第2話 亮介
兄は俺の3つ上だ。小さい頃から俺は兄に懐いており、当時どちらかというと身体が小さく気も小さかった俺はイジメっ子に虐められるとよく兄に庇ってもらっていた。
兄は暴力に対して暴力で返すことはなく、いかにその行為が良くないかイジメっ子に延々と諭していたのだ。
そして兄はスポーツ万能で身体もデカかったので、その説得に大概のガキ大将は屈した。
バカなくらい真っ直ぐで曲がったことが嫌い、それが小さい頃からの兄だった。
俺はそんな兄が大好きだった。
物心ついた頃には、俺は兄を追う様に兄と同じ中学校・高校に進学した。
俺は体格的には兄ほど恵まれなかったが、兄に少しでも近づきたくて中学から空手を始めた。
兄とは学年が3つ違いなので同じ期間に学舎に通うことはなかった。
だが、中・高とサッカー強豪校のキャプテンだった兄は校内外問わず相当な有名人で本人が既にいないにも関わらず、校内の何十人、何百人という相手から兄のことを聞かれた。
『杉本先輩の弟さんですよね?』
と言われ、教師からは、
『お前が杉本の弟か!!兄さんとはあまり似てないなぁ。』
などと言われた。
ちょっと嬉しかったものでいうと、
『やっぱり先輩の弟さんだけあるね!!かわい〜。』
と先輩女子に言われたこともあった。
俺はその様な周りに強い影響を及ぼす兄を持っていることを誇りに思っていた。
当時の俺は兄をすごく尊敬していたのだ。
高校卒業後兄はスポーツ推薦で大学へ進学した。
大学4年間サッカーを続けたが、プロを目指すことはせず海外旅行が好きだった兄は海外赴任を狙ってなのか知らないが商社に就職した。
海外赴任の可能性はあったが、兄は生前、失踪するまでの約2年半の間、日本に勤めていて結局海外赴任することはなかった。
就職直後、兄には佳奈さんという彼女ができた。
兄は面食いではなかったが、かなりの美人だったので初めて紹介された時はちょっとビビった。
モデル体型みたいな感じで目鼻立ちくっきり。髪はショートカットでサラサラ。
俺の第一印象は美人だが、マネキンみたいに無表情なのでちょっと近寄りがたいタイプかも、という感じ。
詳しくは知らないが大学で知り合って、就職後に付き合いだしたらしい。
兄が就職して1年後、衝撃的なことが起きた。
兄がいきなり佳奈さんと結婚すると言い出したのだ。
23,4歳での結婚が早いか遅いかと言われるとよく分からないが、
兄の口から
『俺、結婚しようと思う。』
と、夕飯を食べながら言われた時は、家族全員凍った。
兄がそんなこと言うとは誰しもが思わなかった。
兄は若い頃から異様にモテたが、あまり多くの恋人を作らなかった。
なので彼はそういう恋とか結婚とかの類にあまり興味がないのだろうと家族全員が思っていたのだ。
そういう先入観があったのでとにかく彼の口から出た”結婚”の2文字は違和感があったのと、とにかく衝撃的だった。
半年後、兄は本当に結婚した。佳奈さんのことがよほど好きだったのだろうか。
結婚して1年後、さらに衝撃的なことが起きた。
既に兄は実家を出て、佳奈さんとマンションで2人暮らしをしていたが、
仕事帰りの20時くらいに”話がある”ということで実家にいきなり来たのだった。
その日佳奈さんは、仕事である会計事務所のアシスタントの業務が伸びて実家には来ず、兄が1人で来た。
話の内容は突拍子のないものであった。
真面目な兄が突如、会社を休んで一定期間アメリカに行くと言い出したのだ。
確かに海外赴任を希望していた兄だったが、会社を休んで仕事外で行くとはどういうことなのか?
親父・お袋ももそうだったが、俺もそれなりに真面目な兄が働き過ぎで遂におかしくなっちゃったのか?とか思い始めたので本人に
『兄貴!佳奈さんには言ってんのかよ!?』
と聞いたところ、
『佳奈には言ってある.....。』
としか言わなかった。
そんな謎のことを言い出した兄だったが、その翌週にはいつ帰ってくるかも俺たちに伝えないまま、本当に1人でアメリカに経ってしまった。それが半年前の話だ......。
更にその1ヶ月後、連絡が一切取れなくなった。
連絡が取れない=何かがあったという訳ではないが、そもそも出て行った理由がよくわからなかったので
佳奈さんは相当に動揺している様子だった。
佳奈さん曰く、海外での行方不明者を探すのは困難を極めるらしく、外務省経由で大使館に確認してもらったりもしたらしいが、本人の宿泊先や行き先が全くわからなかったのでまともに相手にしてもらえなかったらしい。
佳奈さんは数日後に念のため国内での捜索願を提出した。
そこからは何の音沙汰もなかったが、例の電話を俺が受けたことで兄の”死亡”が確定してしまったのだ。
本来、第一報は捜索願を提出した本人である佳奈さんに行くはずだったが、彼女が勤務中で連絡が取れなかった為代理の連絡先である俺の番号に掛かってきたのだった。




