵ちゃん!」
「そうね、相当無理したわ!」
「すいません!」
「どう・・ふるさとは・・・・」
「・・・・うん・・・懐かしい・・・とっても・・・・」
「そう・・・・・・・」
車椅子で、海岸のそれもギリギリまで近づいた。
「先生・・・・最後のお願い・・・・!」
「ああ・・・・砂浜まで・・砂浜に足をつけたいのだろう・・・!」
「うん!」
「わかった、背中に乗れ! おんぶしてやる!」
「はい・・・」
「わぁ・・・・そんな・・・・」
葵の悲鳴に似た叫び・・・
「いいの・・・・!」
それをなだめる様に、麗奈!
「先生、重いでしょ・・・私!」
「いや・・・軽いよ!」
「でも・・・・心は今は重い」
「うん・・・、とっても充実している!」
「充実してるから・・・な! 君の心は!」
「先生・・・・・?」
「なんだい・・・・・」
「言付けて欲しいの?」
「あいつに・・・か?」
「うん・・・・」
「わかった・・・・・」
「先生!」
「タムラ先生!」
「!・・・・・・!・・・・・」
「センセー・・・・ィ!!」
砂浜を・・・・白く美しい砂浜を・・・・、
ナースシューズを脱ぎ捨て、砂浜に打ち寄せる柔らかな低い波を、
弾き飛ばすように駆け寄る、看護師麗奈と葵
少し、日が沈み薄暗くなった太平洋目指して、
遥かに見える理沙を負ぶったタムラ先生を追う!
やっとの事でたどり着き、また叫ぶ! 麗奈が!
「先生・・・理沙さん!」
「ああ・・・わかっている!」
「先生・・・・センセイ!」
「!!・・・・・・!」
もう・・・・・・・・・既に・・・
佐伯理沙はこの世にいない・・・・
海に・・・・
九十九里の海に・・・・・
理沙の生まれた美しい砂浜で・・・・・
遠くの方で・・・太平洋を越えて・・・
何処かの世界に向かう大型船がゆっくりと・・・・流れている
P.S.
理沙が、胸の谷間から取り出した小さな細長の光る、
長さ64mm×10mm×21mmの、白い記憶媒体 USBメモリーは
タムラ先生の手に手渡され、全てを託した。
それは・・・もう既に太平洋の海の中か・・・・それとも・・・!
ではまた・・・・暫くのオフです! 浅見 希
タムラ総合病院 R1221
DrDr――――――総合Tamura ―――――DrDr