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9.船出

 用意してくれたのは小型の遊漁船。

 さっきのおじさんが少し前まで使っていた船で、新しく買った船があるからと譲ってくれたそうだ。

 メンテナンスはすでに終わっていて、燃料となる魔石にも満タンに魔力が入っている。

 元々長い航海に耐えられるように設計されているらしい。


「運転は出来るの?」

「ああ。何度かしたことあるし、おじさんにも教えてもらったからな。燃料もある。一先ず数週間は大丈夫だろう」

「そっか」


 数週間分。

 それだけあれば、どこか離れた陸地へはたどり着ける。

 どこまで行くのかは決めていないようだけど。


「それより、出発前に荷物だけ確認しておいてくれ」

「荷物? 私は何も……」

「だーかーら、持ってきてあるから、足りない物がないか見てくれ」


 そう言って指を指し示した先には扉がある。

 どういう意味か確認したくて、私はその扉を開けた。

 ギィーとちょっぴり古さを案じられる音がしたけど、中は比較的綺麗で手入れされている。

 そしてテーブルの上には、見慣れた道具がパーツがずらっと並んでいた。


「こ、これ……私の研究室にあった」


 試作品に、外で調査をするときに使う道具まで。

 私が研究室から持ち出したいと思っていた物、ほぼすべてが揃ってる。


「足りそうか?」

「シークこれ、君が持ってきてくれたの?」

「ああ。研究室の鍵は没収されなかったからな。全部持ち出すと怪しまれるから、数日に分けて必要そうな物だけ選んだんだ」

「すごいよ……私が欲しいものばかり、何でわかったの?」

「そんなの当たり前だろ? ずっと近くで見てきたんだ。お前がどれを大事にしてるのかくらいわかるさ」

「っ、そ、そうか」


 シークにそう言われると、急に顔が熱くなった。

 今までに感じたことのない感覚に戸惑いながら、並んでいる道具類を確認する。

 αエネルギーを集める指輪の試作品に、それを使うための道具の試作品。

 どれも研究室に残していたら悪用されかねないと危惧していたけど、その心配はなさそうだ。

 

「本当はデータ類も持ってきたかったんだけど、さすがに三日じゃ足りなかったよ」

「ううん、その辺りは全部頭に入ってるから」

「さすがだな。でもいいのか? あれはお前の研究だし、勝手に悪用されたら……」


 心配そうな顔をするシークに、私は首を振ってこたえる。


「その心配はないよ。データはあっても、彼らには絶対読み取れないから」

「いや、さすがになめ過ぎじゃないか? あいつらだって発明家だぞ」

「理解できないんじゃなくて、読めないんだよ。データの一部、特に重要な部分は私とお父さんで考えた特別な言語で書いてあるんだ」

「と、特別な言語?」

「そう。だからどう頑張ったって、彼らに私の研究データは読み取れない。そこだけ見ても、彼らの行った実験に整合性はないんだよ」


 お父さんと考えた特別な言語。

 それと一緒に、お父さんとの思い出が蘇る。

 お父さんは昔から、私から見ても少しズレた人だった。

 言語を考えようと言った時も、口にした理由は格好良いからで、意味のないことだと思った。

 面白そうだからと手伝って、今でも使ってる私が言えたことじゃないけど。

 だけどもしかしたら、お父さんは予見していたのかもしれない。

 形は違っても、こういう事態に陥る可能性を。


「そろそろ出発するぞ」

「……やっぱり少し悔しいな」

「サクラ?」

「あ、ごめん。今さらなんだけどさ。私とお父さんの夢が、こんな形で終わるなんて」

「何言ってるんだ? お前らしくもない」

「え?」


 シークは小さくため息をつき、両手を腰に当てる。


「お前の夢は、魔力に変わる新しい何かを生み出すことだろ? それは別に、この国じゃなくても叶えられるじゃないか。そもそもお前、この国に愛着とか大してなかっただろ? 俺が言えたことじゃないけど」

「そ、それはまぁ……あんまりないかな」

「だろうな。まっ、確かに環境が良かったのはあるし、戻りたいならほとぼりがさめたら戻れば良い」

「それは……無理だよ」

「そうでもない。そっちは任せてきたから」

「え?」


 任せて来たって……誰に?


「また落ち着いたら教えるよ。出発するぞ」

「う、うん……わかった」


 気になるけど、のんびりしていられないのも確かだった。

 シークが準備を終わらせ、船を出向させる。

 船着き場ではおじさんが小さく手を振っていた。


 こうして私たちは、王都の港を出た。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 一方、爆発で城内はパニックに陥っていた。

 駆けつけた騎士団が現場の安全を確保している。

 そこへ騎士団長が到着、指示を出す。


「怪我人がいる場合はそちらを優先しろ」

「大丈夫、怪我人はいないよ」

「ん? ロザリアか」

「やぁ騎士団長さん、少し遅かったね?」


 顔を見せた赤髪の女性。

 彼女の名はロザリア・ハルトマン。

 宮廷魔術師の筆頭であり、シークの実姉である。


「門でも騒ぎがあったようだけど、そちらはいいのかな?」

「……ああ」

「ふふっ、その様子じゃしてやられたようだね」


 ニコリと笑うロザリア。

 対して騎士団長セルゲイはため息を漏らす。


「まさかとは思うが、君も関わっているのではないだろうな?」

「何がだい?」

「……いいや、良い。それで犯人は?」

「爆破だけしてどこかへ消えたよ。黒いローブで全身を覆ってから姿は見えなかった。安全を優先したとはいえ追えなかった。かなりのやり手だね」

「そうか。ならば至急報告し、守りを固めるとしよう」

「ええ」


 そう言い残し、セルゲイが去っていく。

 騎士団が瓦礫をどかしたり作業する中、ロザリアは一人廊下を歩く。


「まったくもう、とんでもないお願いをしてくるね……」


 ロザリアは楽しそうに笑う。


「でも仕方がない。可愛い弟の頼みだ」

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