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6.特別な人だから

 暗い地下には光が通らない。

 照らされているのは、小さな明かりの一部だけ。

 ずっとこんな場所にいれば、光が恋しくなることもあるだろう。

 それ以上に、誰とも話せないことへの不安と寂しさで、頭がおかしくなる。

 だから、その声を聞いた時、私の胸は激しく鼓動を打った。


「サクラ」

「シー……ク……」


 私の名前を呼ぶ彼の声が、心に温もりを与えてくれる。

 暗くてもハッキリと、彼の笑顔だけは見えて。


「元気だったか?」

「馬鹿か君は? 元気なわけ……ないだろ」


 安心して、瞳からは涙が溢れ出た。

 

「そんな悪態がつけるなら元気だろ?」

「ふっ、そうかもね」

「よし。じゃあさっさと出るぞ? あまりのんびりはしてられないんだ」


 そう言って彼は懐から鍵を取り出す。

 鍵を鍵穴に入れた所で、私は冷静さを取り戻してく。

 そこへコツコツ音がして、巡回に来た牢屋番と鉢合わせてしまう。

 

「だ、誰だ貴様!」

「ちっ、早速バレたか」


 シークは迷うことなく牢屋番へ接近し、彼が武器を取る前に腹へ一発。


「うっ……」

「悪いな。少し眠っててくれ」


 牢屋番が倒れ込む。

 ドサッという音が聞こえて、ようやく私は思い当たる。


「シーク」

「ん? ちょっと待ってろ、すぐに開ける」

「そうじゃない! どうしてここへ来たんだ!」

「は? お前を助けるために決まってるだろ?」

「いや、だから……わかってるの? こんなことしたら君まで罪人扱いされるんだよ? 下手したら即死刑だ」

「だろうな。わかってるから心配するな」


 シークは何も気にしていないように淡々と鍵をガチャガチャ開ける。

 死刑囚を逃がすなんて大罪を犯している。

 公になれば国中で指名手配され、一生追われ続ける身になることは間違いない。

 それなのに、焦っているのは私一人だった。


「今ならまだ間に合う! 私に唆されたとか、変な装置で操られたってことにすれば――」

「あのな~」


 ガチャリと鍵が開き、シークが牢獄の中へ踏み入る。

 そのまま力強く私の両肩をガシッと掴んできた。


「シーク?」

「前々から思ってたけど、お前って研究以外だと鈍いよな」

「え?」

「いいか? 一度しか言わないからよく聞けよ」


 シークが私の肩を掴む力が強くなる。

 ちょっぴり痛いけど、彼の真剣な表情を見てしまったら、余計なことを口に出来なくなった。

 私は一言も聞き漏らさないように、彼の言葉に耳を傾ける。


「俺は……生まれた時から落ちこぼれだった。父親も兄妹も、みんな魔術師の才能に恵まれていたのに、俺だけ魔術が使えない。欠陥品、役立たず、魔力だけ他より多かった分、両親はガッカリしていた」


 うん、知っている。

 私たちが初めて出会ったのは、私がまだ五歳の頃。

 君は魔術師になるのを諦めて、騎士になるために剣の訓練を一人で頑張っていた。

 そこに偶々、本当に偶然、私とお父さんが鉢合わせたんだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おや? 珍しいね、こんな所に人がいるなんて」

「だ、誰ですか?」

「おっと失礼、私はレオナルドという宮廷付きの発明家だ。こっちはサクラ、私の娘だ」


 その頃の私はまだ幼く、人見知りだった。

 お父さんの後ろに隠れながら挨拶を返した。


「こんにちは」

「こん……にちは」

「それで? 君は誰で、こんな場所で何をしてるんだい?」

「お、俺はシークです。見ての通り、剣の修行をしてるんです」

「ほう剣の修行か~ 君、それだけ魔力をもっているのに、魔術師のほうが向いてるんじゃないのかな?」


 私のお父さんは、他人の魔力を見ただけで測定できる特別な力を持っていた。

 彼の魔力量が常人を超えてることを見抜いて、何気なく口にした。

 でもその言葉は、彼にとっては心に刺さるもので。


「俺だって……俺だってそうしたいよ! でも無理なんだ! 俺じゃ魔術師には……」

「何だか訳ありだね。もしよかったら聞かせてくれないかな?」

「え?」

「力になれるかもしれないよ」


 この時のお父さんは、心配より好奇心のほうが勝っていたと思う。

 彼の事情を聞いていくうちに、お父さんはワクワクしたみたいに表情が明るくなったから。


「なるほどなるほど、もう少し詳しく君のことを知りたいな。すまないが、私の研究に付き合ってもらえるかな?」

「研究?」

「ああ。君の魔力について調べてみたい」

「そ、それで魔術が使えるようになるの?」

「さぁ? それはわからないけど、知らないことを知ることで、新たな道が開けることもある。やるかやらないかは君次第だが」

「やります!」


 シークは迷いなく答えた。

 それほど彼にとっては大切なことなのだと、幼いながら私も理解した。

 これが私たちの出会い。

 それからずっと、私とシークは共に時間を過ごした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「正直言って、最初は失敗したと思ったよ。めちゃくちゃな実験に付き合わされるし、痛いの気持ち悪いの……実験動物の気分を味わった」


 お父さんの検査という名の実験は、彼にとってトラウマになっているようだ。

 端から見ていた私でも、自分はやりたくないと思う。

 それに彼は耐え抜いた。


「でもお陰で、自分の魔力の性質と使い方を知ることが出来た。訓練にも付き合ってもらって、魔術師にはなれなかったけど、俺はちゃんと騎士になれた。おじさんのお陰だ。それに――」


 シークは私を見る。

 懐かしむように、少し優しい瞳で。


「両親からも兄弟からも見捨てられて、孤独だった俺と一緒にいてくれた。優しい言葉をかけてくれたし、普通に接してくれた。今日まで一緒にいて、大変だったけどサクラと一緒だと楽しかった」


 そんな風に思っていてくれたんだ。

 シーク、私も楽しかった。

 彼が一緒にいてくれたから、一人じゃないって思えた。


「おじさんが亡くなった時、俺は自分に誓ったんだ。必ずお前を守ると……役目だからじゃない。俺が心から大切だと思えるから」

「シーク……」

「わかったかよ? 俺はお前を守りたい。この先もずっと、俺が守り続ける。だから一緒に、ここから抜け出そう」


 彼の言葉が温かくて、力強くて涙が出る。

 諦めかけていた生きるという道を、彼が手を引いて導いてくれた。

 

「……うん」


 私はまだ、生きていたい。

 やりたいことがある。

 お父さんと叶えたかった夢がある。

 そして、彼がいるから。

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