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シスコン姉君、進軍す  作者: 蕾々虎々
七難八苦の記念日
2/13

妹が可愛すぎて辛い -リリ-

2/28:文章表現見直ししました

 (ハァ…可愛い…)


 思わず溜息(ためいき)が漏れてしまった。


 だって、仕方ないのだ。


 全てはそう、天上(てん)から舞い降りた天使(てんし)(ごと)純真無垢(せいそ)可憐(かれん)超絶(ちょうぜつ)可愛い妹を持ってしまった姉の宿命(さだめ)なのだ。


 そんなことを考えつつ、その晴れ姿を撮影する手は決して止めない。


 (父上と母上にも頼まれてるし)


 大義名分(たいぎ)を振りかざし、無心(ほんのう)でシャッターを連打する。

 この日の為にわざわざ最新型の(いい)カメラを新調したのだ。


 (だから今日に限って撮り惜しみはしない……。妹の大事な進学式の(せいちょう)記録だからな!)


 そう、今日はリリの妹であるリディが高等部へと進学する、大事な記念日なのだ。


 リリとリディが通うアルナ・ビエラ魔法学園は一貫校であり、小等部、中等部、高等部からなる。


 アルナ・ビエラでは小等部から中等部、中等部から高等部といった具合に部が上がる学年に対し、毎年盛大な進学式が執り行われる。

 尚、小等部に入学する際は入学式である。


 入学式、及び進学式は一貫校でならではの都合で、家族同士がお互いの式に参列出来るよう、学部毎にそれぞれ別の日に式を執り行う仕来りとなっている。


 また、王都アルナに位置するこの学園は世界有数の名門校としても名高く、その顔とも云われるこの三つの式典は、祝日として制定されているほど。


 (今年はリディ以外の妹達の式は無いし、その分目一杯祝わねば!)


 そんなわけで、式に参加するとあって朝から張り切ってお洒落(しゃれ)をしていたリディを、朝からずっと見守っているリリであった。


 今日のリディは清潔感(せいけつかん)のある無地白のブラウスに、ややベージュがかった白を基調にしつつ、華美(かび)にならない程度に金色の刺繍(ししゅう)(ほどこ)された半袖丈のブレザーを着用している。

 下半身は暗めの紺をベースとしたチェック柄のスカートに黒のオーバーニーソックス。

 腰の手前で切り揃えられたライトブラウンのロングヘアはハーフアップにしてあり、その境目にライトグレーのリボンを飾り付けシンプルに纏められている。

 結論:可愛い(さいこう)


 (こんな愛くるしい少女が街を歩いていたら野蛮な奴らがいつ手を出すとも限らない。しっかり見守っておかないと)


 そんなことを考えながら、明らかに不審者の(ヤバい)様相で妹を追いかけるリリ。


 余談ではあるが、式に参列するリリも同じ制服を着用している。


 妹の一挙手一投足(ささいなうごき)に対して器用に頬を緩めながら、そういうからくり細工かの(ごと)く無心で写真を撮り続ける。


 が、ふと、その面持ちを唐突(きゅう)に険しくする。


 (リディ)の可愛さに色ボケしつつも一切警戒を怠らなかったその耳が、その変調(いへん)を感じ取っていた。


 (気のせいではない。(かす)かな、悲鳴(ひめい))


 それは建物と建物の隙間に身を隠すように(たたず)んでいたリリと真っすぐ目的地へと向かうリディの目線。その、更に先から聞こえてきた。


 ほどなくして耳に飛び込んできたのは、明らかな悲鳴。そして、異常にけたたましい馬蹄(ばてい)の音。


 それは直ぐに、視覚でも確認することが出来た。


 明らかに暴走(ぼうそう)しているであろう、猛然(もうぜん)と突き進む二頭立ての馬車。

 その尋常(じんじょう)ならざる速度を前に、命からがらといった様子で道の端へと逃げ込み、時には転がるようにして逃げ惑う人々。


 そして見えてしまった。


 慌てふためきながら逃げ惑う男。その腕が当たってしまい、道の中心で倒れ込む妹の姿。


 そして、無情にも迫り来る暴走馬車(きょうい)


