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4.最悪の予感

「はぁ……はぁ……」

「大丈夫か?」

「そう見えるなら目を取り換えた方がいいね」

「大丈夫そうだな」

「うぅ……こういう時はイジワルだね」

「普段こき使われてる分、そのお返しだよ」


 なんて会話をしながら休憩を挟んで、私たちは洞窟の中へ入る。

 すでに人の手が加えられている洞窟で、中には一定間隔で明かりが設置されていた。

 道順も看板で書かれているから迷うこともない。


「元は魔石発掘用の洞窟なんだよな」

「うん。目当ての魔石はもうないから、今は誰もいないけどね」

「魔石以外興味なし……か」

「私は違うよ? お目当てのものはこれだから」


 私はしゃがんで、足元に落ちていた黒い石を拾い上げる。

 シークはじっと目を細めて見る。


「どう見てもただの石なんだよなぁ」

「実際ただの石だからね。でも、これが一番太陽の光を集めやすいんだ。だから太陽の石って私は呼んでるよ」

「太陽の光か。お前が研究してるαエネルギーって、太陽の光を変換したもの……だったよね?」

「そう! 今までいろいろ試したけど、これが一番効率が良いし魔力と性質も似ている。しかもエネルギーの密度は魔力より上だ。そのまま代用できる仕組みさえ完成すれば、あとは導入するだけだよ」

 

 太陽の光を特殊な装置で変化したエネルギー。

 αエネルギーはお父さんが研究していた技術を元にして、私なりに再構築したもので、魔力の代わりになるエネルギーだ。


「いずれ魔石は足りなくなる。そうなった時のために準備しておかないとね」

「足りなくなる……か。疑ってるわけじゃないけど、本当になるのかな」

「なるよ。確実に足りなくなる。現に魔石の採掘量は年々減ってきている」


 魔道具は魔力で動く。

 その核となるものが魔石であり、魔力を蓄える力がある。

 現代の技術で魔石を生成することは出来ないから、その全てを採掘で補っていた。

 しかし資源には限りがある。

 現代の技術では魔石を生み出すことはできない。

 そもそも魔石は、動物や魔物の死体が、長い年月をかけて結晶化したもの。

 今すぐ用意しろと言われても、何千と待たなくてはならないから不可能だ。


「この国は、中心から辺境に至るまで魔道具に頼り切ってる。なくなれば遠い街から削られて、いずれ平民には届かない貴重な代物になるよ」

「そうなったら終わりだな」

「うん。だからお父さんも研究していたんだ。みんなも気づいているはずなのに……」

「どうだかな。お前が特別天才なんだと思うけど」


 シークは手伝いながらぼそりと口にする。

 天才という言葉を、小さい頃からよく耳にした。

 史上最年少で宮廷付きの発明家になった私は、当時から注目されていて。

 期待されるのと同じくらい、敵意みたいなものも多かった。


「私は天才なんかじゃないよ。最初に気付いたのはお父さんだから」

「確かにな。でもまっ、お前のほうがおじさんより努力家だよ。そこは間違いない」

「そうかな? うーん……」

「褒めてるんだから、素直に喜べばいいんだよ」

「ふふっ、そうだね」


 シークにそう言われて、時々思う。

 理解されないほうが多くて、味方なんていないって思う時もある。

 それでも、ちゃんと見てくれる人が一人でもいれば、案外頑張れてしまうのだと。

 私を認めたくない人よりも、こういう身近にいる人を大切にしよう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 王宮に戻った私とシーク。

 必要な素材を袋一杯に詰め込んで、やりきった気分で研究室に戻る。


「これだけあれば当面は研究に集中できるよ」

「そうか?」

「うん。また足りなくなったらお願いね?」

「了解。それは俺は一旦騎士団隊舎に――ん?」


 カチャカチャと剣が揺れる音に、私とシークは気づく。

 音がした目の前から、数名の騎士団隊員が怖い顔で歩いてきた。

 どうにも私を睨んでいるように見える。

 彼らは私たちの前で立ち止まり、道をを塞いだ。


「な、何ですか?」

「サクラ・ハーウェイだな」


 立ち止まり身構える私に、騎士を率いていた一人が書類を見せつける。


「お前に国家反逆罪の嫌疑がかけられている! よって身柄を拘束させてもらう」

「え?」

「なっ、反逆罪? 何のことですか?」

「聞いての通りだ。シーク、お前もしばらく自室で待機しろ。お前たち」

「はっ!」


 騎士が二人、左右に近寄る。

 無理やり力強く腕を掴み、抵抗できないように後ろで結ばれる。

 女の力で男に勝てるはずもなく、抵抗も無意味だと考えた私は、騎士たちにされるがまま連行される。

 それにシークは抗議してくれた。


「ちょっ、何かの間違いですよ!」

「それを決めるのは我々ではない。待機を命令したはずだぞ」

「大丈夫だよシーク」

「サクラ……」

「私は何もしてない。それは君がよく知っているだろ?」

「そうだけど……」

「ちゃんと説明すれば、事実なんてないことも証明できるさ。それまで束の間の休暇でも楽しんでいて」


 心配するシークに、せめてもの見栄を張る。

 正直に言うと少し怖い。

 反逆なんて心当たりは一切ないし、冤罪だとわかっているけど……王宮には、私の敵が多いから。

 陛下と謁見するため、私は騎士に連れられ王座の間へ足を運ぶ。

 道中、嫌な予感だけが膨れ上がる。


 そして――


「国家反逆罪により、サクラ・ハーウェイに死刑を言い渡す」


 その予感は、見事に的中してしまった。

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