お姉様にお任せだ -エリー-
「ん~~~~、気持ちい~~~~~!!」
そう叫びながら思いっきり身体を伸ばす。
心地良く髪を靡かせるとても気持ちの良い風と、学園の敷地どころか王都の街並みすら見通すことができる、人の営みを直に見て取れる絶景。
(やっぱここは最高だねー!さっきまで人、人、人で息苦しい所にいたから余計!)
「さーてと」
元気も目一杯補充できたし、改めて。
目を瞑る。穏やかな春風が緩やかに通り過ぎていく。その余波が、髪を撫ぜ、頬に当たり、手に絡みつくのを感じる。
(うん、絶好調!)
その身に溢れる確かな気力を感しながら、その感覚をより深く、精緻に研ぎ澄ましていく。
肌に感じる好風の源流を辿っていくように、皮膚から身体の外側へと少しずつ、少しずつその規模を広げていく。
それはまるで、自分自身が大気と一体化していくような、そんな感覚。
そして、気流と足元の建造物を感じるだけだったそれがやがて、徐々にそれ以外の物を映し出していく。
木があって、水があって、人が居て。その人がどんな姿でどんな格好で何をして何を話しているのか。その全てが手に取るように分かる。
その広さたるや、学園の広大な敷地を余すことなく埋め尽くさん程。
(普段は抑えてるけど、ここまで広げると見え過ぎでちょっと気持ち悪いんだよね~……)
そう思いながらも、眉間に皺を寄せて頑張って耐える。ここまでして何もありませんでしたって方が悲しいし!
怒涛の如く流れ込んでくる情報の暴流に目まぐるしさを覚えながら片っ端から検閲していき……いたいた鼠さん。
学園の中心に位置するこの場所からそう離れていない一棟。
その付近で、周囲を警戒しながら微かな所作だけで連携を取り合っている、一見すると普通に見える不審な三人組を捉えた。
(ふんふん。この動きからすると、目的は教職員塔かな~。とすると、生徒名簿か何かがお目当てなのかな?)
将来エリートと成り得る人材が溢れ返る名門と名高いこの学園で、その生徒達の個人情報は非常に価値が高い、らしい。
表立ってはその趣味嗜好や性格、それに家柄などを把握することで卒業後の進路の一つとしてスカウトの成功率を上げたり。
裏の目的としては、軍事的な情報資産として。
(とか言ってたけど、ま、細かいことは良く分かんないね!)
似た事例が一杯あったし、そういうのが多いぞーって仕事の前情報として聞いただけでそこに関しては全く興味も無いからね。
面倒くさいことはどうでもいいの。
可愛い妹やからかい甲斐のある姉に優しい両親、お屋敷に勤める皆が安全に暮らせるように、ちょっとだけ便利で珍しい力を使えるってことでお仕事してるだけだから。
その居場所を特定したまま、広げていた領域を徐々に収め必要な分だけの探知に絞る。
そうして余裕を確保した所で、お仕事も一区切り。
(私のお役目はここまで~。後のことは頼れる方のお姉様にお任せだ~、っと)
鼠の動向を追う眼は切らず、一旦呼吸を整える。
そして、一人きりのこの場所で、雲一つ無い青空に向けて努めて平坦に声を出した。
「リーネリーシェ様」