 その光景を前にして、頭に血が昇る。それに相反して頭が冷える。


 リリは知っていた。


 感情に振り回されることに意味など無いことを。


 感情を従えてこそ、妹を、家族を、友人を、守ることが叶うのだと。


 だから、イメージする。


 この燃え滾る(にえる)ような熱が、全身へと駆け巡るよう。骨を溶かし、我が身を固める鎧となるよう。肉を燃やし、無限の動力となるよう。


 大事な人を守る、無敵の盾となるよう。


 彼女を見ている者がいれば腰を抜かしただろう。


 その周囲が風の揺らぎを可視化した(うつしだす)かのように歪み出し、続けてその(きぬ)のような銀髪が根元から燃え上がるように一気に紅く染まる。


 馬車(てき)(リディ)の距離が更に詰まる。


 その瞬間、動く。


 身体を駆け巡る煮え滾るような熱を、余すことなく地面に叩きつけた。

 そのシルクのような白く(たお)やかな脚は石畳の地面を容易く踏み砕き、その身体を一瞬で送り出し、いよいよ寸前まで迫った馬車と妹の間にその身体を捻じ込む。


 地面に半身(はんみ)で倒れ込んだ妹の前に辿り着いたところで、少しばかり思案する(かんがえる)


 (妹を危険に晒した罪は大きい。始末する(ひねりつぶす)のは簡単だが……)


 チラ、と後ろを振り向く。

 (はかな)げに倒れ伏す、(てんし)の姿。


 (スプラッタなシーンを見せて万が一にもトラウマにさせる訳にはいかない!何より姉様怖いとか言われたら三十回首吊れる!)


 脊髄反射(ほんのう)で思考を終わらせると、改めて迫り来る暴走馬(がいてき)に向き直る。

 何故かいつも逃げられるが、動物は別に嫌いではない。


 なので、まずその首元に手を回し、金属製の引き手をバキメキグシャリと丁寧に握り潰す。


 それから馬体に無理な力が掛からないよう上手く勢いを殺すように気を付けつつ、そのふさふさな腹部に優しく腕を回してそっと持ち上げる。


 そして、残った荷台の部分を


 「消し飛べ……!」


 床を持ち上げるようにして、全力の気合でもって蹴り飛ばす!


 ズゴオオオオオオォォォォォォォォォォォン!!!


 盛大な音を立て、斜め前方へ吹き飛んでいく、馬車であった残骸(なにか)


 それを気にすることもなく、両腕で抱えていた馬を慎重に地面に下ろす。

 まだ興奮しているようだったが、落ち着かせるようにその目を見つめると先程までの興奮が嘘のように微動だにしなくなる。


 (こいつらも怯えていたのだろう)


 今、正に自身に対して怯えているのだとは思わず、その(たてがみ)を一度優しく撫でると、改めて後ろに目をやる。


 夢でも見たかのように呆然とこちらを見据えるリディ。


 その身体は転んだ際に若干汚れているものの、特に傷は無さそうだった。


 (良かった……)


 そのことに安心しつつ、いつまでも固い地面に腰を落としたままでは身体に悪い。


 この手で起こすどころかこのまま抱き抱えてすぐにでも医者の所まで連れて行きたい所だったが、それは()()()()()()()。だから、


 「リディーシア、立て」


 こう声を掛けるしかなかった。


 ビクッ、と一瞬身体を震わせながらゆっくりと立ち上がるリディ。

 その手足は、微かに震えている。


 (ああああぁぁぁぁぁぁ!今すぐ抱っこして連れて帰ってふかふかなソファに座らせて温かいお茶を飲ませてあげたいっっっ!!!)


 湧き上がる庇護欲(ぼせい)が顔に出ないよう、右手の爪を左腕に強く食い込ませることでどうにか気を紛らわせる。


 「お姉様……。あ、あの……あ、有難うございました」


 何度も口を開いては閉じを繰り返し、やっとの思いで言葉を紡ぐリディ。


 その言葉を聴いただけでリリの頭の中は蕩けるような幸せに包まれたが、長年培ってきたこの面の皮はそれを一切表に出さない。


 「ふん」


 返事とも言えぬ返事を素っ気なく返し、そのまま立ち去る。


 内なる修羅(あねごころ)がこの健気で愛しい妹を抱きしめてしまう前に!

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