表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/10

1.宮廷付き発明家

 マナタルト王国。

 人類史上最も長い歴史を持つ国であり、二百年前に起こった種族間戦争の勝者でもある。

 他種族の技術を盗み、大量の大陸資源を手に入れたことで、王国の文明は急速に発展していった。

 そして現在、大陸のほぼ全てを統治する大国を支えているのは、多くの魔術師と魔道具を生み出す発明家たちだった。


「ねぇお父さん」

「ん? 何だい? サクラ」

「お父さんは発明家さんだよね?」

「ああ」

「じゃあ何で、ほかの発明家さんと仲良くしないの?」

「うっ……」


 子供の無垢な質問に、お父さんは苦い顔をする。

 他意はないとわかっていても、心にぐさっと刺さる何かを感じて、苦笑いしながら答える。


「あはははっ、別に仲が悪いわけじゃないよ。ただ……僕と彼らでは、見ているものが違うだけさ」

「見ているもの?」

「うん。彼らが見ているのは魔道具の発展だ。でも僕は、それじゃ駄目だと思っている。まだ先の話だけど……いや、案外すぐ来るかもしれない。魔道具が足りなくなる時代が……」


 神妙な顔つきで語る父親の言葉は、子供の頭では理解しがたい内容だった。

 首を傾げる我が子を見て、お父さんは微笑み頭を撫でる。


「ごめんね、少し難しかったかな?」

「魔道具なくなっちゃうの?」

「うん。僕はそう思っているよ。きっと他にも気づいている人は多いけど、中々言い出せないんだと思う」

「どうして?」

「この国は魔道具と共に発展してきた。皆が魔道具に頼り切っている。国も、王も、民もだ。神様を崇めるみたいに信じ切っている。だからそれを否定する発言は好まれない。本当は現実と向き合うべきなのに……」


 そう語りながら、難しい顔をするお父さんを見て不安になる。

 彼が苦しんでいることは、子供の目にも明らかだった。

 現状を変えたいけど、誰一人付いてきてくれない。

 孤独の発明家に残されたのは、亡き妻の思い出と、最愛の娘だけ。


「お父さん……」

「そんな顔しないで」

「わたし、大きくなったらお父さんのお仕事のお手伝いする!」

「本当かい?」

「うん! いーっぱいお勉強する!」

「それは嬉しいなぁ」


 優しく笑う父親と、大きな手に触れて子供は思う。

 早く大きくなりたい。

 大人になって、お父さんを助けたい。

 そうして育ち、長い時間が経過していく。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 十年後――


 王宮に設けられた研究室。

 廊下の壁にはずらっと入り口の扉が並んでいて、扉の上には名前が書かれている。

 それは王宮で働く発明家たちが仕事をする研究室。

 国の繁栄のため、発明家たちは日々研究に励んでいた。


「うーん、これも違うパーツを使ったほうがいいかな。でもコスト的にこれがベストだし」


 ガラガラと部品を漁る。

 研究室にはそれぞれの発明家の個性が現れるが、共通していることが一つ。

 それは……


 トントントン。


「入るぞー、ってうおっ、また散らかってるし……」


 部屋中に散乱する書類や道具。

 ノックをして入ってきた騎士服の彼は、その惨状を見てやれやれと頭に手を当てる。


「ったく、一昨日掃除したばっかりじゃないか。おいサクラ」

「ん?」


 名前を呼ばれてようやく、私は来客の存在に気付いた。

 下のほうにある棚を探っていた私は、声に反応して立ち上がる。

 入り口のほうへ顔を向けると、よく知る呆れ顔が視界に飛び込んできた。


「何だシークか」

「何だとは何だよ。そっちが呼んだんだろ」

「あー……そうだったっけ?」

「おい」

「ごめんごめん。何を頼もうとしたのか忘れただけだよ。そのうち思い出すから、しばらくソファーにでも座って待っていてくれ」

「いや……ソファーも埋もれてるじゃないか」

「え? あ、本当だ」


 ソファーの上にも資料やら、一見ガラクタにしか見えないパーツが散乱していて、とても座って寛げそうにない。

 適当に物を漁って放置した結果だ。


「出したらちゃんと片付けろよ」

「あっははは、わかってるつもりなんだけど、やりたいことが目の前にあるとつい……」

「はぁ……」


 彼は大きくため息をこぼし、腰の剣を鞘ごと外して壁に立てかけた。

 両腕の袖をまくり上げ、散らばった書類を集め始める。


「片付けてくれるの?」

「待ってる間やることないしな。それに放っておいたら、もっとひどい状況になるだろ? 一昨日みたいに」

「うっ……それは否定できないなぁ」

「だろうな。いつものことだ」


 そう言って嫌そうな顔をしながらも、彼はせっせと片づけをしてくれた。

 言葉通りいつも、部屋の片づけは彼がしてくれる。

 私が手伝おうとすると、自分の仕事に集中しろと言われるから、ずっとその厚意に甘えてしまっている。

 しばらくして、部屋中の物が綺麗に整頓された。

 彼のパンパンと手を叩く音で、私も片付けが終わったと気づく。


「いつもありがとうシーク。君が私の担当騎士で良かったよ」

「ん? 何だよ改まって」

「ううん、特に深い意味はないよ。純粋に今、そう思ったから口にしたんだ」

「ふーん」


 王宮に働く発明家には、それぞれ一人ずつ専属の護衛がつく。

 私の護衛になってくれたシークは、小さい頃からよく知っている。

 いわゆる幼馴染というもので、お陰で気兼ねなく話せるし、我儘も聞いてくれるから助かる。

 

「いつも感謝しているんだよ? 実験も手伝ってくれるし」

「手伝いじゃなくて実験台の間違いな? 大抵いつも騙されてやってるだけだぞ」

「そこはほら、騙されるほうが悪いよ」

「お前なぁ……」

「ふふっ、冗談だよ。本当に助かってるんだ。お父さんもそうだったけど、この王宮じゃ私は異端だからね」


 この研究室は、元々お父さんが使っていた部屋。

 二年前にお父さんが病気でなくなってからは、私がこの部屋を使っている。

 お父さんの残した研究と夢を引き継いで。


「それが嫌なら普通にすればいいだろ? やろうと思えば何だって出来る」

「ううん、私には無理。お父さんの娘だから」

「それは……」

「別に良いんだよ。私は自分の研究が出来ればいいし、今の環境も嫌いじゃないから」


 お父さんの意思を継ぐ。

 私の夢は、お父さんが目指した夢と同じ。

 魔力に変わる新しいエネルギーの開発だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