2.嫌味な同業者たち
短編分は4話くらいですが、加筆してるので分量は違います。
王宮で働く発明家は二十三人。
元貴族から平民まで、それぞれが国王に選ばれた才能を持っている。
その役目は、国を発展させる新たな技術を生み出すこと。
発明家が生み出す物が、そのまま国の発展に繋がる。
故に、周囲からの期待は大きい。
そして同時に、互いにライバル同士で、時には対立することもある。
「では本日の会議は終了とする」
王宮では定期的に発明家を集めて会議が行われる。
何か特別な話をすることはなく、各個人の研究がどれだけ進んでいるか発表する。
多方面からの意見を聞ける貴重な場ではあるけど、基本的にみんなプライドが高くて、あまり他人の意見は聞かないから、ほとんどただの報告会になっていた。
会議が終わり、私も席を離れようとする。
そこへ三人の男発明家が近づいてきて、声をかけられる。
「サクラ君」
「ん? 何かな?」
「君はまだ無駄な研究を続けているのかい?」
「無駄?」
「ああ。魔力にかわる新しいエネルギーの開発だったかな? そんなものは存在しないと散々言われているのに」
「それはまだ誰も見つけられてないだけだよ。さっきの説明聞いてなかったかな? もうエネルギーそのものは確立されつつある」
私がそう答えると、男は眉間にシワを寄せる。
身長差で見下ろされると、多少威圧感はあるものの、いつものことだから慣れてしまった。
「皆が聞いている場だから見栄を張っただけじゃないのか?」
「会議の内容は陛下に伝えられるんだ。嘘をつけると思うのかい?」
「っ……我々に求められているのは、魔道具技術の発展だよ。陛下はもちろん、国民がそれを望んでいる」
「知ってるよ。だけど、いつかなくなる物に縋っていても仕方がないよ」
平然と返す私に苛立ったのか、彼は舌打ちをして続ける。
「ちっ、父親同様に愚か者だね。君には期待していたのに」
「お父さんも私も愚かじゃない。私から見たら、貴方たちのほうがよっぽど愚かだと思うよ」
「何だと?」
「違わないだろ? いずれなくなると気づいてるのに、その事実から眼を背けているんだ。なくなるとしても数十年先だから、自分たちには関係ないと思っているのかな? どちらにしても愚かだと思うよ」
「貴様……」
歯ぎしりの音が聞こえる。
お父さんのことを侮辱されて、私も少し頭にきてしまった。
不用意に言い過ぎたと反省はするけど、撤回するつもりはない。
私は彼らに背を向け、会議室の出口へ向かう。
「我々の忠告を無視したこと……後悔するぞ」
扉に手をかけるところで、背後からそんなことを言われた。
振り向かなくても、どんな顔をしているのかわかってしまう。
私は呆れて声も出ず、そのまま扉を開けて部屋を出た。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「はぁ……」
「えらくでかいため息だな」
「まぁね~」
研究室に戻った私は喪失感に襲われていた。
後悔なんて非合理的なことをしている暇はないのだけど、一度やる気が削がれると、中々一歩が踏み出せない。
自分の未熟さが恨めしい。
「サクラお前、また会議で余計なこと言っただろ?」
「え? 何でわかるの?」
「会議室から出て来た時、ものすごい睨まれてたぞ。親の仇でも見るみたいに」
「あぁ……まぁ大体合ってるよ」
「いつもの流れか?」
「うん」
お父さんを侮辱されて、私が反論する。
毎回というわけじゃないけど、会議が終わるとつっかかってくることが多い。
会議には参加していないシークも事情は知っている。
「……なら仕方ないな」
「そう?」
「おじさんを馬鹿にされたら俺でも怒るからな」
「ふふっ、シークはお父さんが大好きだったものね。小さい頃から」
「お前には負けるけどな」
「当然だよ。お父さんは私のお父さんなんだから」
シークと話していると、少しずつ元気が出てくる。
私は腑抜けた自分に気合いをいれて、机の上に積まれた資料を手に取り、トントンと整理する。
「よし。再開しよう」
「ん? サクラ、その指輪は?」
「え? ああこれかい? 前に話した試作品だよ」
シークが見つけたのは、私の右手中指にはめられた白銀の指輪だった。
これはただの指輪じゃなくて、私が研究している技術を形にした最新の道具。
「例のαエネルギーの? 完成してたのか」
「うん。まだ調整中だけどね。終わったらシークに使ってもらおうと思ってる」
「また実験台か」
「大丈夫、今回は変な刺激とかないから」
「爆発は?」
「ないよ。たぶん……」
「たぶんって……」
不安げな顔をするシーク。
そんな顔をして文句を言いながらも、いつも何だかんだで手伝ってくれるから、今回もお願いしようと思う。